荒野に眠る龍

核戦争が起きた夜、龍は生まれた。

多くの人間が死にゆく中で、龍は雄叫びを上げた。

100メートルほどの身体をゆっくりと動かして、

龍は乱れた世界を散歩する。

大統領なんていなくなった世界。

資本主義なんて無意味になった世界。

食糧危機なんて遥か昔の話になった世界。

龍は価値観が変わった世界で、月を眺める。

あれだけは無事だ。放射能で海も汚れ、森も消失し、荒野が広がる世界であっても、夜空に浮かぶあれだけは輝きを失うことはない。

龍は滅びゆく世界で、涙を流す。龍には龍なりの哲学がある。

自分はひどく恐い見た目をしているが、決して人を襲ったりしない。ましてや殺人なんてしたくない。

龍は暴力が嫌いだった。だからなぜ、人は人を傷つけるのか、まるで理解ができなかった。

愚かさゆえに未来が潰える存在を、龍は夜空に散りばめられた星だと思う。彼らは
何も出来ぬ。しかし、せめて輝いてほしいと。

龍は身体を横たわらせて、目を瞑る。

世界も眠る。永遠の夜がやってくるかもしれない。

それでも龍は荒野に咲いていた少しばかりの草木を見て、一抹の希望を抱く。まだ、生きている人間はいる。お前たちが新しい世界を作れよと。


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