見出し画像

父の人生を変えた『一日』その25 ~全米空手道大会~

その25 ~全米空手道大会~
 息子が西海岸の空手大会で優勝した。アメリカを4つの地域に分けて上位3位まで出場出来る全米空手大会がニューオリンズで行われる。家族全員連れて行くと啖呵を切った関係で行くことになった。先立って大洪水で大変な事になったニューオリンズ。ミシシッピ川が流れデキシーランドジャズが町のあちらこちらから聞こえるアフリカ系黒人の多く住む町である。会場はヒルトンホテル。私は家族4人の飛行機代、大会開催中のホテル代全てアメックスのクレジットカードで支払した。
 アメリカンエキスプレス・アメリカの代表的なクレジットカード会社である。そのアメックスから電話があった。
「水澤さんですか?クレジットカード紛失されませんでしたか?」
最初意味がよく解らずなぜこの電話をされているのですか?と当方から質問した。
「sefety check 安全確認です」と答えが返ってきた。短期間に多額のカード使用の場合にカード会社から安全確認のためにかかって来たのである。つまり盗難や紛失のチェックであった。全米大会のための飛行機代、ホテル代とうとう100万以上のお金を一度に使ったためであった。驚いた。流石にアメリカカードの国と感心した。何と言いう安全確認ではありませんか。
 大会はどんどん進んでいった。暑くてたまらないニューオリンズであった。1ブロック歩くだけで汗だくになるくらい暑かった。試合前、昔私の親父から教えられた
「鬢びん(もみあげをしたから思いっきり引っ張ること)」思い出し息子のもみあげを引っ張り上げた。私も息子も気合は入っていた。そして、この後息子は大偉業を成し遂げるのであった。


~倅の解釈~
 空手道大会で州予選、地区予選を形・組手共々優勝で勝ち上がった私。幼少期から体が小さく、更には病弱ですぐに病気になる貧弱な弱い倅が空手の全米大会へ出場する。州大会でダブル優勝を成し遂げたとき、親父は相当うれしかったのであろう。表彰式で表彰台に向かう途中、観客席から飛び出して来て、私を肩車し、会場を一周した。「This is my son!!」と。水澤家にとってはこの州大会での優勝で十分だった。
 しかしながら、無謀な挑戦と負けを前提に出たカルフォルニア大会でもダブル優勝。そして、そのまま、全米大会出場となった。このとき、家族で行くと親父が約束をしていたので、家族で行くことを計画したが、実は水澤家にはこの旅行にいく予算がなかった。決してシアトルでの家計は楽ではなかった。まだ30代サラリーマン一家。両親は相当困ったと思う。でも何とか倅のためをと思い、クレジットカードで遠征費用をとりあえず支払い。クレジットカードだと1か月間、実際での現金支払いを延長できる。
 のちに聞いた話しだが、長岡の祖父が全額負担してくれたらしい。この話は親戚中、有名となってしまって、いまだに親戚からは
「あんたは、おじいちゃんから100万円出してもらったのだから、もっと感謝しなさい」とよく言われる。勿論、感謝している。でも、半分は推測だが、父は、お金をくださいと絶対に言わない人だった。なので、会社経営をしている祖父にクレジットカード支払いまでにお金が集まらず、「お借り」するお願いをしたら、祖父が目的を知り、援助してくれたのだと思う。
 ここで大事なのは、商売と一緒でハードルが高いチャレンジでも一歩前に出てみないと実際のチャレンジの難易度がわからないということだ。父にとって、家族で100万円を使うということは大きなチャレンジ。でもこのおかげで私のアメリカでの空手人生はスタートしたのである。親父の無謀かもしれないが、強い信念を持った判断力に心から感謝する。そして、あたたかく援助してくれた祖父、祖母にあらためて感謝したい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?