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父の人生を変えた『一日』その16~試される駐在員~

その16 ~試される駐在員~
 アメリカには世界一大きな木材会社ウェアハウザー社があった。パンパース(赤ちゃんのおむつ)から木材全般を取り扱っていた。その原木部の部長から電話があった。
「この材木を見て感想評価を教えてくれ。」と。喜んで検品した。そして、値踏みしてその評価を伝えた。そういうことが何回も続いた。ある時、すばらしい材木があった。問題は長さだけであった。すべて短いのである。私は独自の評価をした。ウェアハウザー社の部長が電話してきた。
「ライオンこの材木の評価おかしいのでは?他の商社マンとライオンの評価だけが著しく違う。何かの間違いでは?」
「はああん」 と思った。素人が評価しているなと思った。この時に名古屋で鍛えられたあの海の上での仕分けの勉強が功を奏した。ウエア―ハウザー社の日本向けセールスマネージャー・ジムメイソンに他の商社は評価が低いのでしょう?と問いかけた。「その通り」と答えが返ってきた。矢張りそうか。
 「この材木の評価は非常に難しいです。こういう丸太は名古屋区に持って行かねば評価は低いのです。造作材の栂の選木(すばらしく節もなく腐れもなく太さがあり欠点がほとんどない丸太)は地域によって全く評価ことなるのです。また短いことにより日本での再寸検の時の出石が悪いので皆評価できなのです。」と淡々と答えた。
色々と駐在員をテストしてきたという。私はこれからもどんどんテストせよと胸を張った。材木の事なら誰にも負けないあの伊吹降ろしのなかで鍛え上げた商品の見極めなら誰でもかかってこいの心境であった。杉浦常務に教えられた格言は忘れられなかった。
「目廻りの木に節なし。ねじれの丸太に良材無し。芯腐れ材は要注意。汗の脂なら問題ないが油壷は絶対不可である。」
懐かしい。格言を覚えながら長靴はいて修業したあの経験が今でも口からでる位修業した。


~倅の解釈~
 仕事との向き合い方はそれぞれだが、父からはいつも「命かけてやれ」と教えられてきた。サラリーマン時代も会社を継いだ後も同じ。さらに、仕事に対する基礎にこだわった親父であった。商品知識、営業ノウハウなど、とにかくしっかりと基礎をしっかりと学び、はじめて応用系を実践できると教えられた。
 父は木材の基礎知識を名古屋で積み、更にアメリカにわたり様々なケース、木材を送り出す、買う立場から場を踏み、知識を見識に進化させた。日曜日、父に連れられ妹と一緒に木材が並ぶストックヤードに行ったのが懐かしい。父はしょっちゅう仕事場に我々子どもを連れて行ってくれた。
 近年は働き方改革が騒がれているが、仕事を通じて幸せを勝ち取る本質をどこかで忘れているのではないかと、危惧する。勿論、仕事だけの人生は嫌なのかもしれないが、忘れてはならないことは、稼ぎがあってはじめて生活ができる。しかも、次世代、後世のために『命を懸けて』働いてきた戦後の世代の方々のことを考えると、今はこれでいいのかと不安になる。

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