兎にも角にもカネを理解しないと仮想通貨は理解できない

Defiの構成要素のうち、非常に重要な仮想通貨(暗号資産、暗号通貨、クリプトなど呼称は色々ありますが馴染みのある仮想通貨にしておきます)の価値についての見解を述べます。

私たちが普段から使用している貨幣や紙幣は、なぜ価値があるのでしょうか。アメリカの中央銀行にあたるFRBによると、10ドル札をするのにかかるコストは11.1セント。紙幣を紙製品と捉えた場合、原価比で約90倍の値付けがされている高級紙ということになりますが、価値倍率を考えて現金支払いをしている消費者はほとんどいないでしょう。アメリカのような国の中央銀行が10ドル紙幣を10ドルと認めてくれているのであれば、価値を疑う必要もありません。しかし、自国の政府や中央銀行を信用できない人々は、自国通貨よりも米ドルやユーロを好むでしょう。要するに、発行者の信用力(財務の健全性)が極めて重要になります。他にも通貨価値の安定度や強制通用力(これは概念が少々難しいので、今度書きます)なども重要です。

では、政府保証のない地金(ゴールド)の価値の源泉はどこからくるのでしょうか。ここに暗号資産の価値を見抜くヒントがありそうです。言わずもがな、金は世界どこでもその価値を認められた類い稀な金属です。過去に遡れば、エジプトの上流階級は金の装飾品を身につけていたことはよく知られていますが、この時代のエジプトに政府発券銀行に相当する機関が存在したという事実は聞いたことがありませんので、金は政府補償なしにその価値を保つことができたワケです。その理由は諸説ありますが、わかりやすいところで行くと、その光り輝く外観(それなりに磨く必要はありますが)と加工のしやすさから、ファッションとしての価値を見出されたという説に加え、流通量や埋蔵量といった流動性または希少性が関係していると考えるの適当かと思います。誰でも簡単に手に入るものを力の強い上流階級が好むとは思えませんので。金の総量は17万トン程度と言われており、オリンピックプール3杯分超。しかも採掘できる場所は限られています。ここから言えることは、供給が限定的で、一定の使用用途が人々の間で認められ、さらにその希少価値が浸透すれば、政府保証がなくとも通貨としての価値は認められる可能性があるということです。

もう一つ、ヒントになりそうな事例を挙げます。
“グローバルステーブルコインの存在根拠が既存の法定通貨の発行主体によって現出されたのに対して、より抽象的な社会の共同幻想によって通貨価値の根拠が得られた史実も観測される。日本に おいては、12世紀後半に平清盛が日宋貿易を積極的に推進し、中国の南宋政府から青銅銭が輸入される。これらは日本政府が輸入した外国の貨幣であるが、日本国の法定する貨幣ではなかった。このため法の建前として輸入銭は貨幣ではなく、 いわゆる私鋳銭と同等の扱いであった“ (岡田、2021)

時の国家に法定通貨として認められていないにもかかわらず、商人たちの間で利便性の高さと複製が難しいという理由から貿易に利用されていた銭が存在していました。これは、今のビットコインの使われ方と類似する現象です。

要するに、お金というのは政府保証がなければ価値を見出されないということはなく、最新の技術で複製を防ぐ仕組みが実装されていたり、希少性が認められていたり、高い利便性から人々が好んで使用していれば、通貨としての役割を果たすことは十分可能と言えます。ビットコインやイーサリアムなどの仮想通貨はあまりにボラティリティが高く安定投資には不向きなリスク資産と捉えられていますが、時間とともに幅広く利用が促進されれば、金の代替となる日がいつかやってくるかもしれません。

Yoshitaka NAKAHIRO and Shuji OWADA, Recycling of Precious Metals, https://www.jstage.jst.go.jp/article/shigentosozai1989/107/2/107_2_119/_pdf , 1991
岡田 仁志、スマート・コントラクトの基盤としてのブロックチェーン経済圏の構造特性:自律分散的に拡張する価値交換装置の創出, 2021




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