「進撃の巨人」のポストカードがどうして届かないのか?

 月刊誌「別冊少年マガジン」が企画した、応募者全員プレゼントの景品が凄すぎる。「進撃の巨人最終話の全52ページを、なんとまんまポストカードにするという。更にそこには諌山創(私は漫画家を先生と呼ぶのには非常に抵抗感がある)の感謝の最終メッセージカードまで添えられているらしい。それらをひとまとめにして送ってくれるのだ。素晴らしい企画というしかない。
 私とレコード会社が昔にやったストーン・ローゼズ「セカンド・カミング」発売を記念しての、アドバンスカセット「ラブ・スプレッズ」200名様プレゼントも素晴らしかったが、あれは火を点けようという魂胆が見え見えだった。限定無し抽選無し、これまで読んでくれてありがとうとの趣旨に於いても別少マが圧倒的に優れている。だが、別少マとてこれをボランティアでやっているわけではなく、「進撃の巨人」が無くなったあとも買えという意味で終了後の7月号印刷の応募券を貼り付けよと言っている点では、必ずしも良心だけではなかったどころか、行く末を非常に心配しての策略だったわけだが、この世で良心だけで成り立つものは、そもそも不気味だからいいのだ。
 応募条件を満たそうと私は、読みたいものが押見修三とあと幾つかしか無くなっていたが、そんなことはもはやどうでもよかった。躊躇なく7月号を買って応募券を切り取って貼ってそして投函した。投函する際、私はこれで間違っていないか確認した。間違っていない。5,6,7月号の印刷部分を3号分もれなく切り取って葉書に貼ればいいだけだ。いちいち鋏で切り取らねばならない、少年時代の作法を思い起こすこの懐かしさもいい。
 実際に投函する際には、5月号の応募券が剥がれかかっており、それを気にしてしばらく私はポストの前で立ち尽くしたことも告白しよう。しかし、この整然と間隔を置いて貼り付けられた3号分の応募券の列を一目すれば、それが例え郵送途上で剥がれたものだとしても、その経緯は容易に想像できるはずとの信頼からそのまま笑みを浮かべて投函したのだ。締切は7月8日だったはずだ。私はそれよりもはるか以前の6月27日に当該行為を完了させていた。
 もしかしたら送られてこないのではないか?そのような疑念を私が抱き始めたのは、7月の末だった。通常は、月刊誌でプレゼントの類をやるとすれば、その翌月号には詳細を書くものだ。しかし7月9日号にはおろか、8月9日発売の号にさえも一切の通達はない。思い起こしてみたらそもそもの応募券が隅っこに印刷されていた5月9日号にすら「いついつまでに送る」との記載がなかった。
 まさか5月号のシールが剥がれていたことが原因で資格を失効したのか?応募者が多すぎて混乱しているのか?あるいは、あるいはだよ、そもそも送るとか全員当選とか、企画自体が嘘なんじゃ?
 私はここに至って仕方なく、版元の講談社、及び別少マ編集部に直接、問い合わせることにした。もちろん純粋な読者として、場末の民としてである。ところが公式ウェブサイトには電話番号が掲載されていない。本そのものには電話番号を記載しておく義務があるのだが、公式と言えどウェブは自由。一体全体このような不祥事を招いておいて、社内コンプライアンスはどうなっているのかと更に問い合わせをしようとしたら、そのような案件に相当するメールアドレスは、ないのだった。
 諌山さんはたまたま編集部へ電話したから、デビューを果たした。電話に出た編集者が優れた感覚の持ち主だったから成し得た幸運だ。しかしそれは彼から電話があったからだ。電話しようにも会社概要にも載せていない今となっては今後は一切あり得ない。あのような傑作は二度と発掘不可能と覚悟しての狼藉か。
 私はかねてから思うのだが、出版社が電話をしないことになって幾月なのだろう?それによって出版文化は断然衰弱しただろう。新聞社ですら電話が鳴らない奇妙な光景に呆然としたのが20年前で、現在は誰かが電話で話していると揉めてんだなとしか思われないくらいだ。そこまで人々のダイレクトなコミュニケーション・ツールは奪われてしまった。マスコミという発信者たる身の安全の観点からのみシステムを構築し、それ以外の野心を捨ててしまえばどうなるのかといえば、そこにはコミュニケーション不全や探求心の疎外といった、出版本来の問題が発生してくる。
 いつになっても届かないし、そもそも送付される基準を満たしたのかどうかもわからず、もしかして一枚が剥がれたがゆえに資格喪失していたのか、いや、一切誰にも発送するつもりがないのか、とにかく判然としない(二度目)。右往左往するばかりか、睡眠被害まで及ぼされている私にはもはや手立てがない。消費者庁及び公取委に告ろうかと思っていた矢先、訳の分からないブロガーのページから「(発送は)9月になる模様」との情報が発信されていた。一体あんた、だれなんすかとその出典についてすら愚痴る毎日。
 これはない。これはないだろうよ別少マよ。私にだけ届かない。仲間外れだ。システムも締切りも論外だ。私は次々と植木鉢等を割るなどしてみたし、自分の水槽で生き生きと泳いでいるクマノミを目障りで周囲に迷惑を掛けているとの理由をでっちあげて、追放もしてみた。そうしてよくよく調べてみたら、5月号から既にして発送は9月もしくはそれ以降になると、すみっちょに小さく書いてあったのだった。
 そうなんすか。早く送れよな、講談社。そういうことは小さい字では書くなよ。ヤフオクでもプレミアがつくだろうとの目論見から、出品以前の画像無し出品者だらけなんだからよ。心配とかこれ以上掛けんなよ。こちらも辛抱堪らんのだからさ。電話もメールも私からだけは即時受けることが肝要だ。
 本原稿に対して、校長の挨拶の様にみんなが早く終わってくれと、読者も多分祈っているところに恐縮だが、かっての「少年ジャンプ」は立派だった。鳥山明の「ドラゴンボール」のスカウターの戦闘力識別数値がどうにも違うのではないかと思ったことがあった。90年くらいの話だ。私にもそれなりのジャンプへのルートはあったのだが、あえて私はそれを使うことを潔しとせず、代表に電話をしてみた。受付の女性は含み笑いを堪えきれずに、「評論家の増井さんですよね?」といって編集部にダイレクトに繋いでくれたのだった。編集の担当は困り果てていたが、やがて「こっちも精査してやってるんですよ!でももうピッコロと悟空との数値ですら整合性が無いんです。いいんじゃないですか?」と言い放った。これには本当に感激したものだ。
 関連してもう一つ言っておけば、93年のカーター・ジ・アンストッパブル・セックス・マシーンの川崎クラブチッタの際、「ちなみに増井さんは来てますか?」と呼び屋の受付に臆面もなく聞いた人がいたのだそうだ。すると呼び屋のクリエイティブマンは「もちろん来てますよ、山崎洋一郎と一緒に」と答えた。個人情報だだ漏らし。
 これが最後になる。この当時は同級生の友人のHなる人物とよく飲んでいた。その日は彼が会社に迎えに直接来ると言ってコンコンとノックして入ってきた。ところがそこには面識のない同伴女性がいて、その人は近日結婚予定であるがゆえに、最後には一度自分とやりたいと言ったので連れてきたと自慢気に述べるではないか、ひとんとこの会社で。なんでそんなもん連れてきた。俺と飲んだらその後やるのか。てか、会社にいきなし出入りすんなや。
 昔はダイレクトで危険もあったが、そこが良かった。先日など99点を出しているカラオケで誰が歌ったのか聞こうとしたところ、制止された。
 そもそもが今携帯に留守電を装着している人がどの程度いるのか。ソフトバンクの浅見さん(ただのたまたま担当者)に聞いてみた。迷惑電話だらけなので設置しない若者が多いとのことだが、設置さえしておけば迷惑だろうが何だろうが撃退できるのに、めんどくさいし月額の金もかかるので、知り合いからしか受けないと決めている若者だらけなんだそうだ。
 あ、なんかこれ以上は原稿もうやめれってことらしきムードをさすがに感じてきたのでここで終了とする。ありがとうございました。

 

 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?