見出し画像

スマホ画面の商店街で見つけた懐かしい笹団子

コロナの影響で飲食店が大変だ。連日ニュースでどんだけ大変か、とか、あの有名店が閉店することになったなど流れてくる。テレビの画面だけでなく、スマホの画面でも流れてくる。そんなとき、私の画面にこんな文字が流れてきた。

コロナ救済・訳あり商品グループ


パン職人の友人あやぱんちゃんがシェアしていた情報だった。

ずらずらと、画面の中が商店街のようになっている。日本一長いと言われる天神橋筋商店街のように、画面の中では延々とお店が並んでいる。肉屋、魚屋、和菓子にケーキ。花、たけのこ、米、コーヒー豆。餃子屋にイタリアン。すごいなあと一時停止と早送りを繰り返していたが、ふと指が止まって詳細を見たくなったお店があった。

笹団子だ。




大阪生まれ大阪育ちの私だが、新潟名物笹団子が子供の頃から大好きだった。父は新潟県とユーラシア大陸の間に浮かぶ島、佐渡島出身。私が小学生の頃は毎年夏休み、父の運転する車で、父、母、兄と私、家族4人で佐渡島まで帰るのが恒例行事だった。佐渡島にわたる前日は必ず新潟の伯母宅に寄り、一晩お世話になった。伯母は父よりかなり年長。おばちゃんというより、私にとってはおばあちゃんに近かった。テーブルにたくさん料理を用意してくれて、おやつには笹団子を置いてくれていた。笹の香り、よもぎのいい香り、あんこ。小学生の好むお菓子とは思えんが、私は大好きだった。ごはん前に早速食べる。3個なんて軽い軽い。「あんたもう、ええ加減にしときなさい」と父の親戚宅で気を使う母に、よく怒られた。

佐渡に渡り、祖父と父の兄一家が暮らす「佐渡のおじいちゃんち」で翌日から3日ほど過ごす。1年に1度しか会えない、彦星のようなおじいちゃんなので、私はおじいちゃんについてまわった。3日間はあっという間に過ぎる。大阪へ帰る日の朝、おじ、おば、祖父がたくさんのお土産を父の車のトランクに入れてくれる。「真澄ちゃん、あんた好きやろ」おばちゃんが毎回入れてくれるのが笹団子だった。

画像1



作りたての笹団子は、餅が笹にくっついて剥がすのにコツがいる。べっとり笹に餅がついたりする。父の運転する車のなかで、唇を笹で切らないように注意しながら、笹についた餅もきれいに食べた。

私が11歳の時祖父が亡くなり、佐渡に帰ることもなくなった。好きだった笹団子も食べることがなくなった。大阪で暮らしていた私は、笹団子を見ることもなくなっていた。

6年前、大阪から横浜へ移住した。横浜は都内のデパートに行くと、「新潟物産展」に出会うことがあった。新鮮だった。そして横浜で30年ぶりに笹団子と再会した。見かけるたびに笹団子を買うが、子供の頃食べたような餅が柔らかくて笹にべっとりつくような笹団子はなかった。どのお店も美味しかったが、あの頃の笹団子はもう食べられへんかなと諦めていた。

さてコロナ支援・訳あり商品サイトで見つけたお店『岩船家』。ご縁やし、懐かしいし、食べることで応援できるならええか、と申込フォームに住所などを入力した。

数日して、見慣れない市外局番から始まる電話番号が、スマホ画面に出てきた。電話に出ると、岩船家の方だった。

「お時間いただきましてすいません。ご用意できましたので、お送りさせていただきます」電話の向こうで柔らかい女性の声が聞こえた。

金額と代引きである旨を改めて確認し、電話を切る前にちょっとだけ余計なことが口から出た。

「こんな時期でお商売大変と思いますけど、みなさんおからだ気ぃつけて、頑張ってくださいね」

ほんの一瞬沈黙の後、電話の向こうの女性が言われた。

「ありがとうございます。そちら様もご家族も、どうぞお気をつけて」

スマホ越しだったが、久しぶりに家族以外の人と、あったかい会話をしたような気がした。

翌々日の朝。宅配便のお兄さんが笹団子を持ってきてくれた。

画像2




開ける前からほのかに笹の香りがする。蓋を開けると、店主さんからの手紙があった。パソコンで作ったプリントアウトの手紙。でも文面から、今までずっと真面目にお商売されてきたこと、そして彼のお人柄が伝わってくるようだった。

笹団子を包んでいる紙にも何か書いてある。ふと見るとなんと、「吾作……」とあった。

画像3



おじいちゃんの名前やん。

なんとも不思議な気持ちだ。まずは1個いただこう。丁寧に結ばれた笹団子を解き、笹の葉を開く。

餅が柔らかく、笹にくっつく。

あの笹団子と一緒や! 新潟で、佐渡で食べたんと同じ、あん時の笹団子や!

よもぎの香りよく、柔らかいお餅。あんこもちょうどいい甘さだった。
さすがに3個は無理だが、2個、美味しくいただいた。

スマホの中にある商店街のお団子屋さん。投稿欄にコメントした。無事届いたこと、美味しかったこと、佐渡にいた祖父も吾作という名前だったことを伝えた。

「そうでしたか。なんだかご縁ですねえ」

忙しい店主さんから丁寧にお返事をいただいた。

画像4

改めてホームページを見ると、関東にも時々出店されているようだった。そうか。いつか、直接笹団子買いに行こう。そして、お話ししてこよう。

引きこもりの日々。おいしい笹団子をいただきながら、その日を楽しみに待っていよう。


美味しいはしあわせ「うまうまごはん研究家」わたなべますみです。毎日食べても食べ飽きないおばんざい、おかんのごはん、季節の野菜をつかったごはん、そしてスパイスを使ったカレーやインド料理を日々作りつつ、さらなるうまうまを目指しております。