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創作デブとガリ以外は読むな!5

「あの、山西さん。俺、パンケーキおかわりしたいんですけど、ちょっと行ってきてもいいっすか?」デブがこの場の雰囲気を和らげようとしたのか、本当に腹が減ったのかよくわからないが、唐突に言った。

「お前、まだ食うのか?」ガリが驚くのも無理はない。既に2皿食べているのだ。

「まぁいいじゃないか。俺も買いに行くよ。うまそうだしな。ガリは?」山西の体は太っているわけではないのだが、大きい。身長は190㎝を超えていて、体重は110㎏ある。フットボールこそしていないが、まだトレーニングはしているそうだ。

「俺はコーヒーをおかわりします。俺も行きます」ウエイトレスがいる店ではない。客がレジで買ったものを自らテーブルに持っていく形式の店だ。

「ホットコーヒー一つ。店内で飲みます」とガリが注文した。デブと山西はパンケーキを既に注文し、横で出来上がるのを待っていた。

「ホットにしますか?アイスにしますか?」と店員は聞いてくる。ガリとそれほど年が離れていない若い店員だ。違和感を覚えたが、『新人だろうな。仕方がないな』とガリは思いながら再び「ホットで」と答えた。

「店内でお召し上がりですか?」その何気ない言葉は、ガリを苛立たせるには十分すぎる破壊力があった。

「いや、だからホットコーヒー1つを店内で」ガリが隣を見るとデブと山西が笑っていた。そんな二人の姿を見ているとガリは現役の頃を思いだした。くだらない事でもみんなで笑っていたころが、遠い過去のように思えた。

「さっきの店員やばいな。学生かな?」デブが嬉しそうに言ってきた。

「そうだとしても、あれはないな。マニュアル通りにしかできない奴はやべーな」ガリもデブにつられてテンションが上がった。

「ただ、ああいうのは珍しい事ではないぞ」山西も笑いながら話し始めた。

「俺の学校の新任の教師、お前らと同じ年の奴だが、あんな感じだ」山西は今年、他校から校長に赴任したので、採用面接の過程に関わっていない。俺が面接官だったら絶対に落としていたという顔をしている。

「お前らも気を付けろよ。そういう俺も、世代的にはおまえらと同じだ。テレビやインターネットが当たり前の環境で育つと、画面からの情報で満足する事が多いんだ」

「どういう事ですか?」ガリには山西が言いたいことがよくわからない。

「例えば、このパンケーキの味はどうだ?お前にわかるか?」当たり前だとガリは思った。パンケーキの上には渦巻いた生クリームが乗っている。その周辺には色のついたソースと、とりあえず置いてみましたという感じのベリーが転がっている。

「まぁ、俺はあまり食べないですけど、大体の味はわかりますよ」

一日延ばしは時の盗人、明日は明日…… あっ、ありがとうございます!