ゲームセンター

ゲームセンター、塾、プールのコーチ、研究室の史料撮影、NHKの選挙速報、2日だけのホテル清掃、(あとは投書して図書カード稼ぎ)
大学に入学してからしてきたバイトである。日数は多くないものの、経験した種類は案外ある。
この中で印象に残っているのは、ゲームセンターのバイトであろう。1回生の夏から2回生の冬まで、1年と約半年。週2日でやっていた。
仕事内容は店内清掃から始まり、機械の修理、売上メーターのチェック、諸々のデータ入力と色々あったが、1番は接客である。この接客が今でも印象に残っている。根暗で人と話すのがそこまで得意ではない私は、この接客に苦労した。
はじめの方は、おじさんから「修理まだかい!はよせい!」と、おばさんから「この景品もっといい位置に置いてよ!」と罵倒され、軽蔑された。「このクソジジイ!ババア!」と内心では言うものの、そこはプロレタリア。丁寧な接客を心がけ、黙ってお小遣いを手に入れた。
ただ何ヶ月過ぎても、機械の修理だけは上手く出来なかった。あとから入ってきたバイターに仕事の出来では完全に抜かれていた。これはとても悲しいことであった。
ある日、メダルゲーム台の画面に映し出される「error」の文字。今まで見たことないエラーコードであったため、対処法がまるで分からなかった。工具を駆使しながら、やってみるものの、やはり直らず。お客さんに謝ってメダルをサービスすることしかできなかった。
その時、ボソッと
「これが唯一の楽しみなの」
と言われた。
これほど、きつい言葉はなかったと思う。怒られている訳では無い。しかし、言葉の重みが尋常ならぬものであったのだ。
そのお客さんは常連で、メダルゲームをする姿をよく見ていた。
大変失礼な言い方だが、常連客の服装はどこか薄汚れており、持っているケータイもほとんどがガラケーで、経済力の低さを感じずにはいられなかった。
先ほどの「これが唯一の楽しみなの」というおばさんの一言と関連して考えてみた。
おそらく、経済的にも限られた状況の中で「唯一の楽しみ」だったメダルゲーム。趣味は経済力に規定される。その世界観にどこか虚しさを感じてしまった。
私はバイトを始めてから、嫌なことがあると、当たり前に「クソババア!」と内心で叫んでいた。しかし、あの一言でそうは考えられなくなった。
社会には色々な人がいる。ゲームセンターで全てを知れたわけではないが。
大学にいると全く分からないのだ。当たり前に勉強して、サークルして、バイトして喜び、たまには愚痴を言う。この日常がなんて素晴らしいものなのかということを。
ゲームセンターでのバイトは、大学生としての私の「立ち位置」を今一度考えるきっかけを与えてくれた。
このような思考ができる「ゆとり」のある人間でありたい。

#エッセイ #バイト


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