その4

感想。
『別荘』 車谷一

この作品は性描写こそあるけれど、むしろ純愛ものです。
交際していたのに熱を失って離れていった二人。
水の中に石ころが沈むようにふらりふらりとあちらこちらに向き直りながら沈んでいき消えていく関係。

互いを意識せず付き合えて自分らしく振る舞ったがゆえに時を重ねるうちに気持ちが離れたとも言える。
うまがあう。すばらしい。
うまがあう。でもただそれだけ。
だから他の人に目移りしてもそれもいいと感じてしまう。

相手が自分にこだわって束縛しようとしない。
自分も束縛されたくはない。

そこでも気は合っている。すばらしい。十分だ。
でもただそれだけ。
だから空中分解する。
でも空中で分解したものが時々折り重なる。もうそれでもいい。
そういう二人の関係なんだよね。美しい。
惜しむらくはこの恋人からセフレになって、時折デートする関係に忸怩たる思いがあること。
(なぜ恋人で居られなかったのだろう。)そういう憐憫がある。
現状が居心地がいいのに、それを認めたがらない二人。
恋人で居られなかったし、恋人に戻りたくもない。
そしてセフレ関係は快適だが、ここに安住もしたくない。
ないものねだり。
そこに若さを感じる。儚く美しい。

だらしなくふしだらな関係に心から最高に快適だと叫んでしまいそうになるほど爛熟してない二人。
海底に寝そべる気がない二人。
寝そべればもっと気持ちよくなるかも知れないのに。

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