WindowsをインストールしないでSteam Deckで非Steamゲームを動かす方法

概要

Steam Deckの日本向けの出荷が正式に開始した。英語圏ではとっくに販売・流通しているものなので英語のドキュメントや解説は多いが、おそらく日本語での解説が出てくるまでにはある程度時間を要すると思うので、需要がそれなりにあるであろうSteamライブラリ外のゲームをDeckに追加して遊ぶ方法について書き付けておく。

手段の選定

大前提としてSteam Deckに搭載されているSteamOSはArch Linuxベースの基盤OSであり、Steam Deckの所有者はこれに対してフルコントロールが最初から提供されている。つまりPS機やSwitchのように特別な手順で脱獄をする必要はなく、普通のLinuxマシンに出来ることならまあ大体出来るということだ。これは別に特別なことではなくハンドヘルドゲーミングPCは大体そうなのだが、SteamOSゲーミングモードのいかにもコンシューマ機っぽいUIが勘違いを生みがちなのかもしれない。

次に目的を達成するための手段の選択について。前提を踏まえると、手元のWindowsマシンで遊んでいる非SteamゲームをDeckで遊ぶにはどうすればいいのかというのは、言い換えれば単にWindowsのゲームアプリケーションをLinuxで遊ぶためには何をすればいいのかということになる。当たり前の話だが、Linuxをゲーミングプラットフォームとして利用している人はDeck以前からいくらでもいるので、手段もいろいろと存在するのだが、せっかくSteamのマシンを使っているのだからSteamのアプローチに便乗させてもらうのが一番スマートだろう。そもそもSteamOSがどうやってSteamのゲームをDeckで動かしているのかというと、もちろん全デベロッパーに「DeckのためにLinuxネイティブのバージョンも提供しろ」と脅して回っているのではなく、WineをベースにしたProtonと呼ばれる自社開発のゲーム向け互換性レイヤーを利用している。もちろんこれもユーザーが自由に利用できる代物なのでこれを使ってDeckにゲームを追加していこう。

ちなみにちゃぶ台返し的なアプローチとしてDeckにWindowsをねじこんでデュアルブートにしてしまうという手段も存在する。この行為は厳密には公式ではサポートされていないものの、Windowsをインストールする際に必要なドライバー各種は公式から配布されている。曰く、

Steam Deckはデュアルブートに完全に対応していますが、デュアルブートウィザードを表示するSteamOSインストーラーは現在準備中です。 これは、SteamOS 3が完成した時点で一緒に出荷されます。

https://help.steampowered.com/ja/faqs/view/6121-eccd-d643-baa8

とのこと。Valveは乗り気である。ちなみにWindowsをねじ込んでも本体内部の改造とかに手を出してなければ1年保証の対象外でもないらしい。まあ修理に出す前にSteamOSのクリーンインストールすればいいだけなので当たり前だが。どちらにせよこの「Windowsのゲーム遊びたいならWindows入れればいいだろ」というパワー系のソリューション、手順の方は煩雑で繊細(インストールメディア作るのもだるいし、遊ぶゲーム切り替えるためにいちいちブートしなおすのも面倒だし、プロダクトキー認証する時にWiFiが使えないのでUSB-C経由でネットに接続しないといけないらしい)なので今回は見送りとした。そこまでしなくてもProtonで十分すぎるほどの互換性が確保できる。

手順

操作方法

SteamOSのゲーミングモードから電源ボタンを長押しで出てくるメニューに「Switch to Desktop」というのがあるので、それを選択すると見慣れた感じのLinuxのデスクトップ画面になる。デスクトップモードでは左上に「Return to Gaming Mode」のショートカットがあるのでこれを選択するとゲーミングモードに戻れる。なお自分はDeckの言語設定が英語なので、日本語にしている人はそこらへんいい感じに適当に読み替えてアレしてほしい。

デスクトップモードでの操作はマウスとキーボードがあれば非常に楽だが、いかんせんDeckにはUSB-Cポートが1つしかないのでbluetoothでなんとかするかハブを繋ぐかすると良いだろう。ちなみに自分は面倒なのでマウスもキーボードも繋がずに操作している。同じようなものぐさ人間のためにDeck本体での操作についても書いておく。

  • マウス操作:右スティックもしくは右トラックパッド。スティックでのマウス移動は感度がすごすぎるためトラックパッド推奨。

  • 左クリック:右トラックパッド押し込みもしくはRトリガー。右トラックパッド押し込みは同時にマウス移動を誤爆してしまうことが多く異常に繊細なタッチを要求されるためトリガー推奨。

  • 右クリック:Lトリガー。

  • スクロール:右トラックパッド。なんか知らんが動かない時もあるのでその時は諦めて左クリックホールドしてグイッとやる。

  • キーボード入力:STEAMボタン+Xボタンでオンスクリーンキーボードが表示される。

以上でまあ大体なんとかなる。もちろんタッチパネルの画面タップでもカーソル移動と左クリックは出来るけどAIMの難易度はすごい。このコントローラー操作、よく仕組みは分からないけどSteamのアプリ側でバインドしてるっぽくて(デスクトップモード内で)SteamやSteamのゲームを起動したり終了したりする時に一瞬操作不能になる。待ってれば治る。うんともすんとも言わなくなったらタッチパネルはいつでも反応するっぽいのでそれでなんとかしよう。

ファイル転送手段の確保

まず手元のWin機とSteam Deckとの間で自由にファイルを行き来させることが出来る環境を整えること。スマホをパソコンと繋ぐのとはわけが違うので単にDeckとPCをUSBケーブルで繋いでも何も起きない。ノートPC同士をUSBで繋いでも何も起きないのと同じ。手段はなんでもいい。外部ストレージを経由する、クラウドストレージを経由する、NASを使う、FTPサーバーを立てる……など。自分は同じローカルネットワーク内でファイルを送受信できるWarpinatorというソフトとUSB接続の外部ストレージの2つを利用している。USBフラッシュメモリや外部ストレージを利用する場合はDeckにはUSB-Cポートしかないので対応してるやつにするかアダプタ買うなりすること。

ゲームの移動

Deckで遊びたいゲームをフォルダごとWin機からDeckのストレージに移動させるだけ。HumbleやGOG、DLsiteなどから入手したDRMフリーのゲームやスタンドアロンのフリーゲームなどがいいだろう。DVDチェックやソフト電池とか、なんらかの認証があるゲームは(面倒で試していないが)上手く動かない可能性が高い。

Windowsで言うエクスプローラーに当たる「Dolphin」というファイルマネージャが最初からドックに登録されているのでそれで上手いことアレしよう。本体ストレージに入れてもいいし、microSDに入れてもいい。Removable DevicesのprimaryがmicroSDのストレージになっている。購入したばっかりの場合はゲーミングモードでのストレージオプションからmicroSDのフォーマットを済ませておくことを忘れないように。

Proton GEの導入

Steamに最初から付属しているProtonも十分優秀なのだが、せっかくなのでProton GEを導入しよう。Proton GEはGlorious Eggrollというユーザーが本家Protonからフォークしたバージョンで、ゲーム用にさらなる細かいチューニングがなされている。本家Protonと共存可能なので特に導入しない理由はない。

Dockに最初から登録されているDiscoverアプリ(iOSやAndroidのアプリストアみたいなもの)から「ProtonUp-Qt」というアプリをインストールしよう。起動すると簡素なGUIが表示されるので、Install for:でSteamを選択し、左下のAdd versionからGE-Protonを選択。最新のバージョンを選んでインストールしよう。これでSteamにProton GEが導入された。

なお、Proton GEのバージョンをアップデートする際は上書き更新されず、前のバージョンを残したままインストールされる。気になる場合は都度削除していけばいいが、旧バージョンに紐付けられたゲームタイトルは後述のランナー選択をやりなおす必要があるので注意(ProtonUp-Qt上からでどのバージョンにどのゲームが紐付けられているかは確認可能で、ない場合はバージョン名の後にunusedと表示される)。

Steamにゲームを登録

さきほどDeck内に移動したゲームをSteamに登録する。デスクトップモードからSteamを起動する。ゲーミングモードに戻るのではなく、その横のSteamアイコンをクリックしてSteamクライアントを起動すること。Windowsで見慣れたSteamのクライアント画面が表示されるはず。一番上のメニューからGames>Add a Non-Steam Game to My Libraryを選択。BROWSE…からDeckに保存したゲームのパスまで移動してゲーム起動用のexeファイルを選択。Windowsのexeファイルはファイルタイプを全て表示にしないと表示されてこないので注意。追加するとAdd a Gameウィンドウ以下にチェックボックスが選択された状態で追加されるのでADD SELECTED PROGRAMSをクリック。これでSteamライブラリに先程選択したexeファイルが追加されたのを確認できるだろう。

先程追加されたゲームをライブラリ上から右クリックし、一番下のPropertiesを選択。TARGETとSTART INのパスがしっかりとゲームをコピーしたフォルダになっていることを確認する。Dolphin上からゲームのexeを右クリックしコンテクストメニューから「Add Game to Steam」することもできるのだが、これをするとなんか知らんがパスがめちゃくちゃになってることがあるのでSteamクライアントから上記の手順で追加するのが無難である。左側のCOMPATIBILITYの欄からForce the use of a specific Steam Play compatibility toolのチェックボックスをクリック。互換性ツール(ランナー)を選択するドロップダウンメニューが表示されるのでここで先程インストールしたGE-Protonを選択しよう。もちろん本家のProtonでも良い。動作が不安定の場合は色々試してみるべし。

なおProtonDBというサイトがあり、ここでProtonでのゲームの動作について多くの情報が投稿されている。ゲームを快適に動作させつつDeckでバッテリーを長持ちさせるための電源オプションやグラフィック設定などについても記載されていることが多いので、Steam・非Steamにかかわらず一度は掲載されているかどうかチェックしてみると良い。

起動チェック

以上で手順は終了である。DeckのSteamライブラリ上にWin機から移動したゲームが登録され、ゲーミングモードからでも起動できるようになっているだろう。Proton(Wine)は想像以上に優秀で、ほとんどのゲームは特別な設定なしで起動するし、トラブルが起きる場合もオーディオ関連のDLLをちょっと弄るだけで解決する場合が多い。

東方も動きます
古代のノベルゲームもこの通り

ツクールゲーと反社ランチャーとゲイツパス

ツクールゲーはProtonに突っ込むだけでは動かず、2000系統、XP/VX系統、MZ/MV系統でやることが変わってくるのと、とにかく日本語フォント周りがだるく快適に遊ぶにはかなり面倒な手順を踏む必要あり。2000系統はEasyRPG Player、XP系統はmkxp、MZ系統はブラウザで動かすとかが良いかも。Wineでゴリ押しもいけるがとにかくフォント周りが面倒。

反社ゲームランチャーことEpic Games Launcherで購入・入手したゲームもDeckで遊べる。Heroic Games Launcherというのを経由するのが楽っぽいが、自分は反反社なので詳細についてはここでは触れません。ググればそれっぽい解説はいくらでも出てくると思われる。LutrisというLinux版Steamのようなプラットフォームを使うのもアリ。

ゲイツパスことXbox Game PassのゲームはWindowsのネイティブアプリとしてストア経由でインストールされるためDeckへの移植が困難。そもそもWindows上でもModの導入すら困難であるためかなりゴミ。Deckへのゲイツパスのゲームの移植について調べてみたところ「LinuxにEdgeをインストールしてブラウザ経由のクラウドゲーミングで遊べます!」という記事がたくさん出てきたのでそういうことだと思われる。コレに関しては大人しくWindowsとデュアルブートにしたほうが良いっぽい。

まとめ

Steam Deckで動かす方法≒Linuxで動かす方法である。なので、まず遊びたいゲームがそもそもLinuxに対応しているかを確認し、Linux版が存在するはそっちを手に入れた方が良い。Windows版しかない場合に限りWineのようなWindowsエミュレータが必要だが、Steam経由でProtonを利用すればややこしいWineの設定やパラメータを気にせずに起動できることが多い。Protonでも上手くいかない場合に限り、さらにリサーチをする必要がある。その場合、「○○(ゲームタイトル)+Steam Deck」ではなく「○○+Linux」で調べたほうが良いだろう(日本でもDeckが普及してくるにつれてDeckでの情報は増えてくるはずだが、基本的にLinuxでの動かし方をそのまま流用できる)。

ちなみにProtonをわざわざ利用する必要がないLinux版とかでも、一応Steamのライブラリに登録自体はしておいた方がいいと個人的には思っている。ゲーミングモードから起動出来たほうがDeckのパッドの設定とか電源オプションとかを弄りやすいので。

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