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【マスターデュエル 2024.08】《魔導書の神判》が使われない理由


1.はじめに

こんにちは、なごにゃんです。
今回は【魔導書】の紹介をしたいと思います。
《魔導書の神判》解禁以来、いつかは現代版【魔導書】を使ってみたいとは思っていたのですが、なかなか参考になる文献に出会えず、あってもファン構築かゲートボールの話ばかりだったので、いっそ自分で筆を執ることにしました。

構築(後ほど再掲します)

このデッキを握る理由と言えばもちろん、その《魔導書の神判》を使ってみたいからに他なりません。

気づいたら3枚使えるように

かの【征竜】と並び、2013年当時の遊戯王を破壊したことで知られる伝説のカードです。
2年間しぶとく暴れ続けた【征竜】と異なり、たった半年の現役期間を全力で駆け抜けた幻の1枚でもあり、実は競技シーンにおけるこのカードを体験できた人はそう多くないかと思います。代わりに、この世紀末環境にまつわる熾烈なエピソードは方々で語られており、遊戯王をあまり知らない人でもどこかで聞き齧ったことがあるのではないでしょうか。

当時の環境デッキが全て死滅して「【征竜】と【魔導】と時々【ヴェルズ】🗼に塗り替わったこと、それでも食らいつこうとした【炎星】が《闇のデッキ破壊ウイルス》を持ち出して《天狼王 ブルー・セイリオス》が7000円を超えたこと、最終的に《ジュノン》が全部抜けて坊主しかいないデッキになったこと……。

ゴッドジョウゲンシステム

そんな環境の一翼を担っていたということで、「具体的にはあまり知らないけどヤバいカード」という印象を持っている方が多いのではないでしょうか。

実際、このカードの制限復帰は大きな話題になり、なぜか嬉しそうに「遊戯王終わった!」と喧伝する人「《神判》が使えるなら復帰しようかな!?」とはしゃぐ当時の競技勢、「《マルチロール》に似てるね」と水を差す新規参入者など、界隈の外でも様々な声を確認できました。現役プレイヤー的には、同日発表の《ハリファイバー》禁止の方がはるかに大ニュースでそれどころではなかったのですが……。

過去の栄光

結論から申し上げますと、全然ヤバくありませんでした。
先入観のない「《マルチロール》に似てるね」の彼がいちばんまともなことを言っており、実際このカードは《閃刀機関-マルチロール》の互換程度の出力しかありません。
そして後述しますが、ぶっちゃけ《マルチロール》の方が強いです。

昔はこっちが”調整版神判”と言われていたのだが……

昔が昔なだけにその凋落ぶりを信じられない方も多いかと思いますが、はっきり言って2024年現在の《神判》は”終わったカード”です。競技的観点での利用価値は潰えており、言ってしまえば誰も使ってません。

その気になれば【閃刀姫】【エンディミオン】などに間借りして強カードのように振る舞うことはできるのですが、どう考えてもそれらは《神判》を抜いたほうが強く、「ウザいOB」のような哀愁が漂いがちです。

「ね〜ロゼちゃん俺の話聞いてる?」
「あー、そっすね(早く帰ってくれないかな……)」

……なぜ紹介記事のはずなのに初っ端からボロクソに貶しているかというと、皆さまにも余計な先入観を持っていただきたくないからです。
「あの《神判》が使えるんだ!」とウキウキで組み始めるとまず間違いなくガッカリします。冷静に考えて、10年前に強かったカードが今も同じように強いわけがなく、期待するだけ酷というものです。
さながら「民族資料館の"むかしのあそび体験コーナー"に足を踏み入れる」つもりで、謙虚でアカデミックな気持ちを忘れないようにしましょう。

※画像はイメージです

ここから先は、「型落ちなのは承知で《神判》使ってみたいんだけど」という物好きな私や皆さまのために、「なぜ《神判》は壊れていたのか」「どうして今は誰も使っていないのか」「使うのならどうすればいいか」の3本立てで解説を加えたいと思います。
なお、「ウザいOB」現象を回避するために、構築にあたっては【閃刀姫】に間借りしたりはせず、できるだけ純構築に近いものを目指します。

2.前提:なぜ《神判》は壊れていたのか? 

これを理解するには、《神判》登場直前の環境と当時のゲーム観を簡単に把握しなければなりません。
当時の環境デッキと言えば、【4軸炎星】【海皇水精鱗】【マシンガジェット】【ゼンマイ】【ヴェルズ】【セイクリッド】辺りになります。

他もいろいろ勝ってたけどね

今の展開系に近い発想の【ゼンマイ】という例外はありますが、まだ「1:1交換」が基本のやりとりとして機能していた時期です。「1:2交換」が行えるカードはそれだけで評価対象であり、それを継続して行える【マシンガジェット】【海皇水精鱗】がトップTierだったことが証左になります。
具体的には、少し旬を過ぎてはいたものの、まだ《カードカー・D》の採用が見られた時代です。これは前環境の覇者だった【甲虫装機】相手に《ホーネット》の的を作らせない意味合いも大きかったのですが、それが去ってからもポツポツと見かけたあたり、「ターンスキップという莫大なデメリットよりも1枚のハンド・アドバンテージの方が重要視され得た」ことが分かる象徴的なエピソードです。

(今の価値観では自殺行為)

当時のデッキがアドバンテージを稼ぐ手段といえば、こうした一部のパワーカード(当時)の使用、および相手モンスターの戦闘破壊に限られました。1ターン目からビッグアクションを起こすようなデッキはほとんど存在せず、少なくとも往復2〜3ターンは要してアドバンテージを積み上げていくのが当時のゲーム観だったわけです。(「数ターンで決着するなんて高速化しすぎ!」と嘆く声はこの頃にもありましたが……)

あえて言葉にすれば、「カード1枚からは1枚しか生まれないのが普通」「1枚から2枚になるカードは強い」「その積み重ねでできているのが環境デッキ」というのが、当時のプレイヤー間で共有されていた普遍的な価値観だったのではないでしょうか。

何これ?

《魔導書の神判》は、当時の価値観では測れない異物でした。
ざっくり言えば、《神判》1枚からは4〜5枚のカードが生まれます。繰り返します。「1枚から2枚」が強い時代に「1枚から4〜5枚」を生むカードがぶち込まれたわけです。この時点で当時のプレイヤーの理解を超越しており、「日本語としては読めるのにテキストの意味が理解できない」という経験をした人は多いのではないでしょうか。

みんな舞さんになってました

その「4〜5枚」というのも全部《モリンフェン》とかではなく、有効牌の「魔導書」3〜4枚が手札に舞い込み、さらに好きな魔法使い族下級モンスター1体を特殊召喚できるという内訳です。
「魔導書」は当時基準では優秀なカード群で、とりわけ耐性貫通除去ができる《ゲーテの魔導書》は高く評価されていました。そもそも《神判》がない頃から環境下位、今で言うTier2に位置していたのが【魔導書】です。そのテーマのカードがまとめて3〜4枚手に入った上で、さらに《システィ》による追加のサーチが発生したり、《ジョウゲン》《カイクウ》のようなソフトロックが無から出現したりするわけです。
総じて、強すぎるを通り越して、デザイナーがこのゲームをどうしたいのかわからないレベルのぶっ壊れカードでした。

”対象をとらない除外”の強さ

真っ当なアドバンテージ合戦でこんなデッキに勝てるわけがありません。正面から渡り合えたのはそれこそ《超再生能力》を擁する【征竜】くらいのもので、その他大勢のデッキは《闇のデッキ破壊ウイルス》《ドロール&ロックバード》のようなアンフェア寄りの手段でなんとか食らいつくか、そもそも張り合うのを諦めてTier2以下にメタを絞るかを余儀なくされました。結果として小手先の工夫ではどうにもならず、【征竜】【魔導】の2強環境に収束していったのが史実です。

最初の出番はここでした。
当時の評価は「こんなのが使われるなんて世も末だ」。

さて、結局のところ、当時の環境で《神判》がぶっ壊れていた理由は以下のようにまとめられるでしょう。

  • 「1枚から1枚」が標準、「1枚から2枚」が強カードの時代に、「1枚から4〜5枚」という段違いのパワーで登場した。

  • その強化を、無名の環境外テーマではなく、《神判》なしでも基盤が成立していたTier2テーマの【魔導書】が受けてしまった。

  • 《灰流うらら》のようなカードが存在せず、先行の《神判》を止める手段が《ドロバ》くらいしかなかった。(※当時の《ドロバ》は弱く、それでも無理やり積むしかないような状況だった)

10年近く禁止指定を受けていたのも納得の理由です。
対抗馬となる【征竜】がいたため「二強環境の一翼」という立ち位置に落ち着いていましたが、仮に【征竜】が存在しなかったらどうなっていたのでしょうか。考えるだけで恐ろしいです。
(逆に【征竜】がいたからこそ、【魔導書】だけにメタ対象を絞れずひどいことになっていたという見方も強いですが……)

3.本題:どうして誰も《神判》を使わないのか?

それほどまでにぶっ壊れていた《神判》が、今となっては全く使われていないのは何故でしょうか。
「時代の流れ」とでも言ってしまえば簡単なのですが、あいまいな表現で濁さず言語化していきます。理由は複数あります。

3-1.「1:n交換」が普遍化した

まずなんと言ってもコレです。
2024年現在において、「1枚から4〜5枚」を生むカードは何百種類もあります。なんなら5枚では済まない、数えるのもバカらしいアドバンテージ差を1ターン目から叩きつけるようなカードが溢れかえっています。

宇宙創造の魔法

たとえば、《烙印融合》発動で得られる最終的なアドバンテージはいくつでしょうか?
あるいは、《スネークアイ・エクセル》召喚で生まれるカードは何枚でしょうか?

……ほとんどの人は数えたことすらないと思いますし、意味がないので数えなくていいです。
それほどまでに現代遊戯王のカード・アドバンテージは形骸化しており、互いのビッグアクションを「通せるか・防げるか・捲れるか」の3要素で成り立つゲームに変貌しています。
これは一部のテーマに限った話ではなく、環境外テーマを含めたほとんどのデッキが何らかのビッグアクションを1ターン目から起こせるようになっています。もはや「1:n交換」は意識すらされない普遍化した概念になっており、《神判》最大の強みだった「1枚が4〜5枚になること」が特にアピールポイントにならない状況です。

バテルセンパイちーっすw

「時代が《神判》に追いついた」とポジティブに評せなくもないのですが、正直に言ってその擁護は苦しいです。時代はとうに《神判》を通り越してしまいました。次の項に続きます。

3-2.サーチした魔導書を妨害に換算できない(リソースにしかならない)

現代遊戯王で「1枚から4〜5枚になる」カードを使うとして、その「4〜5枚」はどこに出力されるべきでしょうか?
当然、多くがフィールドに出力されて、妨害数にカウントされる状態が理想でしょう。内訳としては、「2〜3妨害+墓地リソース+初動が手札に返ってくる」くらいだと手堅くていい感じです。同じ出力の《神判》にもこれができるなら、なんとか現代遊戯王に食らいつけそうな気がしてきます。

そこに溜め込んでも使えないんだよ

ご存知の通り、《神判》が生む「4〜5枚」は、その大部分が手札に行きます。フィールドに現れるのは《ジョウゲン》だけで、サーチした3〜4枚の魔導書は次のターンが来るまで使えない、純然たるリソースでしかありません。これが本当に致命的で、2つの観点から重大な弱点となっています。

  • 後攻1ターンキルで負けてしまえば、サーチしたカードに何の意味もないこと。

  • ターンが帰ってきたとしても、相手が同等以上のアクションを起こして強固な盤面を形成していたら、「魔導書」3〜4枚程度では捲りに貢献できないこと。

使う前に死ぬかもしれない、使える頃には有効期限が切れているかもしれない、そんな3〜4枚のカードを後生大事に握りしめるだけになりがちです。同格の「1枚から4〜5枚」を生み出すカードを並べて比較しても、《神判》がもたらすアドバンテージの質は相当低い部類になってしまうのではないでしょうか。

おそらくこのデッキを使った誰もが、エンドフェイズにサーチされる《ゲーテ》を見て、「これ1枚を今セットできるだけでも違うのにな〜〜」と夢想します。
悲しいことに、その希望をおおむね叶えてしまうのが冒頭の《閃刀機関-マルチロール》(+《シズク》《アンカー》)という後輩なわけです。

(わたしだってアンカー伏せられるのに、あのセンパイって……)

《マルチロール》は、細かい差異こそあれど《神判》の相互互換と言えるパワーを備えています。そのうえで、出力するカードを盤面にセットするので、《アンカー》《シャークキャノン》のような速攻魔法の閃刀カードを伏せることで妨害数にカウントできます。この一点で、現代では《神判》より《マルチロール》の方が強いと言い切れます。使えないカードを握りしめているより、相手への妨害をひとつでも増やせるほうがはるかに有益だからです。

こっそりセットしたらバレない説

もちろん、《ゲーテ》に相当する閃刀カードはありませんし、「【魔導書】は劣化【閃刀姫】だ!」と吐き捨てるつもりはありません。それにしても、ターンが返ってくることが前提だった時代の【魔導書】と、先行制圧の概念が浸透しきった後に生まれた【閃刀姫】とでは、そもそも見ている景色が違うことを痛感させられるコントラストです。

「手札ジャブジャブ楽しいわよね!」

一応、【魔導書】の気持ちを分かってくれそうなデッキとして、現代にも「盤面よりリソース」を指向するアーキタイプはあります。具体的には【マリンセス】【プランキッズ】【スケアクロー】辺りがこれに相当し、盤面こそ1〜2妨害に留まるものの、豊富なリソースと安定した後続が本質と言えるミッドレンジデッキです。
となると、「【魔導書】もこれの仲間では?」と擁護したくはなるのですが、これも無理筋です。

「そんなジジイカードと比べないでくれよ~」

【マリンセス】【プランキッズ】【スケアクロー】がデッキとして成り立つのは、「質のよい大量の1枚初動」によって高い再現性を持っているため、また「空きスペースに詰められた大量の手札誘発」によって実質的な妨害数を担保しているためです。【魔導書】にはそのどちらもありません。後述します。

3-3.魔導書カードが弱い(リレーの終着点がない・1枚初動がない・消費スペースが莫大)

深刻な問題ではあるのですが、単純に「魔導書」カードのパワーがおしなべて低いという意味ではありません。事態はやや複雑です。

これがなんにでも出張していた2017年

まず、出張セットとして規制経験もある《バテル》《グリモ》《ルドラ》の3点セットは今でも及第点の性能です。さすがにもう出張することはないでしょうが、環境テーマにこれらの互換カードが存在してもそれほど違和感はないでしょう。
また、これらのコピー・再利用ができる《セフェル》《アルマ》もまだ使える方と言ってよく、こうして見ると意外にも採用圏内のカードが多く残されている優秀なテーマに思えてきます。

問題は、ここまでに上げたカードが、《神判》を含めて全てサーチカード・ドローソースであることです。これらを使って引き込む価値のあるカードとはなんでしょうか?

わしじゃよ

これしかありません。
これこそ、「魔導書」が弱い理由です。
大量のサーチ・ドローによるリレーの終着点に、まともと言えるカードが《ゲーテ》しかありません。

昔は強かったんだけどね

知名度の高い《ヒュグロ》《ラメイソン》《トーラ》あたりは、もう純粋に型落ちです。何とか絞り出して、他に採用価値がある魔導書カードと言えば《ネクロ》くらいですが、これもどちらかと言えば2巡目以降の手数や選択肢の部類で、わざわざリレーを重ねて掘りに行くほどのバリューはありません。

不安になるイラスト

もっと単純な話、伏せて妨害になる魔導書が《ゲーテ》しかありませんし、そもそも相手のカードに触れる魔導書も《ゲーテ》しかありません。
言い換えれば、このデッキがやっていることは、わざわざサーチとドローを繰り返して大がかりに《ゲーテ》の準備をしているだけに過ぎません。

「レイちゃんそれ貸してよ~」「いやです」

本当に、《アンカーの魔導書》が1枚あるだけで違うはずです。あるいは妨害にならなくても、《バーナーの魔導書》で盤面干渉できるだけで後手や返しがいくぶんかマシになるはずです。そのどちらもないので、「玉ねぎの皮むき」のような虚無度の高いサーチ・ドローの繰り返しをするしかないのが【魔導書】なのです。《神判》自身も含めて足回りは充実しているはずなのに、目標がありません。

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問題はまだあります。
核となる《神判》が1枚初動ではないこと、さらに莫大なデッキスロットを食うことです。

単純な話、《神判》1枚からでは何も起きず、《神判》+カウントを進めるカードの2枚初動になります。これだけサーチカードがあれば安定するのでは? と思いきや、その「サーチカード」と「カウントを進めるカード」が同じ枠であることが問題です。具体的なシチュエーションとして、《グリモ》を使って《神判》を持ってきてしまうと、《神判》のカウントを《グリモ》で進められなくなります。《グリモ》には《閃刀術式-エンゲージ》と違ってターン制限があるので、重ね引きが初動になりません。

(また、わたしと比べてる……)

そのため、2枚初動で達成するには見た目より要求値が高く、実際は素引きした他の魔法カードも合わせて3枚以上の組み合わせ初動となることが多いのではないでしょうか。

この問題は、《トゥーンのもくじ》のような「カウントを進めるカード」を別途積むことである程度解決できるのですが、それらを積むとデッキスロットがどんどん圧迫されていきます。というか、ただでさえ終点のないサーチカードで溢れているデッキに《もくじ》まで積むのは、もはや何を目指しているのかよくわかりません。

積めば積むほどデッキが痩せてくよ

そもそも、《神判》の効果を解決するためには、デッキ内に「3〜4種の魔導書+《ジョウゲン》」を残すことを求められます。素引きリスクを考慮するとこれらを散らせばいいというわけでもなく、複数枚積んだりデッキに返すカードを採用したりすることを求められるでしょう。考えれば考えるほど、《神判》のために積まなければいけないカードが多すぎるのです。

これだけ必要なカードが多いと、自由枠はロクに捻出できません。ミッドレンジデッキが嗜好する「大量の手札誘発」など積みようがない、旧世代の構造が浮き彫りになってしまう格好です。

3-4.《ジョウゲン》が強いだけ

最後に、ここまで意図的に説明を避けてきた要素として、最終的に盤面に現れる《昇霊術師 ジョウゲン》の存在があります。

深津絵里

《ジョウゲン》は今でも強い、というか今の方が強いです。
実際、《ジョウゲン》+《ゲーテ》で詰むデッキは当時より今の方が多いでしょう。このカードに限ったとことではないですが、現在の価値観で特殊召喚封じは勝敗を決め得る重大な要素となっており、ときおり規制候補にも挙がるようにもなっています。

これの時ちょっと危なかった

「なんだかんだ言っても、そんな《ジョウゲン》を最終盤面に据えられるなら、一応スタートラインには立てているんじゃないの?」という見方もあるでしょう。実際、【魔導書】の勝ちパターンのほとんどは《ジョウゲン》のおかげであり、事実上の【魔導書】の切り札であると言っても過言ではありません。

問題は、《ジョウゲン》の方は別に《神判》というお膳立てを要していないことです。ふつうに召喚して、《月鏡》や《クロックワーク》や罠で固める方がスマートで強固ではないでしょうか?
(《ジョウゲン》ではなく《パキケ》《結界像》などでも同じことです。)

†宝具 月鏡の盾 †

要は、【メタビート】が5秒で作る盤面の劣化を、遠大かつ不安定な手順で再現しているに過ぎません。《ジョウゲン》で相手を沈黙させてイージーウィンできた試合があったとして、それは【魔導書】の功績ではありません。《ジョウゲン》が強いだけです。

そのうち死にそう

一応断っておくと、「通常召喚できる制圧モンスターを遠回りして出力するのがナンセンス」というわけではないです。仮に《神判》が1枚初動で《ジョウゲン》+《ゲーテ》+αを作れるようなカードなら事態は違います。それ軸のデッキとして再考する余地があるでしょうし、実際近い条件を満たしている【ヴァリアンツ】はかなりの遠回りで《フォッシル・ダイナ パキケファロ》を呼んでいますが強いです。【メタビート】の戦法と比べ、「1枚初動がある」「盤面がはるかに強固」という明確な優位点があり、差別化が十分にできているためです。

カラダやわらかいね

《神判》はそうではありません。莫大なスロットを要求する複数枚初動であり、この戦法のために犠牲にしければならないものが多すぎるわりに大したことができないため、リスク・リターンがまったく釣り合っていない状態なのです。

4.補足:構築について

さて、《神判》にたっぷりと現代遊戯王の洗礼を浴びせたところで、冒頭の構築を再掲します。

ジュノンは置いてきた

ここまでお読みいただいた方なら「そういうことか」と実感いただけたかと思いますが、目的不明のサーチカードとドローソースが多すぎます。明らかにデッキの中身がスカスカでパワーが足りておらず、これでランクマッチを登るのは無理です。

ただ、

  • なんとか9枚の手札誘発と《指名者》のスペースを確保しており、見た目はデッキの形を保てている。後手が絶対無理というワケではない。

  • 《神判》を使うだけならそこそこの再現性で行える。

  • 「《神判》を通して《ジョウゲン》+《ゲーテ》で蓋、返しにリソースで圧殺」という理想ムーブが10年前と変わっておらず、復帰勢にはなじみがある。

  • 10年前にはなかったカードにより足回りが強化されており、純粋な「あの頃の【魔導書】の強化版」を楽しむことができる。(※勝てるとは言っていない)

ということで、紙束と唾棄するほどでもない、一応遊べるデッキにはなっています。
ダイヤ5/マスター5で試運転してみたり、カジュアルなルームマッチなどに持ち込む分には適しているのではないでしょうか。

以下、多くは語りませんが、「あの頃」にはなかった一部のカードの採用意図について少し解説します。

《魔導原典 クロウリー》

LVP1のハズレア

このカードにより、魔法使い族モンスター2体を出力できればランダムながら「魔導書」1枚をサーチすることが可能です。なんで確定サーチじゃないんですか? せめて《マイフレンド》方式じゃダメだったんですか?
現代版【魔導書】の理想ムーブは、《バテル》+特殊召喚できる魔法使い族モンスターの2体でこのカードを作り、つごう2枚の「魔導書」を集めて動き始めることです。こいつのサーチがランダムなせいで《神判》+《グリモ》が確定で揃うわけではないのですが、そこは割り切りましょう。

となると、「特殊召喚できる魔法使い族モンスター」に何を充てるかという話になり、シンプルなところでは《ジェスター・コンフィ》などもありなのですが、このデッキでは以下のセットを採用しています。

《マジシャンズ・ソウルズ》+《イリュージョン・オブ・カオス》+《儀式の準備》セット

いつもの

おなじみ3点セットです。
「特殊召喚できる魔法使い族モンスター」という1点に限っても《マジシャンズ・ソウルズ》は優良カードなのですが、その他の性質も含めてぴったりこのデッキに噛み合っています。

  • ターン制限のない《儀式の準備》により《神判》のカウントを進めることができる。

  • 《イリュージョン・オブ・カオス》により、引いてしまった《ジョウゲン》をデッキに返すことができる。

  • 《マジシャンズ・ソウルズ》のドロー効果により、不要な「魔導書」をドローソースに変換できる。(引くのも不要な「魔導書」ですが……)

強いて問題を挙げるならこのセット自体がそこそこ枠を食うことですが、それを差し引いてもデッキの性質にベストマッチな選択でした。

《Emトリック・クラウン》+《Emダメージ・ジャグラー》+《おろかな埋葬》セット

すごい絵面

1枚ずつ採用で散らかっているように見える枠ですが、以下のような役割があります。

  • 《トリック・クラウン》は、《アルテミス》を経由して1枚初動で《クロウリー》になれる。

  • 《おろかな埋葬》《トリック・クラウン》を落とせば、「特殊召喚できる魔法使い族モンスター」として出力できる。他のモンスターがいないのなら《ダメージ・ジャグラー》を落とせば、《トリック・クラウン》をサーチして《クロウリー》までは持っていける。

一方で、素引きした《ジャグラー》に役割がないこと、そもそも《バテル》を経由しないで出す《クロウリー》が弱いことから、回せば回すほど微妙に思える枠でもあります。他にもっといいアイディアがあるかもしれませんが、考えるのも疲れました。

5.おわりに

いかがでしたでしょうか?
あの《神判》も現代遊戯王においては凡カードである、というのはなかなかに衝撃的な事実です。……いや、うすうす察してはいたのですが、あえて言葉にするのを恐れていたのかもしれません。10年の時の流れは残酷です。

なお、このカードが制限復帰できた理由として、「魔導書が長年強化をもらっていないカテゴリで、そのカードパワーが低いから」という言説が一般的なようです。これもその通りで、解説を加えた通りですが、正直なところ《神判》そのものの動きも現代ではまったく強くないこともご理解いただきたいです。仮に【魔導書】を現代水準まで引き上げる強化が来たら、その方向性次第で《神判》はサブプランになるか、あるいは抜ける事すらあり得ると思っています。

一方で、全盛期にはなかった《ルドラ》《クロウリー》《ソウルズ》のおかげで足回りはより充実しており、勝つことではなく《神判》を使うことが目的であればまずまずストレスなく遊べます。総合的には悲観するような状況ではないのかもしれません。

セールスポイントとして、このデッキはストラクチャーデッキ「スペルブック・オブ・プロフェシー」「ボルテックス・オブ・マジック」を3箱ずつ買えば3000ジェムで誰でも組めます。買い足す必要がある専用URがありません。(微妙なのは《セレーネ》くらいです。)

右の人だけ使います
左の人だけ使います

「ボルテックス・オブ・マジック」の方はつぶしの効く《ソウルズ》《イリュージョン・オブ・カオス》セットが入っており、1500ジェムでこれらを3枚ずつ揃えられるので非常にお買い得です。こっちは買っている人が多いと思いますので、ジェムが溢れた時にでも、追加で1500ジェム出して「スペルブック・オブ・プロフェシー」の方も買ってみてください。過度な期待は禁物ですが、文庫本1冊分くらいは楽しめると思いますよ。

それでは、ご高覧ありがとうございました!


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