記事一覧
パンケーキに塩を振る(小説)
「山ちゃんは甘党だね」
大学の食堂でショコラパンを食べていた俺に、同じ文学部の宮田エミがニヤケながら言った。
「まあ、甘いのは必須だな。なんというか、アイデンティティなんだろうな 」
「甘いものが?」
「そう。男にしては珍しいだろうけど」
俺の陣地にはショコラパンだけではなく、加糖の缶コーヒーも置かれている。『甘い』を掛け算しているようで、客観的には病気にならないか心配されるレベルだが
沈黙の赤ワイン(小説)
「結婚してほしい」
僕がこの言葉を放つのは、これで三回目だった。一度目は横浜の海が一望できるフレンチレストラン、二度目は東京タワーが見えるイタリアンレストラン、そして三度目の今回は、浅草にある老舗の洋食レストランだった。二度目までが非現実的な場所だったから、今回はあえて手ごろな場所にした。
しかし、彼女は場所など関係なく、「ごめんね」と言って赤ワインを飲んだ。
「どうしてダメなの?」
君がいる夏 (ミスチルが聴こえる)
僕の好きな夏が終わってしまった。同時に、学校が始まってしまった。夕暮れも悲しくなる季節が来る。海を見ても虚しくなる季節が来る。冷たい風が吹き、寒くなるこれからが、僕は嫌いだ。
「何聴いてるの?」
放課後。君はイヤホンをした僕の肩を叩いて、訊く。
「言っても知らないよ、君は」
それでも君は僕を離さない。
「いいじゃん、教えてよ」
小さな子供みたいにせがむ君。仕方なく、僕は教
何処へ行く?(ショートショート)
この車、何処へ行く?
行き先は、不明。
しかしどうして行き先が不明なのかさえ、不明。
外観が見えれば良かったけれど、窓の外は何故だかブラックアウトしている。だからここが都会なのか、田舎なのか、それすらもわからない。
もっと言えば、僕は助手席に座っているのだが、運転手がいない。しかしアクセルは踏まれていて、ハンドルは動いている。これはあれか、幽霊の仕業だろうか。
この車、何処へ行く?