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令和3年度版 子供・若者白書インデックスボードを読み解く上でのポイント

令和3年6月11日に閣議決定された内閣府の「子供・若者白書」の内容が公開されました。

子供・若者白書は毎年公開されています。発行元(?)は内閣府。関係省庁の横ぐし連携を促進するのが内閣府の大事なミッションということもあり、白書には厚生労働省や文部科学省など様々な省庁に散らばっている子ども・若者関連のデータが網羅されています。

また、過去には、ひきこもりの長期化・高齢化や、若者の自己肯定感の低さを取り上げるなど、子ども・若者と彼らを取り巻く環境や実情について、読み手の認識をアップデートする資料としても価値があります。

私は長らく子ども・若者に関わる調査研究や実行支援に携わってきました。具体的には、国・都道府県・自治体などの行政機関の子ども・若者支援関連事業のサポートや、NPOや民間企業に対する実行支援などです。
それらの経験も踏まえて、特に白書の中でも比較的読みやすい「インデックスボード」について、行政機関の方や支援団体の方が活動をしていく上で、踏まえておくとよいポイントをまとめてみました。

子供・若者白書の構成

令和3年度の子供若者白書は全7章+今年度から追加されたインデックスボードで構成されています。
【参照:令和3年版 子供・若者白書(全体版)(PDF版)】
https://www8.cao.go.jp/youth/whitepaper/r03honpen/pdf_index.html

ボリュームが大きいので、興味関心のあるパートだけ閲覧するか、全体感を把握したい場合は概要版を閲覧するというのも手です。
【参照:令和3年版 子供・若者白書(概要版)】
https://www8.cao.go.jp/youth/whitepaper/r03gaiyou/pdf/r03gaiyou.pdf

今年度の最大の変更点:インデックスボードの追加

これまでの子供・若者白書からの大きな変更点として、巻末に「子供・若者インデックスボード」が追加されたことが挙げられます。
インデックスボードには関係する主要な指標がまとめられ、子ども・若者の現状や支援についてパッと見て把握できるようになっています。読み手としては非常にありがたい改善だと思います。
インデックスボードは子ども・若者が過ごす5タイプの「場ー家庭、学校、地域、ネット、職場」という切り口で関係する情報が整理されています。
インデックスボードという存在自体が新規の取組ですが、この5つの居場所ごと情報を整理するというフレームワークもこれまでの白書の構成には見られなかったものです。支援の現場の考え方や視点に寄り添った切り口であり、読者への配慮がうかがえます。
政府が発行する白書はどうしても総花的でボリューミーなものになりがちで、その結果どの読者にとっても読みづらいが出来上がることも往々にしてあります。せっかく作っているのだから読んでほしい、何とかしたいという制作サイドの建設的な姿勢が感じられます。

居場所と自己認識との相関性

今回、まずインデックスボードに取りまとめられている指標の中で注目したいのは、特集で組まれた居場所と自己認識の関係についてです。
「居場所の数」と「前向きな自己認識」との間の相関関係が示されたことで、これまでその重要性を説明するのが難しかった居場所支援についての理解が進むのではないかと期待されます。

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居場所ごとの特徴

また、子供・若者の居場所として「家庭」「学校」「地域」「職場」「インターネット空間」の5つの「場」を取り上げ、「居場所になっている」か、「相談できる人がいる」か、「助けてくれる人がいる」か、という観点でそれぞれの場の特徴を分析しているパートも、子ども・若者にとってのそれぞれの場の位置づけを理解するうえで示唆があると思います。

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例えば、子ども・若者の居場所として家庭と学校/職場が想起されがちですが、この結果を見る限り、学校や職場よりもインターネット空間や地域の方を居場所として認識している回答者が多いことが示されています。学校や職場は本人にとってのセカンドプレイスではもはや無いということを示しているのかもしれません。一方、地域やインターネット空間にしても、居場所にはなっているけれど、相談できる人や助けてくれる人がいるかどうかという点では他の場に比べると低い値となっています。

支援の位置づけ

また子ども・若者への支援については、「役に立った支援(受けた支援に効果があったものはない)」「相談・支援の希望(誰にも相談したり、支援を受けたりしたいと思わない)」については2012年度調査よりも値が改善している一方、「支援機関の認知度(知っている機関はない)」の値は悪化していることから、支援が子供・若者にとって利用しやすいものになりつつあることをうかがわせつつも、依然として認知度の低さが課題となっていることが見て取れます。
また、「支援機関の利用希望(利用したいと思わない)」が回答者の約7割となっていることも気になります。ただし、この値は困り感が無い子供・若者の回答も含んでいると考えられるため、例えば「困難経験(社会生活や日常生活を円滑に送ることができなかった経験があった)」の回答者の回答内容を分析することで異なる示唆が引き出せるかもしれません。

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次に、前述の居場所(「家庭」「学校」「地域」「職場」「インターネット空間」)ごとの関連指標についてみていきたいと思います。

家庭:虐待、ひきこもり問題は改善傾向見られず。新たにヤングケアラーに言及

まず、家庭の状況についてですが、当該パートの一番最初に取り上げられているのは虐待関連の指標です。厚生労働省の「福祉行政報告書」から「自動相談所における児童虐待相談対応件数」が、警察庁の「少年非行、児童虐待及び子供の性被害の状況」から「警察が検挙した児童虐待事件の検挙件数」が引用されていますが、それぞれの値が悪化し、過去最多を記録しています。

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児相における相談対応件数は10.3万件(2015年度)から19.4万件(2019年度)と88.3%増加しています。また、警察が検挙した児童虐待事件の数も822件(2015年度)から2,133件(2019年度)となんと259.5%増加しています。
件数の増加幅がかなり大きいため、「社会で児童虐待が急激に深刻化している」と思ってしまいがちですが、この変化の背景には、様々な事件が報道された結果社会的関心が高まり、警察と児相の連携も向上し、虐待ケースの発見・対応力が向上したことなどもあると思われます。とはいえ、虐待件数は一貫して増加傾向にあるため、問題が深刻化しているのは明らかです。早期発見と早期支援により虐待に直面している子供・若者を一人でも多く救うことが必要です。加えて、子供に虐待行為を加えてしまうリスクの高い保護者の発見とケアも、未来の虐待を予防するという観点から重要な取り組みであると言えるのではないでしょうか。

同様に、問題の深刻化をうかがわせるのが「ひきこもり(ひきこもりの状態になってからの期間が 7 年以上の者)」に関する指標です。
内閣府「若者の生活に関する調査」「若者の意識に関する調査」の中で、長期にわたってひきこもり状態にある若者の割合は16.9%(2009年度)から34.7%(2015年度)と増加しています。

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2015年度以降の調査結果はまだ出ていませんが、個人的にはこの値が大きく改善したという印象はなく、おそらく高止まりの状態にあると思われます。
ひきこもりの状態が長引くと、本人も家族も社会から孤立してしまうことが多く、加えて本人がひきこもり状態に慣れてしまい支援ニーズが希薄化した結果、支援にますます繋がりにくくなるため、支援が困難になることが少なくありません。虐待同様に本人の早期発見・支援、家族ぐるみの支援が重要ですが、社会として十分な支援体制がしかれているとは言い難いのが実情です。

また、「家族」の項目では新たな視点として「ヤングケアラー」の問題が取りあげられました。厚生労働省の定義では、ヤングケアラーとは「一般に、本来大人が担うと想定されている家事や家族の世話などを日常的に行っている18歳未満の子ども」とされています(参照:https://www.mhlw.go.jp/stf/young-carer.html)。

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厚生労働省「令和2年度ヤングケアラーの実態に関する調査研究」では、中学2年生の1.8%、高校生では2.3%から7.2%が家事や家族の世話に従事していることが明らかになりました。

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ヤングケアラーの存在が定量的に可視化されたことで、今後は具体的な支援策の検討と実行が政策の焦点になってくると期待されます。

学校:いじめ、不登校など、問題山積の学びの場

子供・若者にとっては、家庭に次いで時間を過ごすことの多い学校ですが、関連指標をみると、子ども・若者が安心して過ごすことがますます難しくなってきている現状がうかがえます。
特に、児童生徒の自殺者数、いじめの重大事態、パソコンや携帯電話等での誹謗・中傷被害、不登校児童数、学校内外の暴力件数(小学校)は過去最多となっています。また、高校生の不登校生徒数、暴力行為件数も2015年度と2019年度で同じ水準となっています。この変化も、少子化というトレンドを踏まえると割合としては増加していると考えられます。

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いじめの件数の増加は、虐待件数の増加傾向と同様に、社会の関心が高まり、いじめに苦しむ本人が声をあげやすくなった/声を受け取りやすくなったという側面もあると思われます。
また、不登校の件数増加の背景には、学校サイドの不登校児童に対するスタンスの変化(学校に投稿するという結果のみを目標にしない)も挙げられるでしょう。(参照:文部科学省 「不登校児童生徒への支援のあり方について(通知)令和元年10月25日
しかしながら、学校生活の中で直面する困難が社会全体で増加・深刻化しているのは間違いなく、引き続きこの問題への対応が必要です。一方で、小学校の教職員の労務環境の厳しさも報道されており、もはや教育機関単独での問題への対応が困難なのは明らかです。地域全体、専門機関同士の連携によるアプローチの開発が早急に求められています。ただ、多機関連携を進めていく上でのネックになるのが、教育機関の抱える子ども・若者の個人情報です。プライバシーが守られつつ、困難に直面した子ども・若者を様々な担い手が支えていける体制をどのように構築していくかが依然として「切れ目のない支援」を提供していく上での大きな壁になっています。

また、近年支援の必要性についての認識がたかまりつつあるのが外国ルーツの若者の存在です。

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上記の図表は留学生ですが、「親が外国人で日本に居住している外国ルーツの子供・若者」の孤立が様々な地域で顕在化してきています。国籍の問題もあり、対応の難しさはあるものの、サポートが必要な子ども・若者であるのは言うまでもありません。

地域:繋がりの希薄化が示唆として抽出されそうだが果たして・・・

若者と地域というのはもはや「希薄化」の枕詞と化している気がしますが、冒頭に記載されたこのグラフを見ると確かにそう見えなくもないですね。

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ただ、地域との接点を「付き合い」という漠然とした表現と、「団体などが行う自然体験活動への参加率」で果たして測れるのだろうか、という疑問もわきます。というか、むしろ自然体験活動への参加率高くないですかほんとですかああそうですか、とい感じしません?

場としての地域を「家、学校、職場、ネット以外の場所全て」と定義するなら、その領域はかなり広大&多様なものになります。関係性も「付き合い」という単語から想像されるようなものではない可能性も十分にあります。
例えば、相談窓口に相談に行くことも、上記の定義なら「地域という場」での活動に含まれますが、果たして回答者が窓口での相談を「付き合い」と認識するかといえばたぶんしないでしょう。そういう意味で、この2つのグラフから子ども・若者と地域との接点は希薄化している、と言い切るのは難しいと思います。

実際、放課後子供教室や児童クラブの数は増加していて、子供が地域サービスにちゃんと繋がっていることを示すグラフも記載されています。

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それ以外に記載されているのが「子ども・若者計画策定数」「子ども・若者総合相談センター設置自治体数」「子ども・若者支援地域協議会設置数」ということで、子ども・若者と地域とのつながりを示すことの代替指標として本当に適切なのかしら?と首をかしげざるを得ないものなので、場としての地域の位置づけについては、指標の設定から検討してほしいところです。
子若協議会と相談センターの設置・運営をずっと手伝ってきた身としては掲載されるだけありがたいけど、ここじゃないよなあという感じが正直してます。
むしろインデックスボードの一番最後にくっついている、ボランティア行動者率とかそういった指標を載せたほうが、整理としてはしっくりきます。

ネット:子ども・若者のデジタル化は引き続き継続、良し悪し含め影響も表れてきている

コロナ禍に対する社会的な対応の余波を受けて、子ども・若者の生活環境も急速にオンライン化した観があります。調査にもその傾向は顕著に表れており、インターネット利用時間は総じて過去最多という結果が出ています。
情報をインプットするときのデバイスが、紙でできた教科書からタブレットになり、テレビからインターネット上のコンテンツになる流れを留めることはできないですから、インターネット利用率やスマホ所持率の上昇も驚くべき結果というわけでもないのではないでしょうか。

一方で、SNSに起因する事犯の被害児童の人数は2015年と比較して増加しており、ツールとしてのインターネット(デバイス)の功罪をどのように認識し、メリットを最大化しつつデメリットを極小化できるかを引き続き考えていくことが重要なのではないでしょうか。

また、序盤で紹介した5タイプの居場所の特徴についてまとめられたグラフの中で、インターネット空間は居場所であると認識されている一方で、頼れる人・相談できる人がいると回答した子ども・若者は少ないという特徴がありました。
具体的に子供・若者にとってインターネットがどのような場所なのか、定性的・定量的な分析が国レベルで行われてもよいのではないか(あるいは既に行われているなら本白書に掲載されても良いのではないか)と思います。

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働く場:コロナの影響が反映されるのはこれから。若年無業者の割合が増加しているのも気になるところ

最後の「働く場」で掲載されている指標は、完全失業率や平均賃金、雇用者比率、フリーターの割合といったマクロ指標(の一部)が掲載されています。

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気になるのは、多くの指標が好転している、ように見えることです。支援の現場にいる方々の感覚と少し乖離があるのかもしれません。全体的な傾向と、困難を抱えた子ども・若者に焦点を絞ったときに見られる傾向とが違うことが、コロナ禍の影響を受けている社会の実相なのではないかと思います。掲載されている指標の中で帯が赤く表示されている若年無業者の割合の部分に、昨今のコロナ禍で、これまで慣れ親しんできたアルバイトや仕事がなくなり、社会から要請される新しい産業への移行もできずに苦しんでいる子供・若者のリアリティが凝縮されているように思います。

その他:自殺者数の増加、触法少年(刑法)補導人数、刑法犯少年の検挙者数は減少

5タイプの場に関連する指標群が掲載されていたページの後に、「複数の場に共通する状況」という項目が記載されていますが、まず目に飛び込んでくるのは自殺者数の増加です。19歳以下、20~29歳それぞれで増加傾向にあります。自ら命を絶つことしか本人が苦しみから逃れる手段が残されていない方がこれだけいるということを深刻に受け止めなければならないのではないでしょうか。

顕著な傾向が見て取れる他の指標としては、触法少年(刑法)の補導人数、刑法犯少年の検挙人数は減少しています。非行にはしる若者の減少は近年の一貫した傾向として表れています。

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困難を抱えた子ども・若者の反応の変化と求められる社会の変化

ひきこもり状態の若者の人数が増加傾向にあることを考えると、個人的には、困難を抱えた子ども・若者が社会に対してとるスタンスが変容してきているのではないか、と思います。
不満を感じたら、その気持ちを非行という形で訴える若者は減り、自己責任の声のもと、追い詰められて追い詰められて、最終防衛線を自分の部屋に引く若者が増えているのが、困難を抱えた多くの若者のリアルな姿なのかもしれません。

困難に直面している子供・若者の声の挙げ方が変わっているのなら、それを受け止め、支えるやり方も変わっていかなければなりません。
変化を可視化し、対応を変える過渡期はとうに過ぎていますが、インデックスボードの指標を見る限り、社会が変容しきったとはとても言えないと思います。

白書で引用されているデータが様々な省庁の様々な調査であることからも読み取れる通り、子供・若者の成長や支援には様々な活動が関わっています。
それゆえに縦割りの行政では対応が難しい分野です。
ただ一方で、まだまだシナジーが生まれ切っていない余地がたくさんある領域でもあります。

現状を可視化し、そこから見えてくる問題を解消できる課題設定と政策展開が待たれる(そしてその萌芽事例はコラムにそれとなく掲載され始めている)、そんなたくさんの発見と少しだけの今後への期待を感じさせる今年度の子供・若者白書の内容でした。

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