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もと鳥取市歴史博物館学芸員・やまびこ博士こと佐々木孝文による城跡や近代文化史に関する論考等を、不定期に掲載していきます。
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#近代文学

概説 鳥取城の近代史

概説 鳥取城の近代史

(『鳥取城資料集 近代編』 鳥取市教育委員会、2013.3所載)

はじめに近世城郭の歴史は、明治維新で終わりではない。

鳥取城のように、現存する近世城郭の保存整備を実施する場合には、文化財の性格や現状を的確に把握するためには、近代史の研究が不可欠であり、また、地域社会における近世城郭の意味づけを考える上でも重要な意味を持っている。

にもかかわらず、森山英一『明治維新 廃城一覧』(注1)を端緒

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書評 日出山陽子『尾崎翠への旅-本と雑誌の迷路のなかで-』(小学館スクウェア)

(2009.9 「日本海新聞」所載。書評。)

 宝石のように美しい装丁が目をひく本書は、現在の尾崎翠研究隆盛の礎を築いた研究者の一人、日出山陽子氏の労作である。

 著者日出山氏は、作品や関係資料の調査に昭和五十年代から取り組まれ、稲垣眞美氏が創樹社版『尾崎翠全集』を編纂した際にも大きく貢献した研究者である。翠の親友であった松下文子氏からの直接の聞き取りなども含め、著者の存在がなければ、私たちが

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テクストの「場」 尾崎翠の代表的作品群(1927〜1933)の場合

テクストの「場」 尾崎翠の代表的作品群(1927〜1933)の場合

1、はじめに

 尾崎翠は、時に「幻の作家」などと言われることがある。

 それは、実際の作品数が少ないだけでなく、作家としての評価の中心となる作品のほぼ全てが、昭和2年(1927)~昭和8年(1933)の約七年間に発表されたものであり、あたかも文化とモダニズムの1920年代の終焉とともに筆を折ったかのような印象を与えるためである 。その印象が、「モダニズム女性文学の作家」 という、実際には時期的

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