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詩集 いのちのぱん

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どこからか降ってくる言葉たちと編みました。 気に入っていただけたら嬉しいです。
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春が来て。

用水脇の片隅に見つけた春。 陽の光を感じ 風に吹かれ 青い空を見上げて 春の訪れを知る。 非日常が巣食う日常か、 日常の向こうに孕む非日常を掬うのか。 人の「不安」が世界経済を動かす。 ならば、人の「平穏」がもたらすものは何だろうか。 目の前に芽吹くものを愛おしむ。 たったそれだけの気持ちがもたらすものは。 昨日射す陽が慈陽であればいい。 今日降る雨が慈雨であればいい。 明日吹く風が滋養になればいい。 そう祈る。

【微力】

「聴く」ことの深さを。 「問う」ことの重さを。 「視る」ことの広さを。 自分の五感を開示して。 持てる力を投入して。 全神経を傾ける。 だけど。 それでも。 なんと微力な自分であることか。 落ちる私を、 落つる夕陽が宥めて、慰めて、沈む。 明日、晴れたら、いいな。

【きりん日和】

何か伝えたいことがある時、 何か言いたいことがある時にも、 言葉は選ぶ。 反対に、言葉を発したい時や、 言葉を紡ぎたい時も、 やっぱり言葉は選ぶ。 ものの見方も千差万別、人それぞれ。 置かれた立場が違えば見え方も変わるし、 見るものも変わる。 だから、選ぶ言葉も変わるのだけど、 自分の内側に潜む言葉を、 どこからどうやって引き出してくるのか、 また、どこから引き出されるのかは、 わからない。 でも、物心ついた時から本が好きで、 文章が好きで、活字が好きで、 自分の周り

夏夜の火種

灯していた電灯をパチンと消して どれだけ暗闇になるのかと試してみたが 此処より外にも電気が蔓延していて 真っ暗闇にはならないのだが そのことに安堵している自分も居て 苛つく。 珠洲の珪藻土を切り出した七輪に 熾した火が炭を育てて熾火になり その炭が小さな呼吸を繰り返しながら 赤赤と燃えている。 人の心臓の奥の奥にも こんなふうに燃える思いがあったり なかったり。 陽と火の熱さの違いを比べながら ふつ、ふつ、ふつと 湧き上がるものの正体を探っている。 いっそ消えてしまえ

気配

雨と雷と風と雲とお陽さま。 視えない大気を可視化するように、 秋の匂いが充満する空に紋様が浮かぶ。 追いかけて、振り仰ぎ、 追いついて、見失い、 呼び声に応えて、掌中に収める。 あの雲の向こうに夜が在る。 あの空の向こうから朝が来る。 それを報せに来たものが、 埋もれた五感を呼び醒ます。 深い眠りから覚めて最初に視るものは、 生まれ落ちた時に 握り拳を開いて手放した魂のカケラ。 ーそれは希望であり笑顔であり慈しみであり愛。 ーそれは目で耳で鼻で唇でいのち。 ーそれ

溶鉱炉

知れば、全部、識りたくなる。 出逢えば、全部、暴きたくなる。 見つければ、全部、曝したくなる。 そうして貪欲に手に入れたものを、 自分の炉に焼べて、焼べて、焼べて、焼べて、 正体が無くなるまで燃やす。 赫い火が爆ぜ、 紅い火に立ち、 緋い火に燃えて、 赤い命が尽きるまで燃やす。 最期を見逃すまいと身を乗り出し、 最後を取り逃がすまいと手を翳し、 燃え尽きる様から目が離せない。 燃え尽きる瞬間に目を逸らさない。 熱い、熱い、熱い空気を纏う夜に、 この世で一番、欲張り