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医薬部外音楽向精神薬

[6829文字]
音波を使って確立された精神医療というのは未だないと聞いています。
そもそもそんなアプローチに意味があるかどうかは分かりませんが。
現在利用されている音波のほとんどは超音波という非可聴域のものだそうで、
知らなかったのですが塗装やメッキ、ハンダ着け、切断、穴あけ、研磨、変形など、
音波は割と工業用の分野で普通に活躍しているようなのです。
眼鏡のガラス部分を水に浸けてビ~ンって磨いたりするのも超音波ですね。
人体に関係してるのはマッサージ機なんかも超音波のものがあります。
胎児検査などで活躍するエコーなんかは有名な超音波検査器です。
その他結石に超音波を照射して砕いたりも出来ます。
こう考えると音というのは優しかったり強かったり、凄いですよね。

これらは超音波と言われてる聴こえない音の事です。
ちゃんと書くなら超音波じゃなく超可聴音波ですね。
僕が書きたいのはこの超音波じゃなく、
やはり可聴域の音であり、
音楽の音の話です。
音楽の音について昔からずっと不思議に思っている事や、
答えが出せてないまま今まで放置していたことを、
とにかく書き並べたいと思います。
では基本の辺りから。

音は波です。
単位はHz(ヘルツ)で、1Hzは1秒間に1波という意味です。
波が細かいと高い音、波が大きいと低い音として聴こえます。
440Hzの音は音楽で言う所のラの高さの音です。
ギターではチューニングの基音にされたりする音ですよね。
さてこの440Hzに554.365Hzの音を混ぜてみます。
同時に2音出ている状態です。
どんな風に聴こえると思います?
実はこの2音は大変明るい音でハモリます。
この554.365Hzというのは鍵盤上ではド#の音です。
こんなに周波数が近い波長を同時にぶつけて、
何故きれいに聞こえるんでしょうね、不思議です。

では同じラでも1オクターブ下のラを鳴らし、
ド#も1オクターブ下を鳴らします。
当然前者同様きれいにハモります。
しかしこの低い方のラは220Hzでド#は277.183です。
前者440Hzと554.365Hzの差は114.365Hzで、
後者220Hzと277.183Hzの差は57.183Hzです。
全然違うのですよ。
しかも低いラと高いド#もきちんとハモるのです。
どうして??なぜ??
でもこれは数学的には軽く説明できます。
純正律の周波数は簡単に算出できるのです。

計算できるほど整然としている音階周波数ですが、
同時に鳴らして何故きれいにハモって聴こえるのでしょうね。
2音同時はきっと波形は混ざり合い凄く複雑になると思うのです。
不思議です。
聴感的にドとミならキレイにハモりますけど、
ドと̪̪シは半音しか違いませんから、
さすがにきれいにハモっては聴こえません。
ところがこれにミとソを加えド、ミ、ソ、シと4和音で鳴らし、
より波形を複雑にするとこれまた不思議、
音感的にはアンニュイに美しくハモって聴こえるのです。
これはCメジャーセブンというコードですけど、
単発で聴く場合2音より4音の方がキレイに聴こえます。
楽曲の中の場合はミとシだけでも雰囲気が作れたりしますよ。

アンニュイな響きと言いましたが、
和音の響きを聴いて雰囲気を聴き分けるって、
よく考えてみたら凄くないですか?
しかも大きな個人差なく皆似たような感じで受け取るのです。
凄い事だと思うし、すごく不思議に思います。
何故メジャーセブンがアンニュイなのでしょう。
これもさっぱり分かりません。

メジャーセブンみたいな複雑なコードじゃなくても、
コードのメジャーとマイナーで全然違って聴こえます。
ドミソのミをフラットにするだけで、
どうしてこんなにも雰囲気が変わるのでしょう。
そもそも何故メジャーコードは明るく聴こえ、
マイナーコードは暗く悲しく聴こえるのでしょう。
何故周波数の混ざり合いで出来た音波を聴いて、
明るいとか暗いとか人の感情の琴線に触れるのでしょう。
不思議じゃないですか?
くぐもった音とか乾いた金属音とかの音質の事ならまだしも、
音質がどうであれ和音が明るい感じとか暗い感じとか、
考えれば考えるほど不思議に思います。
百歩譲って琴線に触れるものであるとしたとしても、
マイナーを聞いて明るい気分になってもいいでしょ?
逆だっていいじゃないですか。
でも絶対にメジャーは明るくマイナーは暗いんです。

これは性別や年齢、人種、文化や生い立ち等とは関係なく、
人間なら皆必ずそう聴こえてしまうのです。
生物学的にそうなっているという他ないのでしょうけど、
未だこれはが何故なのか誰も解明できてないんじゃないでしょうか。
解明出来たらノーベルかイグノーベルか分かりませんが、
きっと候補に挙がりますよ。(挙がらねぇか…)
でもそのくらい僕はこれを不思議に感じています。

つまりメジャーコードを聴かせれば、
必ず人間の心理は明るいと捉える訳ですから、
これは音波による物理作用なんじゃないかと思ったりします。
懐中電灯で光を当てたところは明るくなり、
影を作ればそこは暗くなる、
そのくらい物理的にしっかりした現象なんじゃないかと思うのです。
何故かなのか誰か証明してください。

同じ生き物として例えば動物はどうかってことです。
動物にも人間に似た耳や脳がありそこで音を判断しています。
いかんせん動物は話が出来ないですから、
その感覚を探るのは難しいんですが、
なんとスコットランドの動物愛護団体が研究をしていました。
ある犬にレゲエとソフトロックを聴かせた時にだけ、
非常にポジティブな行動を示したというのです。
具体的な方法や楽曲は分かりませんが、
レゲエもソフトロックも明るい感じがしますね。
そのワンコは明るい曲が好きだったのでしょう。
なんかワンコらしくて似合ってます。
また乳牛を飼育するある酪農家が、
牛舎でクラッシックを流すと一定の搾乳量増加が見られた、
という報告をしているのはとても有名です。

しかし本犬や本牛に直接聞いたわけじゃないので、
本当の所は今ひとつ分かりません。
でも音楽の効能が動物も人間も同じだというなら、
リズムについてはちょっと違う気もします。
軽快なリズムについ手足を動かしてしまう事は、
人間なら誰しも経験していますが、
僕は未だかつてリズムに乗っている動物を見た事がありません。
あえて近かったのは、
オウムがヘッドバンキングしてる動画は見た事がありますが、
それが本当に音楽のリズムに乗っていたのかどうか眉唾ものです。

更に音楽や人のポジティブな言葉を聴かせた植物は、
そうでない植物と比べ成長が良い、
というのもどこかで聴いた事がありますが、
この辺になると音波ではなく言葉も入って来て、
なにか怪しい都市伝説的な感じになってしまいます。
チンパンジーやオラウータンなど人間に近しい動物、
ついでにサボテンを筆頭にした植物などと音楽の親和性を、
何処かの大学でしっかり研究してもらいたいものです。
もし人間のみが音楽に親和性を持てるとしたら、
人間のルーツって地球じゃないんじゃないか?!
ぐらい僕は疑ってしまうのです。
よっぽどそっちの方が都市伝説的ですけどね。

音で生物や動物が和んだり悲しんだりする証拠があるなら、
やはり曲を作る者としてはそれは知りたいのです。
音楽理論というのが楽典という形でありますが、
この様な事から音波理論とでもいうものも、
きっとあって然るべき気がしてならないのです。
実はその一部が音楽理論にもあるのはあるのですが、
凄く抽象的な表現で説明してあり、
理論というには甚だ疑問であります。

例えばドミナント。
文章だけで実感を持ってこれを理解してもらうのは難しいのですが、
例えば…、
起立、礼、着席!の音で言う所の、礼で鳴っているコード、
これをドミナントコードと言います。
ドミナントコードはキーのコード(トニック)に戻りたくなる感じの響き、
という風に楽典に記されています。
何故、どーして戻りたくなるかはどこにも書いてません。
戻りたくなる感じになったら、それはドミナントコードだ!
という曖昧且つ断定的な表現でしか書いてません。
楽典やコードのれっきとした理論書にですよ。

昔松任谷由実さんのライブにかかわっていた人の話です。
その会場は4,000人くらい収容できる会場で、
PAチームはいつもと違い、
スーパーウーハーなるものを会場に持ち込んだそうです。
ウーハーとは低音を専門に出すスピーカーのことです。
それのスーパーですから相当重低音が出るヤツでしょうね。
これを音楽で使うのではなく、開演前、
開場した客席に向けて聴こえない程度のスパーローを、
ずっと流し続けるんだそうです。
客席も埋まって客電(客席のライト)が消えるのに合わせ、
そのスパーローの音量を次第に大きくしていきます。
そして本人登場と共に1曲目のイントロスタートでパッと消す。
これが客の興奮を非常に高める効果がある、
という話を聞いた事があります。
ちょっと分かる気がしますよね。

自然界での超低音と言えば、
津波や地震、遠雷や打ち上げ花火(自然じゃないか)で聴こえるような、
スケールの大きいものばかりです。
少なくても人間はそういった音を不安に思ったり、
興奮したりする音として認識しています。
つまりそういう音を聴くとドキドキして来るのです。
心臓のドキドキはワクワクと紙一重ですよね。
好きな人の前でしゃべれなくなる様な感じは、
正に不安なんだけどワクワクもかなりしていて、
胸はドッキドキです。
もう半世紀も前のそんなのは忘れましたけど…。
ユーミンのスタッフ陣はこれを人工的に再現させたのですね。

これってつまり音波による心理操作ではありませんか?
心理操作なんて大袈裟な言い方ですけど、
でも確かに音の作用を人の心理に利用した例だと言えるでしょう。
利用という意味ではコンビニにたむろする若者対策で、
モスキート音を利用したものも有名です。
聴力は20歳くらいで完成されあとは老化の一方をたどります。
老化が顕著なのは高音部で、10代20代には聴こえて、
残念ながら40代以上には全く聞こえない音があります。
若者にたむろして欲しくない場所でその音を流し続けるのです。
耳障りな場所にわざわざたむろする理由はありませんから、
これは意外と効果がある方法の様です。
しかしこれは心理に作用というより、
うるさいとか耳障りという意味でちょっとここの話とは違いますか。

うるさいで思い出しましたが、
以前仕事で町の雑踏や森の音を録音した事があります。
大都会を彷彿させる街角の雑踏という事で、
新宿駅南口やアルタ前で録音してみました。
録ってるときはいい感じな雑踏だなと思っていたんですが、
実際に録ったものを再生してみると想像以上にうるさいんです。
雑踏というよりフル回転操業の工場を間近で録ったような、
なんだかガチャガチャしてるだけの音になってしまいました。
マイクの向きを変えたりして何度もやってみますが、
どうやっても街の雑踏以上の騒がしさです。
そこで帰宅途中、再度西部池袋線の中村橋駅前でトライしました。
人数も車の量も新宿の1/10以下でしたが、
録れた音は大都会の雑踏そのものです。
私鉄沿線の小さなこじんまりした駅なのにです。

こういう事はよくあって、
ロケで人の喋りを録る時などは気を付けないと、
世間の音がうるさくて話が聴きとれないという事になります。
会議の録音をICレコーダーで録ると、
あんなに静かだった会議場なのに、
案外エアコンとかの環境音がザーザーガタガタと、
異常にうるさいと感じた事がありませんか。
なのに肝心の話し声は遠い。
同じ現場で直接耳で聴いた時には問題なかったのにです。
つまり人の耳というのは、
聴きたい音だけを抽出して余計な音はキャンセルしているのです。
これも不思議でたまりません。
音は最終的に全部混ざった音波になって耳に届いているのです。
まして雑踏というのは恐ろしく複雑な音波です。
その波形の中のある人の声だけを浮き立たせ、
それ以外を小さくしているという事でしょ?
もうそれってほぼ神業ですよね。

ひとつ自慢します。
1990年代、僕はカラオケのオケを作る仕事もしていました。
当時はいいお金になったんです。
仕事内容を簡単に言うと、
当時制作会社さんから楽曲の入った製品の8㎝CD、
またはカセットテープ(懐かしい!)などが送られてきて、
これを聴いてスコア譜(各楽器パートの譜面)を起こし、
音を似させて歌だけがないカラオケを本物そっくりに作る、
という仕事です。
通常ドラムパーカッションだけでも10~20音が鳴っています。
金管楽器や弦楽器、当然ギターやシンセも入ってて、
その音がスピーカーから同時に出てきます。
これを耳で聴いて先ずは曲全体のコードを解明します。
それから鳴っている楽器すべてを抽出し、
各楽器が何をどう演奏していて、
それらの楽器にどんなエフェクト効果がかかっていて、
各楽器の音量バランスがどうなってるか、
これを再現するのが仕事です。
複雑な作業ですがコツさえつかめればオイシイ仕事でした。
楽器の種類は大体限られていますから、
どんな楽器が使われているかさえ分かれば勝ったも同然。

するとアラ不思議!
ストリングスを聴いている時は、
何故か他の音が聴こえにくくなり、
ストリングスがグッと前へクローズアップされます。
誰も気付かない様な背景の遠い部分に、
小さく薄くシンセの和音が鳴っていることもよくあり、
それに気付ければ完成度は数倍上がります。
それでもう一つ思い出しました。

オーディオの世界にスーパーツイーターというものがあります。
ウーハーは低音専門のスピーカーでしたが、
このスーパーツイーターというのは超高音を出すスピーカーです。
ところがCDをかけてもこのスピーカーから音は出ません。
なぜならCDの規格から外れた高音域を出しているからです。
CDには含まれていない超高音域専用スピーカーです。
じゃあアナログ盤ならしっかり聴こえるかというと、
これもまた僕の耳では全く聴こえてきません。
ところが可聴域を出す普通のスピーカーと組み合わせると、
なんか不思議に臨場感が出るのですよ。
試しに曲の途中でスパーツイーターだけオフってみると、
おっ!なんか微妙に違うぞ!って感じになります。
オンにして耳をスーパーツイーターに近づけても、
音らしい音は全然聴こえてこないのにです。
これは可聴域ではない音波が可聴域の音波に影響を及ぼし、
より自然な状態で音が再現されているという事なんだそうです。
聴こえてないけど影響及ぼしているというのは納得です。

可聴域のものであれば人の耳は意識して聴こうとする音を、
任意に抽出して聴き出せる凄技機能を持っているのです。
また逆にユーミンのライブの様に、
音に気付けないと胸がどんなにドキドキしようが、
別な事に集中していると聴こえるものも聴こえないのでしょう。
実はこういう事はみんな日常生活の中で普通にやっていて、
自然にやれ過ぎているので逆に気付いていないのだと思うのです。
雑踏の中での日常会話や音楽鑑賞、映画の効果音等々、
みんな凄技の耳で聴き分けているんだと思いますよ。
人の耳の分解能力が一体どうなっているのか、
科学的にその辺はさっぱり分かりませんが、
凄い能力だということだけは言えると思いますよね。

聴き分けて、感情がゆすぶられて、心拍まで変化して、
音波は色々人体や精神に作用しているように思います。
それを総合的に意図してやっているのが音楽なんじゃないのかなと。
人の耳で聴こえる周波数の範囲を網羅する音楽は、
いわば分厚い音波の濁流の様なものかも知れません。
音楽を聴いて涙したり元気が出たりするのは、
絶対に歌詞の内容だけではないはずです。
逆に人の感情を乗せた音というのもある筈で、
それが顕著なのはボーカルでしょうね。
表情も豊かに熱く歌えばそういった声が出ます。
そういった声はその音だけを聴いても十分に感情が伝わってきます。
楽器も同様に感情豊かに表現された音は、
人の耳に届いた瞬間に解釈され感情に直結します。

和音の美しさや明るさ哀しさ不思議さ怪しさ気持ち悪さ気持ち良さ。
リズムの疾走感や重さ軽快さ深さ詰まった感じ緩い感じ焦る感じ。
メロディーの美しさ怖さ哀しさ辛さ明るさ元気な感じ儚さ。
そこに歌詞が具体的に何かを指して親近感を更に増せば、
人の心理や精神に効力がないはずがないじゃないですか。
こうして音楽は音波となって、
人の心を日常の外へと連れ出します。
これって薬局に売ってる変な薬よりも、
よっぽど体や心に効いてるってことじゃないですか?
しかも薬の様に飲んだりせず、
少し離れた人に触れたりもせず、
まるで光線銃の様に心を打ち抜くのです。
いや、全ての音楽が人の心を打ちぬく訳じゃないですけど、
少なくても僕はこれまでに何度も音楽で心を打ちぬかれています。

以前よりずっと思っていた音の不思議を書き並べました。
音の不思議を共有できましたかね。
心とつながってる音は、ホント奥が深いです。
今後も正しく音楽を処方したいと思います。