金木犀と電波時計
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実家の壁掛け時計が、
電波時計のくせに時間が狂い始めたので、
新しいものに買い替えた。
その狂った時計を外して裏を見たら、
「祝百才 1999.11.13 贈孫 松井昌平」
と書いてあった。
そうだっけ?
婆ちゃんはその5年後に亡くなり、
時計だけが16年動いていたという事を思うと、
ちょっと捨てにくいと今年84歳の母が言う。
振り子の古時計でもないし、
婆ちゃんが生まれた時に買って来たもんでもないし、
液晶のデジタル電波時計なので雰囲気もクソもないのだけど、
手動で時間を合わせれば、
まだしばらくはざっくりした時間を教えてくれそうだ。
脱衣所に時計が欲しいと母が言うので付けたが、
湿気で遅かれ早かれダメになるだろう。
そうやって故人の生きた証は少しずつ消えていくが、
これを外す時、こうして脱衣所に付けた経緯を思い出せば、
婆ちゃんと、また少し歳をとった母の記憶の時計ということになり、
三度なんとか復活させてトイレとかの時計になるのだろうか。
庭にある遅咲きの金木犀が今満開だ。
この金木犀は婆ちゃんが生まれた時に植えたものを、
嫁入りした時に株分けしてこの地に植えたんだとか。
樹齢が120年以上経つという事だ。
写真の通り花が咲いて香りがたてば金木犀だとわかるが、
そうでなければこれが金木犀だとは気づけないほどでかい。
薄情な孫は婆ちゃんの誕生日を覚えていない。
しかし時計の裏に11月13日とあるのできっと誕生日なのだろう。
秋になれば毎年未だに婆ちゃんの誕生日が間近だと告げる花が咲く。
そう仕組んだのは婆ちゃんの誕生を喜んだ曽祖母か曾祖父か。
その思惑は大成功だということを伝えてやりたい。
はて、時計の裏のこの字は誰の字だろうか??