第4期将棋V名人戦 B級猪組 日比谷響戦
勝ったのにこんなに悔しくなることがあるんですね。
2021年10月02日(土)、第4期将棋V名人戦B級猪組の第4局は一宮真純にとって2週間ぶりの対局でした。お相手は将棋V棋戦への参加経験も豊富な強敵、日比谷響さん。非常に特徴的なお相手です。
一宮がどんな準備をしたのか。そして対局中の動揺と対局後の悔しさについて自戦記として残します。
対局準備
さてお相手の日比谷響さんは、イケメンなラッパーさんです。もう本当にイケイケでかっこいい方で「本当に将棋を指してるの?」というお姿なのですが、将棋への熱は本物です。得意戦法は奇襲戦法の一つともいえる嬉野流。アマ強豪の方が開発し、現在ではさまざまな将棋対局サイトでも指される奇襲戦法の域を超えた戦法です。
響さんと対局する前の一宮のテーマは「序盤で形勢を損ねないか」でした。
一宮はこの嬉野流が死ぬほど苦手です。対戦経験自体は3分切れまけなどの超早指しを加えれば2,30局はあると思いますが、毎回、指し方に苦労しています。どちらかといえば攻め将棋で受けに自信がない一宮にとって、嬉野流の超速攻は棋風的に苦手で、自分が好きな展開になりにくいのが苦手の理由だと思います。
そこで、対局前には嬉野流対策としてさまざまな対策術に触れました。裏で通信将棋としてRoi将士さんやUnferthさんに嬉野流を指していただいたり、逆に一宮が嬉野流っぽいことを常盤台メイさんにぶつけてみたり。自分の配信でも嬉野流の対策を視聴者さんに伺ったりと準備しました。
これによって嬉野流への指し方は掴めたと思います。ただ経験はやっぱり足りないですし、響さんは嬉野流の使い手なので嬉野流対策に対する指し方も経験値として持たれているはずです。なので自信はありませんでした。ただ序盤で形勢を損ねる展開にはならなくなるかなと思っていました。
対局開始
そんなこんなんで対局当日。一宮は後手番なので、響さんの初手を待ちます。先手の響さんが嬉野流を選択する場合は、6八銀が初手になります。
なるほど、、、、、、、、、、、、
はい。一週間の嬉野流対策は日の目を見ることなく葬られました。ただ、響さんの将棋は何局か見させていただいたので、嬉野流以外もあるかなと思っていました。次に多かったのが角換わり、そして矢倉だったので、7六歩もあるかなと思っていました。少し考えて心を落ち着け3四歩と指しました。
あ、念のため、一週間の準備が意味がなかったというつもりはないです。響さんも一宮が嬉野流対策をされていることをおそらくは認識されていたはずなので、それを踏まえての7六歩だったはずです。なので嬉野流を封じたという意味では準備の成果が出たと思います。
ただ、この時の一宮は実は嫌な予感がしていました。
それは、あまりにも嬉野流対策を重視しすぎた結果、それ以外の勉強を何もしていないという事実です。どちらかといえば居飛車党の一宮なので相居飛車の経験は当然、それなりにあります。ただ、これという戦法が特にないんです。特に後手番の居飛車側の戦法があまり分かっていないことから、あまり指したくないのが正直なところでした。
そこで、ゴキゲン中飛車や藤井システム含みの四間飛車も一瞬考えたのですが、響さんの対振りの将棋を研究していないこともあり選択はしませんでした。
戦型確定、そして絶望
5手目、6六歩の場面です。横歩取りになるかなと思ったのですが響さんは角道を止める選択をされました。これでおそらくは矢倉・雁木などの選択になるなと思いました。もともと響さんは手厚い将棋を好まれる方だと聞いていたので、それなら一宮は居角左美濃でいこうと作戦を選択しました。
進んで16手目の6四歩。なるほど雁木ですか。ん?いやでもこの形は、、まてよまさか、いや響さんが指すわけないよね?
「陽動振り飛車ですが何か?」
この瞬間、一宮は顔面蒼白になりました。全くの予想していない展開、そして準備もなければ経験もない局面。これは困った。大変なことになったと思いました。
といっても将棋を指し慣れているかたなら、「別に左美濃にすればいいだけじゃん」と思われると思います。ただ、一宮は対抗系の場合は居飛車穴熊を好むことから、左美濃の経験が極端に少ないのです。そのため、「ここからどう戦えばいいんだ」と絶望の淵にいました。
当然、この戦型を選んだ響さんには少なからず経験値と作戦があるはずです。それに対して無策の一宮。一番避けたかった「序盤で形勢を損ねない」をやってしまうなこれはと思いました。
ただ、局後に冷静に振り返るとこれはダメな思考でした。本局で反省している点の1つがこの点で、ここから先、殆ど読まずに指しています。
44手目の7四歩。ここで22秒考えているのですが、それまでの手のほとんどは10秒以内で指しているんですね。そして銀冠にしたは良いもののそこからの指し方が全く分かりません。そうなるんであれば時間を使ってでも先に動くことも考慮するべきでした。
例えば23手目に先手が5八金左と上がった局面。この瞬間に6五歩と仕掛けるような手もあったかもしれません。先手陣はこの瞬間はまだ囲いが完成しておらず、後手は囲いがひと段落しています。善悪は置いておいて、この形であれば居角左美濃の経験が少しは活きそうな展開なので本譜のように指し手に困ることはなかったかもしれません。
劣勢に
49手目の9五歩の局面。素直に同歩で良かったですね。同香、同香、同角で7三の桂に当たるのが嫌で取らなかったのですが、その後の指し方が同歩といったんとってからの指し方をしています。対局中にそれに気づいて絶望しました。
この局面がそちら。9五歩に対して同香であればこの8六歩で同角としなければ角道が止まります。ですが、9六歩と取り込まれた本譜だと同角ではなく同歩ととれるのです。このあたりはウッカリもいいところで自分で何をやってるんだと呆れました。
そういう意味ではちょっと戻って、9五歩に同歩ととらずに6五歩と指した局面。これが入ると思ったのが甘くて一宮お得意の勝手読みでした。48秒も考えて何をやってるのかと呆れてしまいます。
進んで本譜。59手目の8五歩で少し元気が出てきた局面です。使えなくなったと思った飛車が捌けたのでこれならまだ勝負になるかなとメンタルが回復しました。
68手目に81竜と入った局面。この局面での銀冠への攻め方が全くわかりませんでした。が、対局後に水匠先生に聞くとなるほどでした。
9五歩と端からいく手があるのですね。同歩に1八歩、同香だと1九銀、同銀だと1一の香車を使って攻めていく手があるらしく、この局面は評価値だと大きく先手に触れていました。銀冠は横からの攻めに弱く、端に強いとの先入観があったので、全く見えませんでした。
本局で感じた課題は囲い崩しの勉強の必要性です。ここに関してはしっかり取り組もうと思います。
本譜、6筋に歩を垂らす手は見えたのですが、速度的に遅いかなとやめました。ただ6五桂、5七桂成の手順と6六歩から6七歩成、5七不成と使う手は、8九の桂馬を拾って5九に竜を戻る手を加えると、後者の歩を使った攻めの方が1手早く、さらに安全なんですね。
感想戦で指摘されて自分の読みの浅さに驚きました。冷静に考えると分かりそうなものなのに。ただ本譜ではなかったですが先手が4八銀といったん受ける手は完全に読み抜けていたので本譜は正確に指されるとこちらが悪そうです。このあたりの受けの手を想像できるようにならないと強くなれないなと思いました。
終盤戦そして終局後
はっきりとよくなったと思ったのは85手目の4二銀の局面です。3三の角は攻めにはまったく利いていませんでしたが、2一桂型なので下からの攻めには少しだけ強く、後手の堅さという点でのメリットはあると思って指していました。そのため、原図での先手4二銀より後手の4九銀の方が速度が速く、優勢を意識できました。
以降、3八銀成からの12手詰目。駒が多かったので詰むと思って踏み込みましたが、96手目の3七竜、98手目の18金の2回のただ捨ては詰将棋に取り組んだ成果が少なからず出たかなと思います。優勢の局面で勝ちきるのに大事なのは詰将棋だと改めて認識したので今後も継続して取り組みます。
1つだけ発見がありました。こういう緊張感のある対局は前局のアクセラさんとの戦い以来、2度目の経験ですが、勝ちを意識して指すのは初めての経験です。
勝ちの局面を見つけて指すときに、手が震えました。
羽生先生でした。勝ちを見つけると緊張するんですね。
鼓動が早くなるのを自分でも自覚しました。「この緊張でちゃんと読めているのかな?読み抜けないかな?」と不安になりました。それがマウスを持つ手にも伝わり震えました。こんなことがあるんだなとびっくりしました。
ほんの少しだけ、大好きな羽生先生に近づけた気がして嬉しかったです。
さて、終局後の感想戦。一宮のテンションが少し低かったなと思った方も多いと思います。結論だけ言うと、その通りで、落ち込んでいましたし自分に腹が立っていました。勝利の高揚感はまるでない、正反対の気分でした。
これまでの将棋は勝つとやっぱり嬉しいし、負けると悔しいです。ただ本局は勝ったのに、プラスの感情よりマイナスの感情が大きかったです。
途中で相手の作戦に戸惑い、手が読めなくなったこと、その結果、読み抜け・悪手を指し、形成を損ねたこと。その、自分自身のメンタルの弱さに腹が立ちました。
良い将棋を指したい。それが全くできなかった自分に苛立ちました。はっきり言って悔しかったです。
勝ってこんな気分になることがあるんですね。将棋とはすごい競技です。
終わりに
というわけで第2局はなんとか勝利をつかみ、戦績を1勝1敗の五分に戻しました。この後は猪組のトップを独走するそるこりさん、そしてそのそるこりさんをあと一歩のところまで追い込んだ弥院快志さんとの対局があります。
本局のような納得がいかない将棋は指したくないです。そのためにしっかり準備して対局に臨みたいと思います。
???「来週(10月4日の週)は将棋以外のことをやると約束したな?」
サリー「そ、そうだ真純ちゃん...助けて...」
???「あれは嘘だ」
サリー「あああああああああああああああああああああああああ」
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