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新紙幣の話

2024年7月3日,日本紙幣が新しくなった。

日本紙幣いわゆるお札は,正式には日本銀行券と呼ぶのは有名な話だけど,パッと名前が出てくる人は案外少ないんじゃないかとか思ったりする。

そんな話はどうでも良くて。
私は学生なのでアルバイトをしている。そう,コンビニ店員である。
このアルバイトはかれこれ3年近く続けている。長い方だと思う。出勤数も多くなくゆるっと働かせてもらえるのがありがたい。
コンビニ店員ということは,頻繁にレジ業務が発生することはわかってもらえるだろう。もうほんとすごい。日配品を並べたくても先にお客さんが並んじゃう始末。何言ってんだろうね。

そんなわけで,最近も元気に店員のお兄さんを演じていたわけなのだが,地方だからなのか未だに新紙幣を見たことがない。散々お札を取り扱っているのに,だ。Twitter(現X)でちょっと騒がれていたことしかわからない。ちょうどその日の出勤前にTwitterでそのような投稿を目にしたところだった。まあ発行からまだ日数が経っていないし,忘れた頃にふと手元に来るんだろう。とか考えながら届いたおにぎりを並べる。

ふと,入店音が鳴った。
「らしゃっせ~」と脳に録音されたサンプルボイスを出す。
常連の奥さんだった。いつも決まってメビウスのploom Xのなんちゃらっていうタバコを買っていかれる人。今日も変わらずだった。どうせ間違えているわけないのに「お間違いないですかー」『大丈夫でーす』なんていつものやり取りを交わす。

でもこの後は少し違った。
お客さんがちょっとためらいながら1万円札を出してきた。普段千円札でしかお会計をされないから(お。)と思った。けどそれだけ。たまたまお札が崩れていなかったのだろう。特段気にすることでもないと思いながら福沢諭吉を自動釣銭機に食わせる。
咀嚼を待っているわずかな時間に,お客さんがなんだか嬉しそうな顔をして財布の中身を見せてきた。

北里柴三郎だ。それも二人いる。

私は思わず大きな声が出た。まさかここで実物を拝むとは。
『さっきATMから出てきたんだよね』
『なんかもったいなくてさ~,ごめんね一万円出しちゃって』
なるほどそういうことだったか。その気持ちはとてもわかる。どうせこの先流通するとわかっていても新しいお金はなんだか残しておきたくなるものだ。現に私も500円硬貨が新しくなったときは新500円玉貯金とかいう訳の分からないことをしていた。
「いえいえ!いいもの見れました。ありがとうございます~」
そんな返答をして私は過去のものとなり始めた千円札と五千円札を手渡した。

あのお客さんにとって新紙幣を手にしたことは,ふと誰かに話したくなるような小さな幸せだったのかなと思った。大したことではないけれど,今日の自分の中でニュースになる出来事。素敵だなと思った。その幸せを分けてもらった私もその日はなんだか頑張れる気がしてきた。

私が小さな幸せを直接手にするのはいつになるのだろうか,その時私は誰に話すのだろうかと,そんなことを考えながら退勤の打刻をした。

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