おくやみ窓口の設置による新たなコンセプトの衝撃
おくやみ窓口の設置による新たなコンセプトの衝撃
さいたま市の各区役所の窓口等の改善については、様々な区役所が様々な試みを日頃から続けている。
その継続的な取組には頭が下がる思いでいる。
例えば、西区役所は電話応答内容の確実な伝達を確立する改善策や待ち時間短縮の工夫を。
大宮区役所は業務指示書の写し間違えの無い自動生成を取り入れた。
見沼区役所は書類の発送準備期間の短縮を。
南区役所は課全体の業務の見える化の工夫や係内ルールブックを作成することによる暗黙知の顕在化を図った。
区の間の横断的な取組としては区間ベンチマーキングの取組が実施されたし、高齢介護事務におけるRPAのモデル的な導入もなされた。
南区役所はさらにAIスイートを活用したマニュアルの作成に向けて舵を切った。
このように、さいたま市の各区役所は、全国的にもトップレベルの転入者数を抱えていることから、限られた人数で業務プロセスを分かりやすく効率的に素早く回していくことが、各々の改善の主眼として今まで位置づけられてきたと言える。
そんな中でのおくやみ窓口の導入である。
高齢の遺族の事務手続きに関する負担軽減を図るため、区役所内の死亡時に必要な手続きを横断的に整理して一体的に個々の市民に相対しようとするものだ。
全部で30種類程度の申請や届け出、証書等の返還を一か所の窓口で対応していく。
さいたま市では10年と少し前に転入転出のワンストップ窓口としてパッケージ工房を各区役所内に設置して今まで運営してきたが、久しぶりのワンストップ対応の試みだ。
しかも、事業のターゲットは伴侶の死亡で精神的にも落ち込んでいる高齢の方々が中心だ。
そこには効率化という指標よりも、しっかりと個々に必要な手続き等を整理して、より時間をかけて市民に説明して理解を得るという姿勢を持っていたい。
効率化というよりも、まずは市民の気持ちに寄り添い、傾聴したい。
そしてできうる限りの手続きは一か所で行い、登記所や年金事務所、税務署で行う申請類まではなかなかコミットできないが、そのようなところで手続きを行うに必要な住民票の写しや戸籍抄本等々はできるだけ持って帰ってもらいたい。
この窓口のあるべき指標は効率化でも迅速化でもなく、しっかりと高齢の遺族が迷うことなく何も考えないでも必要な手続きが整理されて安心感を持ってお帰りいただくことにある。
このようなコンセプト、あるべき指標は、人の出入りが激しい東京圏の区役所としては、あまり今まで職員が意識してこなかったもので、職員はとても新鮮にそのコンセプトを受け入れてくれているように思う。
また、今後もおくやみ窓口が試行錯誤の上で区役所に定着されていくに従って、皆の考える従来の改善のコンセプト、仕事のスタンダードである効率化や迅速化が、徐々にもっと個々の市民寄りに変わっていくのではないかと思う。
皆の課題意識もどんどん進展するだろう。
個々の市民を中心として行政サービスを考える時、どんなに縦割りの組織で対応することが不効率で、個々の市民に十分で一貫した対応を図れるものではなかったのか。
各事業毎に蓄える市民のサービス受給に係るデータが横断的に活用できなければ、市民に一体的な対応はなかなかできるものではないなという実感も得るだろう。
しかも、個々に手続きを見れば、市民にとって必要な手続きの整理は、区役所だけでなく、登記所や税務署、年金事務所にまたがっており、それらの情報を役所を跨って一体的に整理した上で対応を一にすることの大切さも痛切に認識するだろう。
おくやみ窓口の設置による新たなコンセプトの衝撃は、市民本位の手続きの必要性から、一体的に市民に向かうための区役所庁内外の情報やプロセスの一体化の必要性などなどに及んでいくだろう。
逆にこのような機会にそのような気づきを得られないならば、もうどうしようもないということになる。
DXは実現しないということになる。
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