魔法を録る
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僕の場合です
他の方々は分かりません
僕が曲作りしていて一番「いいぞ!カッコいいぞ!」
と思えるタイミングは
実はギター1本をICレコーダーやスマホの音声メモで
簡易的に録音記録した時点です
全部じゃないけど大方がそうです
記録なのでせいぜいワンコーラス分ぐらいしかないし
歌詞もこの時点ではまだないので
ラララとかデタラメ英語で歌ってたりするものです
なので完璧な未完成状態です(妙な日本語)
思いついた曲のノリの様なものは
あっという間に揮発するので
そのノリが消えちゃう前にガガガっと
手元にあったスマホの音声メモとかに録っちゃうんです
ギター1本なので
聴感上はアレンジも何もありませんが
曲を作る人ならお分かりだと思います
本人の頭の中では既にその時点で
ドラムもシンセもブラスもストリングスも
その曲に重要な楽器は全部鳴っているのです
音声メモを再生すると勝手に脳が連動して
頭の中でそれらの楽器が一斉に鳴り始めるのです
それはもう無茶苦茶カッコいい訳で
誰がなんと言おうと世界一なんです
究極の自画自賛であります
よーし!
じゃあこれを
歌詞やらなんやら1曲にちゃんとまとめて
実際にレコーディングしよう!
ってなります
ドラムを入れます
既にこの時点で「ん?」と微かな影がよぎります
イヤイヤ気のせい気のせいと思って
気にせずベースを入れて鍵盤を入れてギター・・
「おやおや?」
あの感じを忠実にやっているつもりなのに
録った音はなんか違うんですね
録れば録るほどどんどん違ってくるんですよ
自分で
吹き込んだ音が嘲笑っててるように感じます
「ふん、そんな簡単にイメージが具現すると思うなよ!」
と言ってるように感じます
イメージ通り同じように入れているはずなのに
同じじゃない感じになっちゃうんです
そうやって音を重ねれば重ねるほど違ってきます
チクショー!
って事で
意地でもブレない様に頑張って
音声メモの雰囲気に近付ける録音をするのも
ひとつの方法ですが
経験上どうあがいても最初のイメージには全く至らず
がっかりするのがオチですね
比較的近いものになったとしても
元のイメージを超える事は絶対にありません
もうひとつ
方法があります
録音をしていると音の方から
「ほら、こういうのもいいだろ?」
と言ってるような
なかなかいい感じの音になっちゃう時があるんです
意図せずなっちゃうのです
これはまったく予想も予定もしなかった偶然です
この「いい」というのは
最初に描いたイメージの「いい」とは
またちょっと別の「いい」なのです
その新しい「いい」を許容する方法です
この場合他の音も新しい「いい」方向に合わせます
録ったサウンドの雰囲気を感じながら
そしてまた次の音を重ねるのですから
「いい」に決まってます
言うなれば肩の力も入っておらず
音に無理が無いのでしょうね
結果オーライというか
最初の
ギター1本記録が一番いいと思っているのですが
これを他の誰かが聴く事はありません
聴かせません 絶対
聴いたところで間違いなくいいとは思わないでしょう
なので誰も知らない訳です
後者の録り方だと最初のイメージとは違うけど
結果オーライのいい感じな曲が出来上がります
聴者はコレしか聴かない訳ですから
これはこれでまったく問題ないでしょ
ひとつ
ここで言っておかなければならないのは
後者が最初のイメージと違うと言っても
まったくジャンルも雰囲気も一変するほどの差はありません
僕以外の人が聴けばギター1本録音に忠実だと思うレベルです
それだけ最初に脳内で聴こえていた音は
カッコ良く でも再現性がない訳です
何故
再現が出来なかったのかというと
明らかなのは実音ではなく
あくまで脳内で生成されたイメージだったからでしょう
頭の中で鳴っているイメージの音を
譜面やデータ 演奏の実音にした時
ズレが生じるのは当然です
イメージは実音以上に盛られています
カッコいいという魔法がかかっているのです
これに近付ける事はもちろんできますが
同じ以上には絶対出来ません
どう頑張ってもこの魔法を実音にする事はできないのです
しかし
録り音に合わす方法は
録っている最中に魔法が起きます
演奏者も二度と弾けませんと言うような
極めてミラクルな演奏が録れる事があります
気分が乗るとこれが割とちょいちょい起きます
この場合魔法がちゃんと音として記録されるのです
このミラクルに合わせて更に音を重ねる
するとまたミラクルが起きて
魔法のかかった音がどんどん録れる
結果オーライなのです
もっともその代わりに録っている場所や雰囲気
録る前後の会話や態度が適切である事が
とても重要になるのかもしれません
それって音楽を超えてより人間的で
よりアーティスティックな感じがします
どっち
がいいかは好みや場合によりけりでしょうね
落としどころが決まっている仕事の場合は
魔法を諦めて頑張るしかないですし
誰にも咎められず自由にやるなら後者もいいでしょう
しかし後者は一定の実力と人間性が必要かもしれませんね
僕が仕事でやっていた時はもちろん前者でしたが
今は遊びでやっているので後者です
実力もなく人間性も未熟なんですけどね
「なるほど、売れたアーティストたちというのは
こういう作業の仕方が出来るんだな」と
アマチュアに戻って気づいたことの一つです
きっと
ベストはデモ音源を録る勢いで
本番1発録りをするのがいいのでしょうけど
弾き語りじゃない限り
ひとりでアンサンブルを録るのは不可能ですからね
複数のミュージシャンたちと集まり
しかもその彼らは高度の技術を擁している必要があり
そして全員の音楽性もピタッと合って
分かち合える価値観と性格も合う必要があるでしょう
より音楽性と人間性の高さが必要になるという事でしょうか
そう考えると音楽をするって事や
曲を生み出すって事は大変な作業なんですよね
もう苦行行脚の棘の道であります
だから皆バンド内で揉めながらも長年頑張るのかなあ
まったく音楽は1日にしてならずであります