LOFTの業績も見てみましょうか

そごう・西武の売却騒動に関連して、LOFTはどうなったの?という話題もちらほらみかけるので整理しておきましょうか。

LOFT自体はセブン&アイ・ホールディングスのそごう・西武売却スキームの中ではそごう・西武の子会社からセブン&アイ・ホールディングスの子会社に移管することになっています。つまりフォートレスへの売却にはLOFTは含まれていない、ということですね。
LOFTはそごう・西武から切り離してセブン&アイに残すという判断は、端的にはそれだけ収益性/財務は良いということなのだろうなという印象を与えるでしょうし、とりわけバリューアクトに「コンビニ事業に集中」することを求められている中で、今後どうなるか分かりませんけど、何があっても説得できるだけの自信の表れという印象も与えるかもしれません。

セブン&アイ・ホールディングス「当社子会社の株式譲渡及びそれに伴う子会社異動のお知らせ」(2022/11/11)

で、まずは売上高ですが、こちらもそごう・西武と同様に売上高とその他営業収入からなります。その合計額の営業収益はまあまあ伸びてはいるんですが、興味深いことに消費増税直前期(2014年2月期と2019年2月期)に減収してるんですよね。消費税と全く関係ない要因なのか、消費税要因なら内部(そごう・西武側で駆け込み需要取り込むためにLOFTの方ではキャンペーンやらないとか?)と外部(駆け込み需要は高額商品と生活必需品が強いのでLOFTで扱う商材はむしろ売れないとか?)とでそれぞれそれっぽい理由は思い付きますが、類似企業とみなせる東急ハンズは必ずしもそうでもなく、なんとも言えません。
# LOFTは2月決算、東急ハンズは3月決算で、割とこの差がクリティカルに効くのと、あと本来であれば既存店の増減収をみるべきところです(未上場で非開示なので出来ません)

ロフト決算公告から筆者作成

この増収傾向については、そごう・西武のように撤退縮小をしたわけではないだろうことは想像できますが、セブン&アイ・ホールディングスのIR資料に店舗数が開示されていますので、店舗数と店舗あたり売上高を見ていくと、金融危機以降の期間では拡大路線を継続しており、一方で店舗あたり売上高は漸減している様子がうかがえます。多くは地方への出店により大都市に比べて比較的規模の小さい店舗数が増加している様子が感じられますね。また、2010年2月期-2013年2月期くらいまでだと景気の影響(金融危機や震災など)もあっただろうことは基本的な事象として押さえておくべきポイントでしょう。

セブン&アイ・ホールディングス決算補足資料から筆者作成
ロフト決算公告ならびにセブン&アイ・ホールディングス決算補足資料から筆者作成

とはいえ、収益性というか利益率については、上記との関連でいえば店舗あたり売上高が低下するとやはりなかなか維持しにくいだろうことはわかりますが(固定費と変動費のミックス次第だけど家賃と人件費は固定費なのである程度は想定できる)、その後は景気の改善なのかインバウンドの影響もあるのか、COVID-19前までは回復を続けていた様子がうかがえますね。

ロフト決算公告から筆者作成
ロフト決算公告ならびにセブン&アイ・ホールディングス決算補足資料から筆者作成

資産効率(総資本回転率や固定資産回転率)については、自社で不動産を保有せず、百貨店等にテナントとして入るパターンが多いでしょうから、そごう・西武と比較しても仕方ないんですが、いちおう傾向を見るために貼っておきます。業態的に百貨店ほどには収益認識基準の影響は受けないと思われるし(実際そう見えない)、粗利(そごう・西武でいう営業総利益)で見るよりは素直に営業収益見れば良いような気がしますんで、そちらだけ貼ります。
COVID-19前については、固定資産回転率がは安定していたのに対し、総資本回転率は緩やかに低下していて、流動資産がそれだけ増えているということですけど、店舗数の増加や後述するバランスシートの構造からすると、キャッシュが積み上がっているというよりは、店舗あたり売上の漸減の結果というか、運転資本の相対的な拡大だろうな感がありますね。

ロフト決算公告から筆者作成
ロフト決算公告から筆者作成

そごう・西武で主要な焦点になっている「売上や利益が伸びても借金を返せるほどなのか」問題ですが、ロフトの場合は特に問題になっているように見受けられず、それもセブン&アイ・ホールディングスがロフトをそごう・西武から切り離して残した理由のひとつではありそうでしょうか。

ロフトの場合、上記のように百貨店のように土地建物を保有するわけではなく固定資産は主に什器等店内設備と敷金/保証金だろうし、そのような業態も然ることながら、事業の経緯や資本関係からしてもそごう・西武の1事業部門の独立で、重めの固定資産と長期の有利子負債を過大に抱えることは考えにくいと判断します。バランスシートの構造見ても、株主資本・固定負債と固定資産が綺麗に対応しているのがわかります。
あと運転資本の方は在庫長そうな感じもするんですが、東急ハンズの方の在庫回転日数が2ヶ月くらいでキャッシュ・コンバージョン・サイクルもCOVID-19前で50日前後ですから、似たような業態ゆえに似たようなサイトの長さだと考えると短期有利子負債についてもやはりそんなに高い水準を想定する感じにはならないのではないかと思います。
# 流石にCOVID-19の行動制限期間中は倍近いことになってた感じが出てますね

ロフト決算公告から筆者作成

なのでnet debt/EBITDAは計算できないんですけれど、固定負債/営業利益あたりで雑に代替して見てやっても、借金が問題になるようには見受けられないように思われます。あるいは固定資産からざっくり減価償却費計算して雑なEBITDA想定しても同様の判断になりそうです。

今回も私は気前が良いので決算公告をスプレッドシートに入力したものもそのまま貼ります。ご自由にお使いください。PDFかExcel必要な方いたらご連絡ください。
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ロフト決算公告ならびにセブン&アイ・ホールディングス決算補足資料から筆者作成

ディスクレーマー的なもの
・一歩踏み込んだ明確な結論も内心ではありますけど、諸般の事情でこういう場で書くことはしません、匂わせ程度がせいぜいです
・自分自身の理解のために行った作業とメモみたいなものなので、なるべく平易に説明する努力はしますが、誰にとっても理解しやすいものではない可能性があります
・小売業を担当したことがないので、そもそもの事業・収益構造への理解などが誤っている可能性があります
・内容の正確性について第三者の評価は得ておらず、間違っている可能性があります
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・基本的には単に自分自身の理解のために行っている作業です(大事なことなので二度

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