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俺の家庭内の問題はこんな事

 反抗的な気持ちが俺の心に喰い込んで、ガラガラと大声でどなり立ててしまった。威圧され、恐縮し、抑圧されていた事が地盤となり、俺はキレてしまったのだ。誰も何も言葉を発しない。今まで俺に注意していたババァの小言もプッつりと切れてしまった。
 調子よく跳ね上ったガキの言葉だとババァは白けているのだろうか。今まで「屈従」しか知らなかったガキが突然キレるのは、ババァの中では想定内だったのか。ババァに戸惑うような素振りはない。ただ俺を何とも言えない目で見つめている。俺は言葉を失っていた。ババァを睨みつけ、歯を喰いしばり、頭には血が上っていても、「どのように言い訳すべきか」とすぐに次の反応が返せない。そのツケは自分でも気が付かない内に俺の両目から涙となって溢れてきた。
 何も言い返さずにじっとこちらを見据えるババァの視線に圧倒されていた。これほどの視線で人を射竦めたりできるものなのか。
「この馬鹿者!」突然ババァが怒鳴った。今まで聞いたことのない声だ。
「お前は、なんだ!  大人を舐めているのか?」ババァの迫力に俺は怯えていた。全身全霊の勢いで怒鳴られて、身体が竦むほど萎縮してしまった。
「お前なんか、もう知らん!  勝手にしろ!」そう叫ぶとババァは俺に背を向けた。俺は何も言えずにただ立ち尽くしていた。そして、そのままババァは部屋から出て行った。
 こっちだって知るかって感じだが、俺は自分の弱さを露呈してしまったことが悔しく、寂しくもあった。誰かに頼りたい、誰かを頼る方法も分からずにただ孤独だった。俺は膝を抱えて座っていた。本当に孤独だった。
 その翌日からババァは俺を起こしに来なくなった。それはそうだ。起こしに来るわけがない。空腹と疲れで身体がだるいのもあったが、それ以上にババァが起こしに来てくれない寂しさと不安が俺を布団から引き剝がせなかったのだ。
 俺は布団から出られず、ただ天井を眺めていた。そして、そのまま眠ってしまった。
 次に目を覚ましたのは夜だった。
「おい!  いつまで寝ているんだ!」とババァの声がする。俺は飛び起き、部屋を飛び出して階段を駆け降りた。
「まったく、早く来い」
 俺はババァの後ろをついて行った。そのままキッチンに入るように促される。テーブルの上には食事が用意されていた。俺が来るのを待ちながらババァは食事の準備をしていたようだ。それを想像しただけでまた涙が溢れそうになる。
「さっさと座って食え!」
 俺は言われるままに椅子に座り、用意された食事をガツガツとかき込む。俺の目からはまた涙が溢れてきた。
「まったく、お前は本当に馬鹿だな。六十にもなって」とババアが言ったのだ。俺の歳を知っているババァにひきかえ、俺はとっくの昔にババァの歳を数えなくなっていた。

一日延ばしは時の盗人、明日は明日…… あっ、ありがとうございます!