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他人の意見はあてにならない、ということ。

finalのイヤーピース講習会で語られたことを、いまさらながらにまとめてみました。

イヤホンの周波数特性

イヤホンのスペック表に記載しているデータは、国際規格のダミーヘッドで計測しています。しかし、国際規格が策定された当時は20kHz以上の計測は規格に含まれていないので、ハイレゾの領域である、20kHz~40kHzは計測できません。

finalでは20kHz以上の計測も出来る機器を使い、計測しています。そうすると、今度は20kHz以外の計測がうまく出来なくなります。そのため、製品の説明には国際規格を使っています。これは他社製品との整合性を取るためでもあります。

国際的に20kHz以上の規格化に対しては微妙な感じになっています。最近ソニーがやろうと言いましたが、他社はあまり乗り気ではないようで、10年ぐらいかければ出来るんじゃないかな・・とのことです。

耳の形について

耳には個人差があって、その影響が聞こえ方に及ぼす影響は大きいです。同じ人でも耳の形は左右でも違うし、耳の中も違ってきます。すなわち、他人の意見はあてにならないと言うことです。これでは計測の基準が出来ないのでダミーヘッドが用意されました。

ダミーヘッドに着ける耳型は、沢山の耳型のサンプルを取り、平均の形とした物です。つまり、偏差値50の耳なのです。ヘッドフォンは耳の形の影響をもろに受けますが、イヤホンは耳の外の影響は受けないのです。耳の中に入れますからね。

イヤーピースをつけるということ

イヤホンは耳の外からの影響をイヤーピースや装着方法などで減らしたり、変えたり出来ます。外界からの影響を減らせるので、値段以上の音が聞こえる製品もあるし、イヤーピースを変えたりする事で化ける製品もあるのです。
イヤホンの価格 = 音の良さではないのです。かかったコストでしかない。だから楽しいし、イヤホンにはまだ可能性があります。

音の科学とイヤホン

音響心理学という学問があります。人間の耳や聴覚についての学問です。

エティモティック・リサーチ社(Etymotic Research。米国の音響メーカー。補聴器やイヤホンを製造している)はダミーヘッドで、音響心理学的にそった音の作り方をしています。つまり偏差値50の耳で聞こえる、偏差値50の音になるということです。偏差値50というのは平凡、ということではないのです。どんな人でも中庸に聞こえやすい、ということなのです。

等ラウドネス曲線というデータがあります。同じ音量でも、低音になると聴こえにくくなるという事を統計的に割り出した図です。ラウドネス曲線を見ると、低音は聞こえづらく、高音は20kHz(人間の聴覚の一般的な限界)に向かい聞こえづらくなっています。

ドンシャリ(低音域と高音域強調されているという意味)というのは、ネガティブな意味を持つことが多いですが、聞こえづらい周波数帯の音量を上げ、どんな領域も同じようなレベルで聞こえるようにしているのです。音響工学的には正しい考え方なのです。

ここを補正しているのがbose社です。bose社の製品のイメージは低音が強いというイメージを持つ人が多いと思います。bose社はラウドネス曲線の周波数帯毎に音量の補正をしている技術をもっているのです。なので、低音が強いという印象は正しいことなのです。

人間の耳は周波数帯によって分解能が違います。7200通りの聞き分けが出来る領域もあれば、2つくらいしか聞き分けができない領域もあったりします。イヤホンを使っている人はこの分解能力が高い傾向にあります。日ごろから音楽を聴くことで、分解能力が鍛えられているのです。

音と周波数

音作りの基準は1kHzの音を基準にしています。

楽器の周波数帯というのは結構小さく、殆どが1kHz以内の音になっているためです。(楽器の音は倍音成分などもあるので、一概に1kHzとはいえませんが)音の周波数が10kHzになると分かりづらくなり、18kHzになるとわからない人も出てきます。

自分も聞いてみたのですが、なんだか雰囲気が変わったというくらいにしか感じられませんでした。これは、脳が音という認識をしていないからと言うことなのです。訓練する事で音として認識されてきます。驚き・・

加齢で聞こえづらくなるというのもあるのですが、この認識の差が大きいということなのです。
(ちなみに、特定の周波数の音を出すアイフォンのアプリがあります。)

エージング

エージングは物理的にもあることは確認しています。しかし、脳のエージング(慣れ)もあります。これは研究もされていて、論文も発表されています。

他人の耳型を自分の耳につけるという実験をしたところ、数日間は方向感覚や聴こえ方が狂ってしまいます。暫くするとその状況に慣れていきます。その状態で耳型を外すとすぐに馴染み、再度付けてもすぐに馴染むのです。

この結果から言えることは、「脳は音を学習している」ということなのです。
脳内に新しいフォルダを作って、そこに聞こえ方のデータを格納している感じだそうです。

イヤホンも一度良い位置が決まると、その位置を脳が覚えます。例えば、ピアノフォルテ(finalのイヤホン)は位置がうまく決まらないと良く聞こえません。しかし、一度良い位置が決まると、次からの装着が早くなります。

脳のエージングは時間差があります。一度ダメでも時間を置くと良く聴こえるので、数分、数時間、数日、と試してみてください。

ここまでが他人の意見はあてにならないという、いろいろな理由です。自分の耳に届いた音は、自分にしか聞こえない音なのです。

イヤホンのスペックや他人のレビューを参考に、自分が一番楽しく聴こえる音を探していきましょう。イヤホンの価値はスペックや値段ではなく、自分が楽しい音が出る、という事が何よりも大切だと思っています。

※ここでの話は、講習会で聞いた話になります。波形の計測などデータの詳細は、私に問い合わせても答えられません。

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