日記マン#1「味玉」

どうも、日記マンです。

居酒屋のバイトが月曜だというのにクソ忙しかったし、食べ飲み放題の料金案内ミスってちょっとピリついたことだし、完全に帰りこれラーメンだなと、ラーメンの口になった。もっと言うと家系ラーメンの口になった。

逃げるように退勤して、電車に乗り、最寄りの家系ラーメンにたどり着く。このラーメン屋を週1~2で言ってるおなじみのお店だ。ご飯おかわりを頼みやすい席に着席できたし、いよいよ晩餐の時が始まる。いつもどおりラーメンと米をしこたま食って帰るだけ。そのはずだった。

家系ラーメンは麺の固さとか、味の濃い薄いのとかそういうのを申告して、ある程度カスタムできるのが特徴だ。マイプリセットは「麺かため、味普通、油少なめ」だ。油少なめにすることで多少、罪悪感をカットしているところがポイント。店員のおじさんにそれを伝えようとしたその瞬間、

「麺は…かため…でしたっけ?」

おじさんが聞いてきた。

え!?

でしたっけ!?って、何!?

日常のルーティーンの中に突如現れた「気遣い」に僕は面食らってしまった。麺だけにとかそういう話ではない。真剣だ。

いやなんというか、そんなちょっといつもと違う感じでラーメンの調理が始まった。こんなのはじめてだ。

海苔増しラーメン、ご飯大盛りが着丼する。その瞬間、僕は信じられない光景を目にする。

味玉が浮いている。

画像1

僕のラーメンに、味玉が浮いている。

頼んでないぞ…と味玉を前に僕は思考停止してしまった。味玉に僕の脳が負けてしまった。

いや…もしかすると海苔増しラーメンには味玉がつくのかもしれない、と店内の海苔増しラーメンの写真を見る。そこに味玉はいない。

この店…本気で、僕に、味玉をサービスしている!?

正直、この店のインスタアカウントと相互フォローなので、多少、その、認知はされているのかもしれない。あいつフルメタルマダム益村じゃね?となっているのか…!?面が割れてるのか…!?麺だけに…。そんなおこがましい考えが脳をかけめぐる。味玉を前にして。

「あれ…味玉…頼んでないですよ」と聞くことなんて僕にはもちろんできないし、「いやいつも来てくれるから…」的会話が他のお客さんの前で始まっても死刑同然だそんなの。

どうしたらいいんだこういう時!!!?????!!!

そっと、厨房にいるもうひとりの店員、おそらく店長の強面のおじさんに目線を移してみる。

ばっつり目が合ってしまった。どうしたらいいのかわからなくてすぐに目をラーメンに下ろす。ばっつり目が合いすぎて少しニヤけてしまったし。正直睨まれたに近かったんだけど、これもしかして最初にお礼に言わなかったからかな…といろいろ思いながら食を進める。

ここで完全に考えがまとまる。

この店は、完全にこの僕に、特別に味玉を、サービスしている。

そして、美味い。

美味いんだけど、完食に近づくたびに、味玉のお礼を言わなければならないコミュニケーションタイムが近づいていく。店員さんと注文以外のことで会話することが全業種全店舗でストレスなので、こんな胃を痛くしながらラーメンを食うのは初めてだった。

店員さんが味玉を浮かばさなければこんなことにはならなかったのに…。

味玉にかぶりついた瞬間、この施しを受領したことが確定し、お礼を言わねばならないことが確定する。中は半熟とろとろで最高だった。

例によってご飯もおかわり、スープも完飲。完全に退店のタイミングを迎えてしまう。

席を立ち、帰る意思を見せると「あざま~~~す~~~~!!」と声がかかる。

「あ、あ、あ、あのっ」

「たまごっ…ありがとうございました…!!」

意を決すとはまさにこのこと。

「いつもインスタ見てるよ!!お笑い頑張ってね!!」

店長がさっきの眼光とは考えられないほどの笑顔で、僕にそう言ってくれた。あの浮いていた味玉は、この店の優しさで出来ていた。

え…なにこの気持ち…。この温かい気持ちなに…?

しらないこんなの…。

「いやその、はずかしいっす‥。あざますっっ。ごちそそそさましたっ」

安定のキモリアクションしか返せなかったけど、今まで感じたことないきもちが僕の心を包んだ。

なんだこれ…悪くないじゃんこういうの…。

店員さん、味玉を浮かばせてくれて、本当にありがとう。

そして「インスタいつも見てるよ!!」の言葉の重みに気が付きながら、寒空の中、早足で帰宅した。

はずっ。

 日記マン#1 おわり

やるじゃんってなったらお願いします!その力で松屋を食べます!!