ネパールいろいろ(8)エヴェレストに登ったおじいちゃんと霊能者のお母さん

ネパールに行くと必ず会いに行く家族がいる。ボウダナート地区に住むシェルパ一家だ。

シェルパ=山のポーターとして知られているが、実際シェルパとはネパールに住む少数民族の名前である。その民族に属する人の多くがシェルパという苗字を使っている。

エヴェレストに近い家族

ここで少しこのシェルパ一家のことを紹介しておこうと思う。

映画「カンチャ・シェルパ」完成上映会にて、シェルパ一家集合写真
中央がカンチャさん(中央左は監督)

一家のおじいちゃんカンチャさんは、実は人類初のエヴェレスト登頂を果たしたエドモンド・ヒラリーの登山隊を影で支えた人物の一人である。

初登頂は1953年。ヒラリーとともに最高峰まで登ったことで有名なシェルパといえばテンジン・ノルゲイだが、登山隊をサポートしたのは彼だけではない。山をよく知るシェルパ族を始め数百人ものネパール人が集められ、イギリスからやってきた登山隊(※)が使用する食料や機材なんかを山頂近くまで運ぶ役を担ったそうだ。
(※ヒラリーはニュージーランド人)

標高何千メートルもの山の中、自分たちは一切酸素ボンベを使わずに、遠征隊のための重い重いボンベを運んで登ったツワモノである。そうやって初登頂達成を支えたチームのメンバーで現在唯一存命中なのがこのおじいちゃん、カンチャ・シェルパなのだ。

おじいちゃんは普段ヒマラヤ山脈麓の村、ナムチェバザールというところに住んでいる。様々な登山隊のサポートをした後、山の仕事を引退し、ナムチェバザールにゲストハウスを構えて生活してきた。もう90歳近いお年なので、現在ゲストハウスは息子さんたちに任されているのだけれど、御本人はまだまだお元気だ。毎年寒さ厳しい季節になると、標高3000m以上の自宅からカトマンズに降りてきて娘さん一家のところで過ごす。

カトマンズの家では、カンチャさんの娘であるダワさん、ダワさんの旦那さん、彼らの息子たちそして親戚の子供たちも一緒にそこで暮らしている。おじいちゃんよりも若い世代の家族の中にも、登山家たちのエヴェレスト登頂をサポートした人が沢山いるらしい。

霊能者ダワさん

前置きが長くなったが、カンチャさんの娘さん、ダワさんの話である。

ダワさんは霊能者である。

詳しい経緯は分からないが、若い頃に原因不明の病気で何年も苦しんでいたときに山のシャーマンのところに診てもらいに行ったそう。そこで、彼女には特別な能力があり、病気はそのせいだと知らされたという。山の神様に助けてもらい、その能力をうまく使いこなすことを身につけると病気も治り、今に至る。

彼女はいわゆるイタコさんであり、目に見えない生き物(霊や精霊など)を降ろしてきて、その言葉を伝える。

ダワさんのお家にお邪魔すると、時々現場に立ち会うことがある。別に他人が見ても構わないようで、ダワさんもダワさんに視てもらっている人たちも私達訪問者のことを気にすることはない。

まず相談者から話を聞き、お香や聖水、米などを使ってなにか儀式のようなものを行いながらだんだんトランス状態に入っていく。降りてきているときは、口調も表情も変わる。旦那さんのナワンさんが助手となり、相談者との間に立って質問をしたりする。

ダワさんに視てもらう

4、5年前になるだろうか。デンマークから友人Lさんを連れて行ったことがある。Lさんが視てもらうと、降りてきた霊はダワさんの口を通じてデンマーク語らしきものを話した。

必死に”Nej! Nej!(嫌だ、嫌だ)”と大きく首を振りながら高い声で何かを訴える。ぐちゃぐちゃとはっきりしない音がダワさんの口から出てくる。周りにいた他のデンマーク人たちが、どうかLさんから離れてくれ、と霊に対してデンマーク語で説得する。そうしているとやがて急にすっと静かになり、気づくとダワさんはもとのダワさんに戻っていた。

ダワさんはトランスになっている間の記憶もあるようで、Lさんにアドバイスをし、それが終わるとまた儀式のようなものをしてセッションが終わる。

Lさんは聖水と三角錐をした真っ黒な練香、そしてチベット仏教の守護神マハーカーラの絵が描かれたカードを渡されて、それらをいつどのように使うか、そして、こういう場合は肉は食べないほうが良い、とかそんなアドバイスを受けていた。

初めて見たときはびっくりして言葉が出なかった。何がいるのかと相談者の周りの空間をじーっと見てしまったが、もちろん何も見えてこない。日本でもイタコさんの仕事現場なんてお目にかかったことがないし、こんな世界があるんだな、とすごく驚いた。

ダワさん


かくいう私も実は一度視てもらったことがある。

気になることがあれば何でも言って、と言ってくださったので、せっかくなので年単位で皮膚の状態が良くない、加えて最近膝の周りの痛みが取れなくておかしい、ということを話した。

いつもと同じプロセスで、儀式から始まり、ダワさんはトランスに入っていく。

すると低い低ーい声。震えているようだ。何を言っているのかさっぱりわからないので後から一緒に行った友達に訳してもらったが、チベット語を喋っていたそう。

ナガ(ナーガ)がいる、と教えてくれた。ナガは蛇の精霊で、神様になっている場合もあればそうでない場合もある。半人半蛇の姿をしており、美しい容貌で描かれることが多い。ヒンドゥー教でもよく登場する。何か環境に悪いもの、自然にそぐわないことがあると悲しんで障りを起こすとのこと。

私に着いてきているナガさんは非常に悲しんでいたそうだ。ダワさんに、命を粗末にするような環境にいないか、と尋ねられた。

ネパールに来る直前がクリスマスシーズンで、皆一斉に豪勢な食事を取る季節。隣人から山ほどクリスマスディナーのおすそ分けをもらったことを思い出した。チキン、ビーフ、ポーク、と食べきれないほどのお肉、肉、肉。しかも私基本ベジタリアン。ほとほと困った覚えが。

それか?と思ったけど、私の皮膚の調子が悪いのはクリスマスに始まったことではない。でも海辺をジョギングしていると決まって膝が痛くなっていた。ナガは水辺に住むらしい...

むむむ。何か関係があるのか?それとも全く別の原因が?

ただ、環境を汚したり自然にそぐわないことをする=自分自身が自然に調和していない状態である、と解釈すると思い当たることがあった。
つまり、自然体ではない自分。無理している自分...これか。

実はちょうどその頃いろいろあって、気持ちの中に違和感を抱えており、ジョギングで気を紛らわせていたのだった。自然にそぐわないのは自分自身だったのか?(ナガさん、辛い思いをさせてすみません。)

何しろ見えない世界のこと。バカバカしい、と一蹴することもできるかもしれない。でも見えない世界も見える世界もそこに在ると私は信じている。そう考えると、隠れていた何かを言い当てられたような気になった。

その日はお祈りの込められたバターのような塗り薬をもらって帰った。

スピリチュアルが普通の国

ダワさんのところには、ひっきりなしに助けを求める人がやって来る。それだけ霊的なものの存在が普通のものとして認識されているということだろうか。

ダワさんの働きを横目に、おじいちゃんカンチャは何食わぬ表情で数珠を繰っている。ダワさんもおじいちゃんも熱心なチベット仏教徒だ。いつも気がつけば小型のマニ車を回したり、真言を唱えたり。近所の大きなストゥーパ(仏舎利塔)へも1日の決まった時間に何度かお参りをしに行く。

犬も歩けば、、、ではないが、どこに行っても、下手すると数十メートル単位で大小様々なお堂、お寺、そして聖地が山のようにある国。ヒマラヤの山々を神として信仰し、目に見えないものも見えるものもそこに存在することを信じる、それが当たり前の国。スピリチュアルとは切っても切り離せない国、ネパール。知れば知るほど魅力に尽きない国である。





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メール(日本語可): info★bpc-media.se 
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”Kancha Sherpa 1953年エヴェレスト山 人類初登頂をサポートした最後の生き残り”
トレイラーはこちらから https://lastofthefirst.net/index.html


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