A;

Aは好感を抱かれやすい女性で、異性はもとより同性からも慕われた。
年上から可愛がられ年下からは慕われる。そういうタイプだった。
惚れっぽいところは人の美点を探すのがうまいとも言えた。
幼馴染との恋愛も長かったが、その長かったことが男児には平凡と感じさせてしまったのかも知れない。
あとになって思い返せば非凡だったことにも気付けるのだろうけれど男児にそれを求めるのは酷かもしれない。
この別れがあってもAは魅力的な人だったので告白もされるし惚れっぽい事もあって彼氏が居ない時間は短かった。
しかし彼氏との別れも少なくはなかった。
Aは惚れっぽく飽きやすいというわけでなかった。
惚れっぽくて尽くすタイプの恋愛をしがちだった。
それは彼氏にとって都合が良すぎて別れる理由にならないと皆が思っていたが、実際はそうはならなかった。
彼氏に対して献身的で愛情あふれるAの態度は最高のロマンスを彼氏に降り注いでいくけれど、あまりに全力で毎日が新婚生活なので彼氏もいつしか疲れてしまう。それに疑いようもない愛は影で浮気しても大丈夫だと思わせる錯覚ももたらした。
彼氏の倦怠や浮気が見えるとAは別れを切り出す。
そういう事態が少なくなかった。

Aはある男の噂を聞いた。噂には彼女と毎日2時間以上の長電話をして日中にはメールを10回くらいはやり取りしているという。
それを毎日欠かさないという。延々と欠かさない密な関係。
Aにはそれが羨ましかった。
自分の100%を受け止めてくれる人はこういう人だろうと密かに慕っていた。
ライブハウスで顔を合わせる機会があり、その後も映画を観に行ったりしたおりに連絡を取り合うようになると、Aもそろそろ我慢の限界がきて誘うようになった。
自分の感情はともかく、告白は男にさせたいというのがAの流儀だった。
呼び出すだけでも本人の中では異例だったがAにとっての背に腹は代えられないというものだった。
ややあり結句。

かくしてAとその男は交際を始めることに相成った。
男はAを愛したし、Aも男を愛した。
Aは熱のある愛情表現をいつまでもつづけた。男も十分に呼応した。
男もいささかも引くことはなく、熱を持っていた。
繰り返すことも飽きず、新しいことにも躊躇うことのない二人だった。
Aは受け手として完璧さを自分に課していた。
例えばキスを求められたら絶対に受けるし、むしろ積極的にする。これを励行した。どんなに時間がないときでも絶対受けるし、自分からやめることもない。終わるまで延々とキスをしているA。
常にそういう態度だった。
男は付き合って一月か二月経ったころ、Aの姿を見てしみじみスタイルが良いと感じた。
なぜそう思うのかと思ったが、出会った頃は少しポチャッとしていたはずだけれど、その様子がいまないことに気づいた。
ダイエットしていたのだ。それを指摘した時にAが言ったのは
「高校生の時はもっとよかったんだよ。」と悔いていたのもおどろかせた。
一言もダイエットに触れない。ここ数ヶ月の努力は遅すぎたとでも言わんばかりのつぶやきだった。
高校生の時の自分を見せられなくて残念だとでもいいたげだったA。
あまりの感情と努力に言葉もない男だった。
男はAのことが好きなので、Aを愛するという一点でAの期待に応えていた。
男の変わらない態度は、意図して維持してるところも多分にあったが、
初交のときに(こういうものか)という一種の諦観があった。
そこから来るバランス感覚が、さも全力を長期間にわたって維持しているかのようにAに感じさせている。
当たり前のように見せて、意図してコントロールして維持している男だった。
Aの貴重さをわかっていたからだ。そして理解していなかった。
想像以上にAは貴重だったことは、男のそれ以降の人生を踏まえることでさらに感じ入るものがあった。

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