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もと鳥取市歴史博物館学芸員・やまびこ博士こと佐々木孝文による城跡や近代文化史に関する論考等を、不定期に掲載していきます。
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#尾崎翠

書評 日出山陽子『尾崎翠への旅-本と雑誌の迷路のなかで-』(小学館スクウェア)

(2009.9 「日本海新聞」所載。書評。)

 宝石のように美しい装丁が目をひく本書は、現在の尾崎翠研究隆盛の礎を築いた研究者の一人、日出山陽子氏の労作である。

 著者日出山氏は、作品や関係資料の調査に昭和五十年代から取り組まれ、稲垣眞美氏が創樹社版『尾崎翠全集』を編纂した際にも大きく貢献した研究者である。翠の親友であった松下文子氏からの直接の聞き取りなども含め、著者の存在がなければ、私たちが

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テクストの「場」 尾崎翠の代表的作品群(1927〜1933)の場合

テクストの「場」 尾崎翠の代表的作品群(1927〜1933)の場合

1、はじめに

 尾崎翠は、時に「幻の作家」などと言われることがある。

 それは、実際の作品数が少ないだけでなく、作家としての評価の中心となる作品のほぼ全てが、昭和2年(1927)~昭和8年(1933)の約七年間に発表されたものであり、あたかも文化とモダニズムの1920年代の終焉とともに筆を折ったかのような印象を与えるためである 。その印象が、「モダニズム女性文学の作家」 という、実際には時期的

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「フェミニズム批評」という視点が可能にする不可視領域へのアプローチ ―塚本 靖代 『尾崎翠論―尾崎翠の戦略としての「妹」について』を読む―

(2006年に刊行された塚本靖代氏の遺著の『日本海新聞』での書評。2006.7)

 本書(近代文芸社、2006)は、2002年逝去された塚本靖代氏の修士論文に、雑誌論文を加えて刊行されたもので、あまりに早く逝かれた塚本氏が私たちに残された、重要な研究成果である。塚本氏は、フェミニズム批評という方法、あるいは視点から尾崎翠にアプローチした、近年の尾崎翠研究におけるキーパーソンの一人であった。

 

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