アリスの秘密の世界(ハロウィンパニック前編)
「さあ、アリス、行こう」
「さあ行こうって言ったって・・・」
アリスは呆れたように白兎を睨みました。
「この間呼ばないでって言ってから一週間もたってなかったと思うんだけど?」
アリスの言葉に、兎はピクッと一回耳を動かしました。
「アリス、君だって、私が逆らえない事位知っているはずだ」
こういうときだけ、妙に柔らかい口調で、上目遣いで見るのよね、とアリスは首を振りながら考えました。
アリスは今日もおなじみの川辺にやって来ていました。
学校帰りに少し川辺の鳥とおしゃべりをしようと思ったのです。
けれど、川辺について腰かけたとたん、背後から、
「アリス、アリス!」
と聞きなれた囁き声が耳に入ってきたのでした。
アリスは振り返りたくありませんでした。けれどもその声は何度も諦めずに呼び掛けてくるので、仕方なく立ち上がって、後ろの茂みに歩み寄ったのです。
「今日はゆっくり川辺で過ごそうと思ってたのよ」
アリスが抗議するように言うと、茂みからヒョコッと顔を出した兎が答えました。
「私も今日はのんびりした一日になる予定だった。女王様に呼び出されさえしなければ」
兎は不機嫌そうな顔をしています。
「もう少し延ばせなかったの?」
「日にちをこれ以上?王様がおっしゃってたよ。アリスをあまり呼びつけると、アリスの世界にも支障が出るから、と。でも女王様は、それがわらわと何の関係があるって平然と言っていたよ。これ以上この私に何が言えると思う?」
アリスはその寒々しい光景が目にうかぶようでした。
本当はアリスも分かっているのです。
家来である兎が女王に意見するのは難しいと。
だからといってアリスだって、不満もたまりますし、それを女王に言うわけにもいきませんから、言いやすい兎にぶつけてしまうのでした。
ふうっ
アリスは小さくため息を1つつきました。
どう抵抗しても、結局はストレス満載な不思議の世界へ行かなければならなさそうです。
ただ、帽子屋さんに会えることを思うと素直に嬉しいと感じているのでした。
「分かったわよ」
アリスが言うと、兎は明るい顔になりました。
「良かった、分かってくれて」
「言っときますけどね、行くことに納得はしていないわよ。でもここで押し問答していても、時間はどんどん過ぎていってしまうもの。約束よ、すぐに帰らせてちょうだいね?」
「もちろん。それではこちらへ」
上機嫌な顔の兎は、茂みの奥を指差すと急ぎ足で移動していきます。
アリスも、しぶしぶ兎について茂みに入って行くと、その先に大きな兎穴を見つけました。
「ここね?」
何度か来たことのあるアリスは慣れていて、テキパキと兎穴に入りました。
「アリ!行くなら行くと伝えてくれないとはぐれるじゃないか」
兎は焦った声で言うと、すぐにアリスに続いて穴に入ってきました。
「あら、ごめんなさい。つい知った道だから」
アリスが謝ると、
「はぐれると探すのが大変だから私の側にいるんだ」
と兎はピンクの目に力を込めてアリスに念を押すように伝えました。
「分かったわ」
はぐれて1人になったら大変そうです。
アリスは兎の目を見返しながら返事をしました。
穴に落ちた二人は見慣れた穴の中をひたすら落ちていました。
アリスは行きの光景は毎回同じで見慣れていたので、退屈に思いながら落ちて行きました。
薄暗いトンネルをひたすら落下していくと、下にぼんやりと光が見えてきました。
「出口が近づいたのね」
アリスは嬉しそうに言うと、いつ落ちてもいいように全身に力を込めて受け身の体勢になりました。
光に近付いてくると、アリスの落ちる速度は少し上がって、外からもれる眩しさに目をつぶった時、トスンと地面に倒れ込みました。
落ちた所は芝生でした。
刈り込まれているので、お城の近くね、とアリスは思いました。
横では、うーん、と言いながら兎が体を起こす所でした。
アリスも体を起こしながら辺りを確認しました。
やはり、少し離れた所にお城と道、薔薇のアーチで出来た庭園の入り口が見えます。
毎回お城の側に着くことは着くのですが、場所はまちまちです。
それでも、大抵お城の近くにちゃんと出るので、アリスは安心して兎穴に飛び込むことが出来ました。
「お城についたわね。じゃあ行きましょうか」
アリスは落ちた時に背中に軽い衝撃を受けたので、背中をさすりながら兎に言いました。
「背中を打ったのか?」
兎はアリスの所へ来て尋ねました。
「少しだけだから大丈夫よ、兎さんは平気だった?」
兎がアリスの背中をまじまじと見るので、アリスは急いで聞き返しました。
「私は大丈夫だ。身軽だからね。歩けるか?」
「行けるわよ。もう痛くないから」
兎さんも、意外と心配性なのよね、とアリスは思いました。
「それなら、お城に向かおう。・・・チェシャ猫に、帽子屋への伝言を頼んでおいた」
兎は顔をしかめながら言いました。
チェシャ猫があまり好きじゃないのです。
「ありがとう、兎さん、助かるわ」アリスもそれを知っているので、感謝の気持ちを込めて微笑みました。
「私が直接行ければいいんだが、お城を許可なく離れるわけにはいかないからね。何とかあの猫を通さずに伝言する方法はないものか・・・」
兎はアリスの言葉が耳に入らないかのように顎に手を当てて悩み始めました。
「チェシャ猫さん、私は可愛いと思うのだけど・・・」
アリスが猫好きだから、余計そう思うのかもしれません。
ダイナも年を取ってしまったけれど、アリスの大事な相談相手兼友達です。
「ばかな!あれが可愛いなんて、一ミリも思わないね!・・・他に方法がないか後で考えるとして、お城へ行こうか」
「ええ」
アリスはこれ以上白兎を刺激しないように、黙って兎の後に続きました。
お城までは距離もそう遠くなく、すぐに門の前にたどり着きました。
「アリ!」
門に入ろうとした所で、門の横から帽子屋が駆け寄ってきました。
「帽子屋さん!」
アリスが驚いている間もなく、帽子屋はアリスに強く抱きつくと、唇にキスを落としました。
「・・・帽子屋さん」
アリスは、キスをした後でジッと見つめてくる帽子屋にドキドキしながら呼び掛けました。
「アリス。逢いたかった!」
その言葉を聞くと、胸の辺りがふわりと暖かくなります。
「・・・私も逢いたかったわ」
アリスは頬を染めながらそう答えました。
兎はいつも通りジトーッと呆れたような眼差しでアリス達を見ています。
「でも、いきなりその・・・抱きつかれるとびっくりするわ」
兎の視線が痛くて、アリスは強い抱擁に耐えながらそう言うと、帽子屋は困惑したように言いました。
「なぜそんなことを言う?アリスを見つけたら喜びのあまり抱き締めたくなっても当然だろう。アリスを愛しているのだから」
目の前でこんなことを言われて、アリスの顔は更に真っ赤になっていきます。
「えっ・・・もちろん私もだけど・・・」
アリスが頬に手を当てて返事を返そうとすると、
「失礼だが、その会話はいつまで続くのかな?私はここで最後まで聞いてなきゃいけないのか?」
白兎が業を煮やしたように口を挟みました。
アリスは今の帽子屋のセリフも白兎に聞かれていたことを思い出して、恥ずかしさのあまり、激しく頬に両手を押し当てました。
「す、すぐにお城に向かいましょう。帽子屋さん、終わるまでいつものように待っていてくれる?」
アリスがそう頼んだ時、
リンゴーン、リンゴーン、と時の鐘がなりました。
「日付が変わったのね」
アリスはお城の建物の上に掛けられている大きな時計を見上げました。
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アリスの住む国と不思議の国の時間の流れは異なっています。
不思議の世界の一日の始まりは時計の鐘で知らされるそうですが、いつ鳴るか正確には分からないそうなのです。
時間もきまぐれで、早くなったり、遅くなったりなのです。
時計の意味も鐘を鳴らす意味もあるかしら?とアリスは思います。
「時間が正確じゃないって不便よね」
アリスは帽子屋に話しかけましたが、さっきまでアリスを抱きしめていた帽子屋の姿がありません。
「あれ?帽子屋さん?」
アリスが不思議に思いながら呼び掛けると、後ろから白兎の声がしました。
「・・・アリス、落ち着いて聞いてくれないか」
「え?」
振り返ったアリスの目の前には男の人が立っていました。
不思議の国ではほとんど見かけないアリスと同じ人間のように見えます。
淡い淡いミルクティーのような色のさらさらした髪の毛の、端正な顔立の男性。
珍しい薄ピンクの目に、服装はどこか兎さんと似ているような・・・。
アリスはそう思いながら更に確認していきます。
スーツにベスト、ズボンに、懐中時計を胸ポケットにいれている所も、白兎の格好とそっくりでした。
ま、まさか・・・アリスは頭に浮かんだ可能性を信じられないながらも言葉に出しました。
「兎・・・さんなの?」
「そうだ。迂闊だった、イースターはもう過ぎたし・・・今日はハロウィンだったのか」
兎は頭をかきながら言いました。
「ハロウィン?ハロウィンが関係あるの?」
アリスは、確かに今日はハロウィンの日だったわ、と思いながら答えました。
アリスの学校の生徒たちも、家族でパーティーをすると言ってわいわいと興奮ぎみに談笑していました。
アリスの家でも夜はごちそうが並び、お祝いのパーティーが開かれます。
「ハロウィンとイースターの日は、何故かみんな違う姿に変化する。・・・一日だけだが」
「えっ!違う姿って・・・信じられない!!じゃ、じゃあ、帽子屋さんは?!」
アリスは衝撃的な話を聞いて一気に不安になりました。
帽子屋さんを必死に探し始めます。
「・・・そこじゃないか?」
兎男は地面を指差しました。
アリスが嫌な予感を覚えながら下を見ると・・・。
「本当に・・・帽子屋さんなの?」
兎男が指差した先には小さなしましまの蛇がくねくねと動いていました。
「え・・・ほ、本当に?」
アリスはその姿をしばらく凝視して固まった後で、まだ見慣れない兎男の方に向き直りました。
「そうだろう。もし虫にでも変わっているなら話は別だが。姿が変わると、だいたいの住民は家へすぐ帰って大人しくしているから、私も帽子屋の姿は知らないんだ」
「そうなの・・・」
アリスは意を決したように蛇の方に視線を移しました。
「あの、帽子屋さん?」
呼び掛けてそーっと手を伸ばします。
蛇は動かないでアリスの方をジーッと見ています。
アリスの手がもう少しで蛇に触れそうになった時・・・。
「やっぱり蛇は・・・蛇だけは苦手よっ」
と、アリスは手を引っ込めてしまいました。
「ごめんなさい、帽子屋さん。帽子屋さんなのに、触れないなんて・・・」
アリスがそう言ってその場にへたりこむと、兎男が蛇の方に近付いて、ひょいと掴んで肩に乗せました。
「私が持つからアリスは気にしないで。一日経てば治るんだから」
「・・・ええ、ありがとう、兎さん。えっと・・・帽子屋さんはお話できないのかしら?」
白兎は兎の姿の時にお話し出来たのに、とアリスは思いました。
「話は出来るはずだが・・・もしかしてアリスにこの姿を見られて恥ずかしいのかもしれない」
そうなのかしら?私が触るのためらってしまったから、傷ついているんじゃないかしら、とアリスは思いました。
「ごめんなさい、帽子屋さん。帽子屋さんの事好きなのに、私、傷つけてしまった?」
そう言いながらアリスは再びソッと手を伸ばして、蛇に触れようと試みました。
すると、蛇はスルスルっと、兎男の反対の
肩に移動してしまいました。
「怒ってるんだわ」
アリスがショックを受けていると、兎男が
近寄ってきてアリスの頭をポンポンと軽くなでました。
「気にすることはない。どうせ拗ねてるだけだろう」
アリスは兎男の顔が視界一杯に広がったので、つい後退してしまいました。
兎の姿でスキンシップを取られるのとまるで違って戸惑ってしまったのです。
人間になっただけでこんなに変わるなんて!とアリスは動揺していました。
「どうした?アリス。あ、こうして見るとアリスは小さく見えるな」
兎男はまるで意識してない様子でアリスを見つめました。
「それは・・・兎さん今は身長高いもの。その姿になっても兎さん冷静よね、驚かないの?お城は大丈夫かしら。そもそも時間は不正確なのに、なぜハロウィンの日は合うのよ」
アリスは居心地の悪さをごまかすように早口で尋ねると、兎男はすぐに返答しました。
「ずっと昔からこうだから、気にならない。お城でも、そんなに騒ぎにはなってないはずだ。王様は確かワシに変わられていたな。女王様はいつもどこかへ行ってしまうから確認できていないな。この世界の時間は大抵不正確だが、イベントには調整されたように正確だ。理由は私にも分からない」
「そうなの」
と言いながらもアリスは、兎さんが人間の男の人なんて凄く奇妙だわ、と思っていました。
話していても、ぎこちなくなってしまいます。
普段は女子校で、帽子屋以外の男の人とはほとんど接触してないからでしょう。
どう接していいか分かりません。
おまけに、兎男の顔が整いすぎて、見られると落ち着かなくなってしまいます。
早く元に戻らないかしら、とアリスは思いました。
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「とりあえず、私はもう帰っていいかしら?これじゃあお城へ行ってもクローケーどころじゃないわよね」
アリスの言葉を聞いて、兎男は勢いよく首を振りました。
「いや、行かないでくれ。お城へ行って、女王様にクローケーが中止か確認しなければ。後でどんなに怒られるか」
「ええっ、女王様に報告するの?」
アリスが不満げに言うと、
「そうだ、付き合ってほしい。荒れた女王様の面倒をみるのはごめんだからね」
ふぅ、とアリスは今日何度目かのため息をつくと口を開きました。
「分かった、分かったわよ。それじゃあ向かいましょう。帽子屋さんも一緒でいいわよね?」
アリスが尋ねると、
「構わない。自分の事に精一杯でみんなへび一匹に気を払わないだろう」
兎男はそう言って、そのまま蛇を肩に乗せたまま歩き出しました。
そこで、アリス達は二人と一匹で城の門をくぐりました。
門を通過してみると、そこにはトランプ兵は誰もいませんでした。
ガランとした門の先を眺めながらアリスは兎男に話しかけました。
「誰もいないのね・・・」
「そうだな、みんな自室にこもったんじゃないか。自分の姿が気に入らない者もあるだろうし」
アリスはそう聞いて、ちらっと帽子屋ヘビを見ました。
帽子屋さんは自分の姿、どう思っているのかしら?
アリスは帽子屋ヘビの表情を確認しようとしましたが、ヘビの表情は、いまいち読み取れませんでした。
「みんな、大方は自室へ戻って行ったぞ」
その時、上空から羽ばたく音がして、黒いワシが芝生に降り立ちました。
「王様」
兎男がワシに呼び掛けました。
「王様?さっき、ワシに変わったって言ってたわね・・・」
アリスはそういうと、大きな立派なワシを眺めました。
つやつやした黒い羽に首が白い、威厳のあるワシでした。
「王様らしい、堂々とした姿ですね」
とアリスが言うと、
「ありがとう」と王様はくちばしをパクパクさせて言いました。
「王様、女王様がどこへいったか知りませんか?」
アリスが王様に尋ねると、
「あれは毎回どこかへ行ってしまうから分からないのだ。姿が見えなくなるからよっぽど小さいものに変わっているんだろうと思うが」
王様の言葉を聞いて、アリスは女王様は一体何に変わっているのか凄く気になってきました。
「じゃあ、私たちで女王様の部屋に行って確かめても構わないかしら?」
女王様の姿が気になったアリスは、いつもの恐怖も忘れて、兎男に提案しました。
「行ってみようか、いいでしょうか?王様」
アリスの言葉に、兎男は王様に許可を求めました。
帽子屋蛇は、何もアクションをおこしません。
王様は、再び羽ばたきながら言いました。
「許可しよう。では何に変わっているのか分かったら教えてくれ。それまでは空の散歩を、楽しむとしようか」
そう言って上空に浮かぶと、優雅に飛んで行ってしまいました。
「私たちも行きましょう」
アリスは兎の案内で女王様の部屋の前までやって来ました。
途中で何人かトランプの兵隊が変化した姿を見かけました。
動物に変化しているのが多く、ブタや、リス、犬などの動物が数匹佇んでいました。
兎男が女王様の行方を聞きましたが、誰も知らない様子でした。
アリス達が女王様の部屋の前で立ち止まると兎男がドアをノックしました。
「失礼します。女王様、いらっしゃいますか?」
兎男が呼び掛けても、中からは何の応答もありません。
「誰もでてこないわね」
アリスが耳を澄ましてから言うと、
「そうだな。部屋には戻られていないのかもな」
と兎男が扉をギィーっと少しだけ開けました。
「開けてもいいの?」
と聞きながらも、アリスも扉の隙間から中を伺います。
中は広々としていて、バラをモチーフにした家具や、赤い色のカーテンや、ベッド、ソファーなどが置いてあって、部屋全体がまるでバラそのものを表現しているかのように見えました。
アリスは部屋に見とれるあまり、無意識に扉を押していました。
大きな扉は半分以上開き、アリスは見とれながら引き寄せられるようにふらふらと中に入っていきました。
「アリス、女王様が中にいらっしゃるかもしれないんだぞ」
兎男が焦ったように追いかけてくると、アリスの手を引きました。
「え?」
アリスは振り向いた拍子によろけて逆に兎男の手を強く引っ張ってしまいました。
「きゃあ!」
アリスは仰向けで何とか深紅のソファーに着地しました。
ソファーは柔らかくて、アリスの体をダメージなしに受け止めてくれます。
すると、その上に兎男が倒れ込んできました。
「ひゃっ!大丈夫っ?兎さん」
アリスはびっくりして悲鳴をあげると、倒れ込んできた兎男を見つめました。
兎男はうーん、と唸ってから手で頭を押さえるので、アリスは心配になりました。
「いたた・・・ああ、大丈夫、少し打っただけだ。アリスは?怪我はないか?」
兎男は薄ピンクの瞳を近づけて、頭から手を離すとアリスの額を押さえました。
「ええ・・・大したことないわ」
と言いながら、この体勢はいけない!とアリスは思っていました。
兎の姿なら意識もしなかったでしょうが、今の兎は男の人なのです。
「う、兎さん、起き上がりたいから、降りてもらえるかしら?」
アリスが微かに顔を赤らめて言うと、兎は涼しい顔で、
「ああ、失礼」
とすぐにアリスから離れました。
「・・・あ、帽子屋さんは?」
兎男が離れてから、アリスは帽子屋ヘビが肩にいないことに気づきました。
「いないな」
兎男はしごく冷静に同意します。
「どこにいったのかしら?とばされたのかしら・・・」
アリスがきょろきょろ探していると、ソファーの下にとぐろを巻いたヘビがいるのを見つけました。
「いた!良かったわ」
アリスは胸を撫で下ろすと、兎男はソファーの下まで行って、再び帽子屋ヘビを持ち上げると、肩に乗せました。
帽子屋ヘビはシャーと口を開けて威嚇しています。
けれど、兎男は気にも止めていません。
何事もなかったかのように、アリスに向き直りました。
「女王様は・・・いないみたいだな」
兎男は辺りを見回して言いました。
「そうね、部屋には戻っていないのかしら?」
アリスは、威嚇している帽子屋ヘビを気にしながらも、兎男につられてきょろきょろと見回しました。