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ショートストーリー①

男は大学1年生。

大学正門をくぐった先にあるメインストリートは大変短いものだが、その両辺にあるサークル看板はどれも魅力あるものに映った。

しかし、男はそんな安い青春ごっこに甘んじることを断じて許さない反骨精神の塊であるので、華やかな看板には目もくれなかった。

そんな男に友人ができるはずもなく、仕方なく正門から出ると、夕酌川の近くに怪しげな集会を見つけた。

その名は「全日本下ネタ学会」という。

無益な下ネタ戦争を日常的に繰り広げ、ネット掲示板のネタにすら上がらない陳腐な組織であった。

彼らの論争の盛り上がりは、下ネタ認識論を根底から覆すABC論争が発端であった。ABCとは、愛撫(A)ベッティング(B)を施して、チャンス(C)を掴むことを指し、性交渉において自明視されてきた論理である。一般化された論理である以上、誰も疑うことが無い良論のはずだが、しかし、これに対して今まさに異論を唱える連中が出てきているため、あたりは騒然としている。

論壇に居座るのは、性体験不足を自前の飛躍論理と拡大論理を用いてカバーし、下ネタを語る「構成派」と呼ばれる一派と、ベットから学んだことをもとに実証的に下ネタを語る「実証派」と呼ばれる一派である。

ABC論理は構成派にとって、唯一無二の論理であり、これを起点として下ネタを語るのが彼らのやり口である。

一方、実証派はこの論理を担ぐ必要があまりなく、自ら経験した体験をもとに理論化すればことが足りたのである。

今回の問題は実証派の一部が「いや、AB無くてもたまにいけちゃうんですよ」と不意をついた一言が原因だった。

これを聞いた構成派派閥長は、
「太平洋戦争末期から作られたこの理論を愚弄する気か!貴様は!」と罵倒したことで、議論は灼熱とも言うべき、蒸し暑い論争を迎えたのだ。

「いや、マジなんすよ、証拠に俺の時は、、、」

「頭おかしいのか!貴様は!AからBが無くて、どう行為にうつせると言える」

「いやだから、向こうから誘ってきたんですよ」

「え..」その瞬間、派閥長は己の体内に湧いた無数の感情の摩擦熱により、高熱を発してしまった。

「派閥長!しっかりしてください!」と痩せ細った構成派の連中が派閥長のそばに駆け寄る。
派閥長は優しく声をかける。
「お前たち、ABCというのは、実際穴だらけの論理だったのかもしれん。ハァハァ、」

「そんな!俺たちはあなたの語る理論に惚れてここに入ったんですよ」

「よく聞け、ABCは基本、誰が行動を起こすと思う? 男だ。全て男側からしか行動を起こせない。しっしかし!世間は変わったのだ。今度は、おっ女が攻め、グフっ!!」派閥長の喀血は致死量を超えようとしていた。

「おっ女から、んな破廉恥な…」

「お前たちは新しい理論を探して、じっ実証派を倒してくれ、、でもやっぱ攻められるのも悪くは無いと思う、、」
派閥長の体はだんだん白くなり、連中は涙を流した。



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