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1980年 あの夏の日3

 

[ ごめん迷惑だった? ]
[ 嫌なら、席かわるね? ]

突然の出来事に、啞然とする僕。
断るのも気の毒に思い
[ 別にいいけど… ]
無愛想に応える。

普段は、皆とは少し離れた席で独り食事をする僕。
女子と並んで座る光景に、周りの目は好奇心で溢れる。

皆の視線を背中に感じながらも、箸を進める。
[ 納豆苦手なんだよね〜 ]
[ 女子には、ご飯多すぎない? ]
[ たまには、ハンバーガー🍔食べたいね! ]

彼女が独りで話しているのを、頷きながら聞くだけの僕。

何故?
彼女が私に話しかける理由が、分からない。

[ どこの高校受験するの? ]
[ 彼女 いるの? ]
[ 部活 楽しかった? ]
[ ねぇねぇ、聞いてる? ]

箸を進めながらも、彼女が発する質問に答えた。
とても会話とは言えない状態が続く。

[ ごちそう様でした! ]
[ 残り少なくいから、頑張ろうー◯◯君 ]
トレイを持ち上げ、席を離れる彼女。

[ ごちそう様でした ]
僕も食事を終えてトレーを下げに行く。
管理人が、ニヤケた顔でトレイを受け取る。
皆の視線が、気になり足早に部屋へと帰る。

授業開始まで時間があるので、いつも通りラジカセから流れてくる音楽を聞いていた。

ノックの音にドアを開ける。
先生が来るには少し早い時間だった。

[ 今いい? ]
[ ◯◯君さ〜数学得意だと言ってたよね ]
[ 晩ご飯のあとに、教えてくれないかな? ]
[ …ダメかな? ]
彼女は、小柄なため自然と上目遣いになる。

僕は、その視線に耐えきれず
[ 別にいいけど… ]
彼女からは、視線を逸らして小声で応える。

[ ヤッター💓 ]
[ それでは晩ご飯の後に、お願いします ]
律儀にペコリと頭を下げた彼女。

9時になり先生が部屋に入って来た。
僕は、授業に集中出来ずにいた。
僕のそんな様子を見た先生が、教科書を閉じる。

[ ◯◯なんか上の空だな〜 ]
[ ◯◯さんの事でも考えているのか? ]
図星であった。恥ずかしさのあまり耳が赤くなる。

[ いいね〜青春だね〜 ]  ☺️微笑む先生。
[ 残り少ないから、気合入れろよ! ]
背中をバシバシと叩かれ、コクリと頷く

苦手な英語に悪戦苦闘しつつ昼食の時間になり
教科書を片付けて食堂へと向う。

ビーフカレー マカロニサラダ コンソメスープ
ヨーグルト
ヨーグルトは、苦手だった。

昼食のったトレイを受け取り、いつものように
皆とは、少し離れた席につく。

彼女が入ってきた。
今朝のように隣に来ると思い、ドキドキ💓した。

彼女はトレイを受け取ると、いつもの皆と同じ席に座り、楽しげに会話を始めたのである。

[ いただきます ]
カレー🍛を一口 口に運ぶ。スープを一口。
マカロニサラダ🥗を一口。

彼女の楽しげな会話が聞こえるたびに
何だか裏切られた感じがして一人、不機嫌になる。
[ ごちそう様でした ]

今まで苦手でも残したことが無いヨーグルトを
残したまま、トレイを下げて足早に部屋へと帰る。

午後からの授業にも、全く集中出来ずにいた。
彼女の真意がどこにあるのか?
なぜ自分なのか?
先生の話を聞きながらも、気がつくと彼女の事を
考えていた。

僕は、特に背が高い訳でもカッコいい訳でも無い。
どちらかと言えば、暗くはないが無口な何処にでもいる普通の中学三年だった。

[ 今晩の勉強断ろかな ]
[ 彼女は、僕をからかっているのかな? ]
恋愛偏差値が低過ぎる為、ネガティブゾーンに突入

ただでさえ偏差値は、高くはないのに
その上に恋愛偏差値まで低いとは…

[ どうしたの?◯◯君 ]
[ 全然 授業に集中してないじゃない 😡]

社会科の先生は、隣の寮にいる大学生のお姉さん
教員免許を取るために、勉強中だった。
実務を兼ねてここでアルバイトをしていた。
お姉さんには、比較的なんでも話せたので
今のモヤモヤした気持ちを話してみた。

[ ふ〜ん なるほどね〜 ]
[ ◯◯君さ〜  ]
[ 初恋とか人を好きになったこと今までないの? ]
[ 人を好きになる事は、理屈じゃないよ ]
[ 人を好きになるのって、そんなに難しく考えなくても、いいんじゃないの ]
[ その人の声が好き 仕草が好き 考え方が好き ]
[ そりゃ〜カッコ良ければいいけど、それが全てじゃないよ! ]
[ ◯◯さんは、きっと◯◯君の事が好きだわ〜 ]
[ 女の私が言うのだから間違いない! ]
[ さあ〜シッカリ勉強しようね! ]

先生に励まされ、授業を再開した。
その後は、彼女の事を考えずに勉強できて無事に
今日の授業は終了した。

[ ◯◯先生 ありがとー ]

[ 頑張れ少年 応援してるわよ ]
[ 青春してるわねー 私も頑張ろっと ]

夕食は17時〜18時半までで私は、18時過ぎに食堂に入る
彼女は、既にいつもの皆と同じ席にいた。

トンカツ サラダ 味噌汁 プリン🍮
いつもの離れた席に座り、一人で食べ始める。

[ 隣りいい? ]
彼女は、既に食事を終えていた。
僕の返事を、待たずに隣に座る彼女。

[ 朝の約束覚えてる? ]
[ お風呂入ってから行くね ]
[ 時間は、う〜ん 19時半にしようね ]
[ それじゃね! 約束だよ ]
出口に向かう彼女。 
こちらを振り返り、小さくバイバイ👋

あと1時間程度しかない。ノンビリしてられない。
お風呂にも入り部屋も片付けしなくては。
慌ててトンカツを頬張り味噌汁で流し込む。
少しむせながらも完食。
プリン🍮は、彼女にあげるため持ち帰る。

トレイを配膳口に下げる
調理場の奥から管理人が現れ
[ プリン🍮もう一つ、持っていきな ]
[ 頑張れよ! ]
ニヤけた管理人からプリンを受け取る。
[ ありがとうございます ]
管理人👍

プリンを持って部屋へと急ぐ。

部屋を片付けて、急いで風呂に入る。
濡れた髪を乾かすのが、もどかしく少し湿っぽいが
部屋へと戻る。

19時 10分
まだ20分もあるが、妙に落ち着かず動物園のトラの
ごとく部屋の中をウロウロと歩く。
[ 変な匂いしないかな〜 ]
窓を全開にして更に、ウチワで扇ぐ。

( コンコン )
ドアを、開けると彼女が教科書の入った大きなカバンを肩に掛けて立っていた。

[ コンバンワ 入っていい? ]
[ 狭いけど、どうぞ ]

僕の横をすり抜けて部屋へと入る。
ふわりと柑橘系の匂いが、鼻孔をくすぐる。

部屋にはイスが一つしかないので、彼女はイスに
僕は、ベットに腰掛ける。
机に教科書を広げて、勉強開始。

[ ここん所の2次方程式が、わかんない ]
( x+3 )( x−5 )=0
[  互いに掛けると0になる数字を入れる ]

[ てっことは…あっそうか! ]
[ カッコの中が0になればいいんだ ]
[ じゃ〜xは、−3と5だね ]

[ 正解! ]
[ ◯◯君 あったまいい〜 ]
[ 数学は、公式さえ覚えておけば、難しくないよ ]
[ 分からなければ、簡単な数学を当てはめるのさ ]

それからも、因数分解や平方根の問題を参考書を
見ながら解いていく。

あっという間に、消灯時間まで残りの15分
[ ねえねえ、◯◯君の下の名前なんて読むの?]

[ ◯◯と書いて◯◯◯◯ ]
[ へ〜難しいね  読めないよ ]
[ 普通に読めばリヨだよね ]
[ 女の子みたいな名前だね ]

彼女の持参したお菓子を、二人で食べながら
互いに普段の学校での様子や、好きな音楽について話す。

[ プリン🍮どーぞ ]
[ どうしたの? ]
[ 管理人がくれた ]
[ あたしプリン🍮大好き❤ ]

僕は、彼女にあげようと自分のプリンを残した事は
照れくさくて黙っていた。

[ あ〜あ もう時間だね ]
[ 楽しかったな ]
[ 明日も来ていい? ]
[ 僕で良ければ ]
[ 約束だよ! 指切りげんまん ]

彼女の細くて白い小指と、指切りげんまんする。

[ 今夜は、ありがとね ]
[ じゃ、また明日 おやすみなさい ]
[ うん、おやすみ〜 ]

彼女が去った部屋には、柑橘系の香りが
ほのかに漂う。


当時の記憶やエピソードを、思い出しながら
書いてるので時間がかかる。

今回は、ここまで。
受験合宿 も残り2日間、二人の恋の行方は…
次回 最終話です。