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香港の独立書店

はじめに

韓国フェミ文学のあと、華文ミステリが日本の外文読者に流行りつつあるが、華文トラベルライティングを選択肢に加えようと李娟の翻訳を手伝っていたが、大陸の言論環境はどんどんひどくなっていることは間違いない。それが遠からず香港にも及びそう、というのが同僚の専門家の言だが、香港で通りを見上げるとあちこちで見つかる階上書店(独立書店)に触れた自分の文章をまとめてみた。最初の「香港階上書店」にたくさん店名が出てくるが、この業態に目覚めるきっかけとなった、中環の陸羽茶室並びの神州図書はじめ、すべてデッドリンクだ。渡航できるようになったら、あきらめずに訪ね歩きたいものだが、今は台湾の独立書店なのかな。

「香港階上書店」


初出:個人ブログ (2005年11月30日 15:36)
 香港は大陸、台湾、香港の書籍がすべて手に入る中国語図書天国だが、商務印書館、中華書局、三聯書店など大手チェーンの他、賃料の手頃なビルの階上に二楼(階)書店がたくさんある。中環の陸羽茶室の並びの一軒家にあった神州図書 <http://www.sunchau.com/>? も一本山沿いの道のビルの三階に移り、晴れて?階上書店となった。しかし、この類の個性派書店が集中しているのは何と言っても旺角、それも西洋菜街だ。MTR旺角の駅を出ると下の階はほとんど電子街で、新製品のキャンペーンなど秋葉原さながらだが、上を見ると書店の看板がいくつも見つかる。ちなみに亜皆老街を渡ると魚類を中心としたペットショップ街で、自転車屋がちらほら混ざっている。ビルの看板を頼りに、番地の逆順、北は亜皆老街から南は登打士街まで歩いてみた。(カッコ内は番地)
 最初に見つかる文星図書(74-84) <http://www.mansbook.com/>? は、書店が多く入る城市中心ビルの11階にある。並びの梅馨書店(66) <http://www.plumcultivator.com/>? はエレベーターは7階で6階へ降りる。向かいのビルに華人文芸誌『今天』の代理をしていた洪葉書店(61)があったが、2005年初めに中環、銅鑼湾の店もすべて閉じたらしい。明るく座り読みもできる店内は、従来の階上書店のイメージを変えただけに残念だ。しかし同じビルの開益書店(61) <http://www.brbook.hk/>? は健在だった。楡林書店(38,42,59,62) <http://www.elmbook.com/> は通り沿いに四店舗を構えるが、本店は文星図書と同じビルに引っ越したとのこと。田園書屋(56)は老舗で、以前は華人文芸誌『傾向』の代理もしていた。楽文書店(52)は田園とは対照的に明るい内装の「洪葉系」書店だ。しばらく歩いて紫羅蘭書局(1) <http://www.violetbooks.net/>? まで来ると登打士街は目の前だ。開益、楽文は銅鑼湾の駱克道にも店舗があるので、香港サイドならそちらへ行ってもよいだろう。
 これらの書店は各店それぞれの品揃えはもちろん、さらに値段も魅力だ。たとえば楡林は為替レートに先駆け、中国元(15円)表示をそのまま香港ドル(16円)換算で販売している。まとめて買うと割引もあるので、大陸で買うのとほぼ変わらない。古書を扱っている店や、夜10時過ぎまで営業しているところもある。香港は文化砂漠と自嘲する向きもあるが、ここに麗しきオアシスがある。

「シンガポール、マレーシアの本屋のはなし」


初出:『南国新聞』2006.11.9
 今さら紙の本でもないとの向きもあろうが、クアラルンプール・ジャスコのニコニコ堂で古本を漁っていると、『オリンポスの黄昏』など、日本ではとっくに手に入らなくなった文庫本を見つけてうれしくなる。日本語の新刊書店はシンガポール、マレーシアとも紀伊國屋に止めを刺すが、シンガポールではスタンフォードロードのMPHハウスなき後、洋書、現地書を含め現地最大の書店となったようだ。マレーシアKLCC店では日本語コーナーは階が違うが、そのせいかゆっくり座り読みできて、土日の子供の居場所として人気だ。
 香港には旺角や銅鑼湾に「二楼(階)書店」という、賃料の手頃なビルの階上に居を構えた、個性的な書店がたくさんあってうらやましい。シンガポールだとオーチャードの外れ、タングリンショッピングセンターにそんな風情がある。ビル内の骨董屋で高価な古書や古地図を鑑賞するのもよいが、何と言ってもSelect Booksは外せない。東南アジア中の出版物が地域ごとに並ぶ様は圧巻だ。日本の書店も仕入れ元にしているほどで、一カ所選べと言われたら、私の場合ここになる。クアラルンプールだとマラヤ大からPJ門を出たユニバーシティ通り沿いの住宅街にあるGerakbudayaだろうか。この辺りはマラヤ大の先生も結構住んでいて、書店兼住宅の庭先で海外からのゲストを招き、学術サロンが開かれることもある。
 東南アジアの本は、私が専門とする中国語の文献に限らず、一度印刷すると増刷、再版が稀なので、どうしても古書店に頼りたくなる。しかし、それがないのだ。ペナンのチョウラスタ市場の二階に紙屑屋と見紛う古本屋、クアラルンプールは英語のペーパーバックの交換所のようなところしか見当たらない。アンパンパークのペイレスブックスやアンコープモールのブックマートあたりだが、どうも物足りない。バンサビレッジ裏のビルの二階、Silverfish Booksにも並んではいるが、会員の閲覧用で売ってくれないようだ。東南アジア音楽のCD、東南アジア映画のVCD/DVDと併せ、探しあぐねたものの一つだ。どなたかご存知ないですか?

「草根書室Grassroots Bookroom」


初出:交流文学研究 ~東南アジアへの旅~ gacco by JMOOC 反転学習(2014.11.23) 資料より
香港二階書店の影響
シンガポールにも文学に限らず、良書が集まる場が欲しい
自費出版誌の版元として70年代にスタート
70年代の実店舗は「前衛書室」
「草根」として正式に店を構えたのは1995-2014年
2014.10に一旦閉店し、このほどシンガポール、マレーシアの元常連3人がブキバト25号で新店舗開店
ノースブリッジ草根書室*最後の夜に小宴:2014.10.18

*国立図書館並びのブラスバサコンプレックス(百勝楼。書城とも)斜め向かいのノースブリッジセンター3階。2016年にはブキバト新店とは別に、草根勤務経験のある女性(陳婉菁)が同じノースブリッジセンターの同じフロアで城市書房を開いている。


「東南アジアのサイノフォン詩人たち」


初出:現代詩手帖 2021.1
(前略)なぜ東南アジアのサイノフォン作家は台湾留学組以外も大陸でなく台湾を目指すのか。台湾出版物は、大陸の簡体字という記号的な略字と異なり、繁体字という正字が使われ、装丁も確かだ。東京日本橋店まで開く誠品書店や、個人営業の独立書店など、出版文化の豊かさも見逃せない。後者は中国政府批判の「禁書」を扱い、二〇一五年に関係者失踪が報じられた香港の銅鑼湾書店同様の業態だが、現時点で大陸は競うつもりもないのだろう。

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