パチンコ屋さんの思い出

今から数年前、パチンコ屋さんで不思議な体験をした。

仕事終わりの21時過ぎにお店に入った。当時、仕事終わりから打ち始める選択肢として、僕にとっては『ハナハナ』一択だった。台選びをするために履歴を見て回った。人はあまり多くなかった。特にイベントが行われていた日でもなく、閉店まで2時間を切っていたというのもあるだろう。一通り周回したものの、高設定に見えるような台は無く、どうしようか悩んでいた。それは日常茶飯事のことだ。設定の良さそうな台が仕事終わりにたまたま空いていることなんてほとんどない。

僕はほかの人が座っている台の様子を見ていた。3000枚以上出ているのが数台あった。その中でも特に目についた台があった。そこには若い女性が座っていた。目を見張るほど美人だった。そしてとても真剣に打っていた。

僕はもう一度店内を周回した。諦めて打たずに帰ろうかと思っていたその時、ハナハナを打っていた若い女性が席を立った。そして店員さんを呼んでコインを流したので、僕は急いでその台を押さえた。女性はコインを流している間も真剣な、というか緊張した表情をしていた。今でも印象に残っているのは、その人が美人だったというよりはその所作がぎこちなかったからなのかもしれない。

でも、もっと印象的な出来事はその後に起きた。僕は椅子に座ることができなかったのだ。ほかの人に取られていたのではない。なぜか椅子がとても熱かったのだ。熱くて座れなかったのだ。尋常じゃなく。なんでこんなに熱いのかさっぱりわからなかった。椅子に何か仕掛けてあるのではないかと思った。僕の知らないゴトが行われていたのではないかと思った。しかし何もなかった。今でも結論は変わらないのだが、あれは間違いなくあの女性の熱だと思う。あの女性の体のエネルギー。

あのエネルギーは女性特有のものだと思う。男にはあのようなエネルギーは宿っていない。おそらく取り組み直後の横綱が座った椅子でもあそこまで熱くはならないだろう。

もしかしたらあの女性は妊娠していたのかもしれない。なんの根拠もないけど、生命の淵源のような、なにか宿命的な存在を感じずにはいられなかった。

ちなみにその後、その台は1時間半くらいで2000枚以上出た。最初は熱くて座れなかったので腰を浮かせて打っていたのだが、次第に熱は下がり普通に座れるようになった。途中で反対側に座っていたおじいさんも僕の真似をして腰を浮かせて打っているのを見た。でも当時はあまり気にならなかった。

あの女性には今でも感謝している。なにかお礼をしたいと思っているのだが、僕があの女性を見たのはその日だけだった。

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