《舷側砲の砲撃手/Broadside Bombardiers》
ここに《舷側砲の砲撃手》というカードがある。レガシーをプレイされている方にはお馴染みのカードだが、知らない人のために、少し能力を説明しておこう。
3マナ2/2威迫速攻。そして攻撃した際に能力を起動できる「誇示」により、自身のコントロールするアーティファクトやクリーチャーを火力へ変換可能という能力を持つクリーチャーである。
想起コストで唱えた《激情》を顔面にぶつける、重荷カウンターの乗った《一つの指輪》を打点に変換する。果ては《鏡割りの寓話》から生成されるゴブリン・トークンの産み出す宝物で2点のダメージを恒常的に飛ばす…と、その活用方法は多い。
速攻を持つためすぐに攻撃に移ることが出来、威迫も持つため特段気にせず攻撃に移せると言うのも大きな特徴だろう。
さてこの記事だが、特段このクリーチャーの性能やレガシーの立ち位置をつらつらと述べる…わけではない。今回この記事で取り上げたいのは…ズバリこれである。
「あなたは《舷側砲の砲撃手》を、なんと読みましたか?」
・げんそくほうのほうげきしゅ
そう、正解はカードのルビにもある通り「げんそくほうのほうげきしゅ」である。
こちらで示した通り、このカード名の意味は「艦船の側面に配置した砲(=舷側砲)の砲撃手」ということなのだろう。イラストからも分かる通り、確かに船っぺりにある砲筒を取り回している。それだけの話である。
なのだが、筆者は違った。このカードがリリースされて実に1年間、筆者は頑なに、指摘されるまで、このカードをこう呼び続けてきたのである。
「げん『がわ』ほうのほうげきしゅ」と。
…実にお恥ずかしい話だが、筆者は言い間違いが非常に多い。《狂気の種父》のことを「きょうきのたねちち」と呼んだり、MTG以外のシーンでは、とある野球選手の名前を「あり」と呼んだこともある。
なので、「また普段の勘違いだろ!」と言われればそれまでなのだが、今回、この言い間違いについてのみは、なぜこう読むに至ったまでキチンと説明ができる。少しの間、言い訳をさせてほしい。
・げんがわ(の)ほうのほうげきしゅ
実は本邦において、「舷側」を「げんがわ」と呼称する業界がある。そう、海運・造船などの海事業界である。私事ながら、私も3年前に日本に帰国し、この業界で働いている。
この業界において、船の各部の呼称はかなり独自色が強い。例えば、船の先っぽのことは「船首」とは言わず、基本的に「オモテ」と言い、船の後ろ、即ち「船尾」は「トモ」と呼称する。
そして、船の側面は「舷(げん)」と呼称するのだが…実は、この側面あたりのエリアを総称し、業界の人間は「げんがわ」と呼称するのである。
万が一間違っていたら業界に泥を塗ることになるので、一応念の為、この記事を書くにあたり、社内の大ベテランに確認を取った。確認したところ、間違いなく業界ではこのエリアを「げんがわ」と呼称するとのこと。更に「この業界のプロは『げんがわ』と呼称する。」というお墨付きまで頂いた。
「船の『げんがわ』に置いている『砲』の『砲撃手』だから、コイツは『げんがわほうのほうげきしゅ』と読むに違いない。」
そう、上記の言い間違い、つまりこの「げんがわほうのほうげきしゅ」という呼び方は、この業界に従事していた筆者が、自らの経験をベースに誤認してしまった故の呼び方なのである。
さて、ここまで言い訳を書いていた筆者に、とある疑念が湧いて出る。
これを「げんがわほうのほうげきしゅ」と呼称しても、別に何も問題はないのではないか?と。現に間違ったことは言ってないわけなのだから。
そして、芽生えた疑念は黒みを帯びていく。
これひょっとして「げんそくほうのほうげきしゅ」って言ってる方が誤訳なんじゃないか?
・Broadside Bombardiers
あり得ない話では無い。長い歴史を持つMTG。その歴史を積み重ねてきた分、結構誤訳・珍訳が多い。WotCがなんらかの手違いで、「げんがわほうのほうげきしゅ」と訳すべきところを「げんそくほうのほうげきしゅ」と和訳してしまった可能性もゼロとは言い切れない。もしかしたら、1年間恥を塗り続けた筆者の名誉回復のチャンスでは無いだろうか?
となると、確認すべきはコイツの翻訳元となった名前、「Broadside Bombardiers」であろう。これらの単語が実際どのように日本語に翻訳されているか、辞書を引いていくとしよう。
まず、「Bombardier(s)」だが、これは以下の通りとなる。
まあ、想定の範囲内と言える。そして肝心の「Broadside」は…
おお!「舷側」という意味ではないか!これはもう「げんがわほうのほうげきしゅ」と言い切ってもいいのではないだろうか?望外の結果に喜びを隠しきれない筆者。しかし、よく考えてほしい。
もしその訳になるのなら、「舷側の砲撃手」という名前にならないか?
何かおかしくない?そう感じた筆者がもう少し足を踏み込んで探してみたところ、こんな情報が出てきた。
…実は、この辞書の2a)が示す通り、「Broadside」そのものが、「舷側砲」を意味する単語なのである。そして、「舷側砲」という単語の読み方は「げんそくほう」であることは、先に確認した通りである。
なので、このカードの名称は「『げんそくほう』の『ほうげきしゅ』」で間違いない。悪いのはWotCではなく英名を確認しなかった筆者である。名誉回復どころか名誉返上しろと言わんばかりの結論が、導かれることとなった。
・舷側砲の砲撃手
というわけで、今回は筆者がやらかしたカードの言い間違いに関する話をさせていただいた。難読漢字や英語が多いMTG、色々と間違うことはあるかもしれないが、それは誰にでもあるよという事が伝われば幸いだ。
もし、「こういう言い間違いをやってました!」というのがあれば、今回この記事が参加している「#みんなのマジックアドベントカレンダー」で共有してみるのはどうだろうか。
おりしも季節はクリスマス。主が我々の過ちを赦してくださる、そんなシーズンである。ここらでパーっとやらかしを披露して、綺麗な状態で2025年の日の出を迎える。そんな感じでもいいんじゃないだろうか。