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シナリオサンプル         「下駄箱の神様」             益田昌

シナリオ・400字詰め 10枚・約10分の映像ドラマ


登場人物
樋口遥(22)アパレル会社・会社員
田嶋沙世(25)アパレル会社・会社員
友野博隆(38)遥の上司
男性1
男性2

本文

〇エヌ・スタイル・オフィス・中
   服のかかったハンガーや帽子のサンプルがならんでいる。
   デスクでパソコンのモニターを見ている樋口遥(22)
   モニターの画面「発注システム」
   後ろからやってくる田嶋沙世(25)
沙世「樋口さん、竹丸百貨店さんの注文、さっきメールしました。よろしくお願いします」
遥「あ、はい、田嶋さん。確認します」
   遥、発注システムに向かう。
   次々とメールが飛び込んでくる。
       × × ×
   友野博隆(38)に頭を下げている遥。

〇会社の寮・前(夜)
   「エヌ・スタイル株式会社・社員寮」の表札。
   疲れた様子で門をくぐる遥。

〇同・遥の部屋・玄関(夜)
   靴を脱ぐ遥、下駄箱を開ける。
   下駄箱の一番下に古い張り紙。
   端がめくれている。
   それを広げる遥。張り紙の文字
   「最初の一年は恒に謙虚でいる
   人とのながりを大事にする
   苦労を楽しむ
   自分が信じたことをやりとおす」
   下駄箱の上の段に靴を入れて閉める
   
〇同・玄関(朝)
   遥、肩がうなだれている
   下駄箱を開けて靴を取り出す遥
   下駄箱の一番下の古い紙
   遥、靴を出してはく
遥「苦労を楽しむ!」
   胸を張る遥

〇エヌ・スタイル・オフィス・中 
   遥の後ろから沙世が来て
沙世「樋口さん、急にごめんなさい。今日午後、一緒に外出してもらえます か?」
遥「え?」
沙世「竹丸さんのところのアパレル担当者さんが変更になったの。一度一緒に挨拶しておきたくて」
遥「田嶋さん、でも私、発注担当ですし」
沙世「交渉するのは私達でも日々お付き合いがあるのは、樋口さん達だから」
   遥、モニターを見る未読メール十件
   パソコンの時計は十一時。
沙世「時間難しい?」
遥「あ、いえ、よろしくお願いします」
沙世「じゃあ、一時に会社出るから」
   遥、沙世に頭を下げる。
     × × × 
   オフィスに人影がない。
   おにぎりをほおばりつつ、
   パソコンの発注システムに向かって入力している遥。
   パソコンの時計12時55分。メール未読ゼロ件。
   鞄を持って、パソコンから離れる遥。
   メール未読が一件に増える。

〇電車のプラットフォーム(夕)
   電車を待っている遥と沙世。
沙世「一度会っとくとね、数字の向こうに人の顔が見えるようになる」
遥「そうですね。ほんとに。いまだに取引先の担当の方、お顔を知らない方ばかりで」
沙世「人とのつながりは大事だから」

〇遥花のフラッシュ
  下駄箱の中の古い紙の文字
  「人とのつながりを大事にする」

〇元の電車のプラットフォーム(夕)
   はっと沙世の横顔を見る遥。
沙世「どうかした?」
遥「あ、いえ、うちの部署、女性の営業の方って田嶋さんだけですよね」
沙世「そうね」
遥「大変そうだなって」
沙世「そう?でも楽しんでる」
遥「楽しんでる……」
沙世「私も去年まで発注担当だったの」
遥「え!」
沙世「去年、営業やってみないかっていわれてね。だから樋口さんたちと同じ一年生なの。営業ではね」
遥「ずっと営業されてるように見えてました」
沙世「え~!?こんなにういういしいのに?」
遥「う・・・?」
   二人で笑う。

〇エヌ・スタイル・オフィス・中(夕)
   入ってくる沙世と遥。
   オフィスが騒然としている。
   ブラックアウトしているパソコン。
   友野が近くに来る。
友野「発注システムがダウンして復旧が夜中になるらしい。樋口さん、今日の発注全部終わってるか確認してくれますか」
   遥、座って慌ててパソコンを開く
   未読一件を開く。
   「緊急展示会用衣装差し替え」の文字
   遥、口元を抑えて固まる。
遥「展示会用の差し替えです。明日京都での」
   午後5時を回った時計。
遥「課長、どうしたら。集荷がもう」
友野「明日の緊急なんてメールで送ってくるやつがあるか。誰だ、営業、断ってやる」
   遥、立ち上がって
遥「か、課長、でも困るのはお客様なので」
友野「あ?」
キーボードたたく遥。
遥「ものはあります。埼玉の倉庫」
   受話器をとる沙世の手
沙世「まずは電話。出荷できる体制か聞いて」
   受話器受け取って、遥、電話する。
   電話口で頷く、遥。
   沙世、携帯を持ったまま。
沙世「夜中に走ってくれる業者見つけた。京都に朝八時到着。間に合うか確認して」
遥「間に合います。展示会十一時からです。倉庫の受け渡しの担当者を確認します」 
   沙世、遥に頷く。

〇エヌ・スタイル・埼玉倉庫(深夜)
   通用口の前に小型トラック
   作業着の男性1が箱をトラックから 降りてきた男性2に渡す。
   男性2、箱をもって乗り込み、トラックを発車させる。
   携帯電話で、本社発注の電話番号を押す男性1

〇エヌ・スタイル・オフィス・中(深夜)
   パソコンの前の遥。
   電話が鳴り、取る。
遥「はい。無事?遅くまですみません。大変助かりました。ありがとうございました」
   部屋中のパソコンが明るくなる。
   モニターの中の「受注システム」
   ほっとした顔の遥。

〇エヌ・スタイル寮・玄関(深夜)
   靴を脱ぐ遥。
   下駄箱を開ける。
   下駄箱の中の古い紙。
   玄関に座り込む。
   「苦労を楽しむ」に手を当てて、紙をはがそうとして止める遥。
   遥、両手で膝を抱える。

〇エヌ・スタイル寮・前(早朝)
   門から出てくる遥
    門前に立っている沙世、手を振る。
   缶コーヒーを遥に渡す。
遥「田嶋さん」
沙世「到着確認しに早く出ると思ってね」
遥「ありがとうございます」
   二人速足で歩きだす。
沙世「昨日は私が悪かったと思って、仕事の事を確認せずに連れ出したりして」
遥「そんな。田嶋さんが悪いんじゃないんです・・・・本当はすごく嬉しかったんです。認められた気がして。言い出せなかった自分が悪いんです」
沙世「樋口さん、女子寮、303号室なのね」
遥「え?」
沙世「私も去年まで寮にいたから。私が引越した後に入ったんだ。303号室」
遥「そうなんですか!じゃあ、あの下駄箱の」
沙世「あ、見つけた?」
遥「田嶋さんのなんですか?あれ」
沙世「違うの。もっと前の人のだと思う。けど、あの言葉にすごく支えられたから、残していったの。下駄箱の神様」
遥「下駄箱の神様……」
   立ち止まる遥。泣きそう。
沙世「樋口さん、『自分が信じたことをやり通す』。実践したじゃない?お客様のために届ける努力をした」
遥「田嶋さん……」
   遥、手で涙をふく。
   遥の肩に手を置く沙世。
沙世「私だって実践してるわよ。いつも謙虚でいるし。ういういしくしてるし」
遥「(泣き笑い)……」
沙世「さ、いこう!」
遥「はい」
   元気に歩く二人の後ろ姿。

〇寮の遥の部屋(朝)
   タイトル「一年後」
   空っぽの部屋。
   遥、下駄箱を開ける。
   一つだけ残った靴を取りだしてはく。
   端がめくれた古い紙をテープでしっかり張って、下駄箱を閉める。
   玄関扉を開ける遥。
   朝日がまぶしく入ってくる
                          おわり

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© 2020 益田昌


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