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【詩】東京

久しぶりに東京の街を歩いた時
ぼくは夏の日のことを思っていた。
思い出はすべて豊洲の埠頭から
荷を積み出していた時のことばかり。
何があったわけではない。
ただ、その毎日の繰り返しが懐かしくて・・・

午後十時に終わる仕事だった。
それから銭湯に通うのだった。
もう人影もまばらで
ぼく一人の石鹸が泡を立てていた。
少しにごった湯船が
ぼくの東京時代のすべてだった。

夏の暑い日々だった。
ぼくはそんな毎日が好きだった。
彼女がいたわけでもなかった。
金があったわけでもなかった。
夢を追っていたわけでもなかった。
これが東京だという出来事もなかった。
ただ、そんな単純な毎日の繰り返しが
ぼくの中で確実に時を刻んでいった。

久しぶりに東京の街を歩いた時
そんな夏の日のことを思っていた。
そしてそんな夏の日の思い出は
ぼく一人の石鹸の香りとして
今もぼくの中を漂っている。

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