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ショートストーリー

これは昨日書いたストーリーとは全く別物である。

大学1年生の前期テスト最終日に映る夕焼けは美しい。ムワッと広がる蒸し暑さは心地よく、夏の訪れを教えてくれる。大学構内は妙にざわつき、みんな夏休みの計画でも立てているのだろうかと想像を馳せて暇を潰す。

時間は17時43分。18時から授業のグループ発表の班で打ち上げをすることが決まっている。早く時間よ来ないかなとワクワクする。こういう待ち時間は楽しい。明日から一体何しようかななんて妄想をいつも以上に膨らませる。何も怖いものなんてない。1週間後にバイトの面接があり、少し緊張する程度だ。ああ、時間が無限にある気がする。絶え間なく広がる希望。いつまでも浸っていたい。

打ち上げが終わった。ただ、終わった後の虚無感は1つもない。だって、夏休みはこれからだから。大学の駐輪場まで、わたしは原付をおしながら、友人2人と夏休みの計画を語り合った。私は実家暮らしで、原付を使わないと大学には通えない距離にある。友人たちはチャリの鍵を差し込み、まだがろうとする。私もそれを見て、原付のエンジンを入れた。ゆっくりと原付は動き出す。

生暖かい夜風が体にしみわたる。異様な心地良さがこれまで以上に夏休みの到来を教えてくれる。この快感にもっと酔いしれたかった私は、友人を呼び止め、
「まだ帰るの早くない?」

「うーん、そっそうか?」
「何する?」

突発的な感情で、呼び止めたので、私はなぜ彼らを呼び止めたのか説明出来なかった。グダグダと時間は流れ、ラーメン屋に入ることになった。すでに、夜11時をまわっていた。

「普段は美味しくないけれど、11時過ぎたこのラーメンの味は無類だね。」

意味もなく、食べる塩ラーメン。おそらく、この味も人生のどこかの思い出に刻まれるだろう。

ラーメンを食べて出てきた汗を夜風は吹き飛ばしてくれる。なんなんだ。この風は。私の高揚感をどれだけ上げたら気が済むのか。ニヤケが止まらない。今日の風は特別。まだ今日は終わらせたくない。

「この近くにビジネスパークがあるんよ。あそこの夜空から見える星は綺麗なんてもんじゃない。見に行きたくないかい?」

「お前いいセンスしてるぞ」

「どうも」

夏休み初日。打ち上げ、ラーメン屋からの星空。青春という抽象語を我々はまさに今、最大限に具現化しようとしている。私はこの胸の高まりを抑えつつ、この青春の舞台を壊さないよう、慎重になった。

自分は原付で、友人2人は自転車なので、ビジネスパークに現地集合となった。

原付のエンジンが静かな街中に鳴り響く。私はこの夜風の麻薬に取り憑かれていたのか、心地良過ぎて、思わず声を出してしまった。

「ひゃっほーい!あはははは」

まさに無敵。我が名はセリヌンティウス!とか無意味に叫びたくなる衝動を抑え、現地に向かった。はずだった。

50メートル先の信号を左に曲がればいいのだが、その間にショートカットできる道があったのだ。通学している時は気にもしなかったが、神経が妙に研ぎ澄まされた今となっては、このショートカットコースが気になって仕方なかったのだ。

行っちゃう?
嫌ダメだ!不穏な動きは青春の舞台をぶち壊すぞ。嫌でも、1度くらい…。

トオッテシマッタ。

さらにショートカットコースのすぐそばには、なんと歩道がある。

歩道を原付で通ったらどうなるかな?
禁断症状が出始める。

おい!夏休み初日でハメを外しすぎだと天使に叱られるも、夏休み初日に歩道を原付で走るのは日本でお前だけだぜも悪魔が説得しようとする。

結果、私は悪魔とともに天使を殴り倒し、腹に決めた。

原付がとうとう侵攻する。

うおおおおぉ。これが歩道!
普段歩いているだけなのに!

「ひゃっほーい!なんてエクシタシーなんだ!」

不可侵条約破っちゃった…。
狭い歩道に原付が入り込む。この狭さが私のマゾを覚醒させたかもしれないと。悦楽に溺れていた矢先、1人の男が穏やかでない表情で私に声をかけてきた。

「キミ、何してるの?」

「へ?police?」

この作品はノンフィクションです。


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