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トルクメン語関連書籍【学習書・文法書・辞書】

noteを始めてからいつかはまとめようと思っていたこのテーマ、ついに満を持して公開です。今回は学習書、文法書、辞書の3点にしぼって、比較的手に入りやすいものと重要なものを中心にご紹介します。

総論

トルクメン語は話者数約670万人、また独立国家の国家語ともなっている言語ですので、それなりに関連書籍は出ています。とはいえ、運が良くて英語、基本はロシア語やトルクメン語で書かれているというアクセスしにくい状況です。オンラインにも様々なものがありますが、出所や著者がわからないものも多く、信頼して使えるソースはやはり紙媒体が中心なのが現状です。

日本語で読めるもの編

1.竹内和夫・福盛貴弘(2012)『トルクメン語入門ーキリル文字編ー』大東文化大学外国語学部日本語学科福盛研究室

トルコ語の赤い辞書で有名な竹内和夫先生が1994年に執筆された手書き原稿を元にトルコ語の音声学で有名な福盛先生と一緒に出版された本です。トルクメニスタンで出版された小学生向けのトルクメン語教科書に分析と注が加えられているパート、簡単な文法説明パート、辞書パートに分かれています。音声学の先生が書かれているので、音声面で心強い一冊です。IPAの転写があるところもあります。科研費で私家版として出されたものなので、残念ながら非売品です。

音声パートと辞書パートは以下のリンクで公開されています。ありがたいですね。

全文を見たい方は、下のリンクの大学図書館に所蔵されています。

2.奥真裕・ロジクリエバ・ジェネット (2020)『トルクメン語会話帳』桜町書院

トルクメン語関連の日本語で市販されている唯一の書籍です。簡単な旅行会話帳です。応援する気持ちで買ってください。

学習書編

1. Грунина, Э. А.(2005) Туркменский Язык. Москва: РАН(『トルクメン語』)

文字も語彙も文法も少しずつやっていくロシアの伝統的な語学書のスタイルで書かれたトルクメン語の学習書です。初級から中級くらいまでがターゲットでしょうか。現行のラテンアルファベット表記で書かれています。とてもスッキリまとまっていて見やすいのと、説明があまりまどろっこしくないところが好きです。グルニーナ先生が亡くなってしまったので、今後増刷があるのかが気になるところです(ただでさえマイナー言語の本は増刷がない)。私がモスクワにいた2012年にはまだあるところにはありましたが、今見つけるのは難しいかもしれません。もちろんロシア語で書かれています。

大学図書館では以下の4館に所蔵されているようです。

2. 米娜瓦尓・艾比布拉 (2010)『土库曼语教程』北京:中央民族大学出版社(『トルクメン語教程』)

こちらも文字も語彙も文法も少しずつやっていく初心者向けの教材です。民族大のウイグル人の先生が書かれた教材です。確かトルクメニスタンでお仕事された経験があったと記憶しています。(私もトルクメニスタンの学会で2回お会いしました。)中国語で書かれていますので、外国語が苦手でもなんとなく読めるところ(単語など)も多いです。

2017年の改訂版がアマゾンで買えるみたいです。でも「いつまでもあると思うな文法書」。お急ぎを。

その他英語で書かれたものに以下のようなものがありますが、独習用につくられていないので、あまりお勧めはできません。ネイティブの先生がいれば、Basic Turkmen Textbook.の方は最近のコミュニケーションを取りながら学ぶ総合語学書のようなスタイルで書かれていますので、楽しく学習できると思います。辞書のような分厚さで価格も安くありません。この辺の本も絶滅危惧種なので必要な方はお早めにどうぞ。

・Oezel, Suzan and Ejegyz Saparova (2007) Basic Turkmen Textbook. Dunwoody Press
・Allen J. Frank (1995) Turkmen Reader, Maryland: Dunwoody Press

文法書編

1. Н. А. Баскаков, М. Я. Хамзаев, Б. Чарыяров и др. (1970) Грамматика туркменского языка. Ч. 1. Фонетика и морфология.Ашхабад:издательство ылым(『トルクメン語文法第一巻音声学・形態論』)

ロシアのテュルク語研究の権威、バスカーコフ先生他の著書です。ロシアのスタンダードなスタイルで書かれた参照文法です。言語学や語学書に慣れている人であれば使いやすいと思います。例文もナチュラルでとても見やすい良いです。もちろんロシア語で書かれています。残念ながら日本の図書館には蔵書がないようです。モスクワのレーニン図書館にはありますので複写依頼をするか印刷しに行くことは可能です。手に入れにくいですが、トルクメン語を研究するのであれば必ず参照しなければならない一冊です。

2. Oskar, Hanser (1977) Turkmen Manual, Descriptive Grammar of comtemporary literary Turkmen, Texts, Glossary, Wien: Verlag des Verbandes der wissenschaftlichen Gesellschaften Österreichs. 

オーストリアで書かれた文法の概説書。名前はインディアナ大学のテュルク諸語「マニュアル」シリーズに似ていますがおそらく関係はありません。当時は英語で読めるものが他になかったため、重要な参考文献の一つでした。今でも英語で読めるものは少ないので貴重な一冊です。トルコ語式の音声表記がついていて、長母音もわかるようになっています。竹内和夫先生は「トルクメン語入門」の中でGlossaryは頼れないと書いていらっしゃいます。トルクメン語の研究を考えている人は手に入れる必要がありますが、そうでなければ必携ではないかもしれません。私もトルコ語に翻訳されたものしか持っておらず、オリジナルは図書館で見ています。全体を簡単にまとめたものですので、あまり参照できる機会はありません。

下記のいくつかの図書館には蔵書があるようです。

https://ci.nii.ac.jp/ncid/BA7083128X



3. Clark, Larry (1998) Turkmen Reference Grammar. Wiesbaden: Harrassowitz Verlag

トルクメン語を研究するなら必ず必要な基盤となる一冊。トルクメン語の文法を学びたい人も持っておいていいかもしれません。とにかく今出版されている中で最も優れた参照文法です。全ての項目でしっかり説明があるほか、これまでのトルクメン語研究の参考文献が網羅されています。例文は書き言葉を中心としているので長くて分かりにくいものが多いですが、文法説明のためには平易で分かりやすい文を掲載しています。しかも英語で書かれていますので、大変ありがたい一冊です。辞書のような分厚さで、鈍器になりそうな程の重さがあります(708ページの超大作)。もうすでに高額ですが、近い将来市場から消えることが予想されますので本当にお早めに。


4. Söýegow, M. we A. Borjakow, M. Sarhanow, B. Hojaýew, S. Ärnazarow (eds.)(1999) Türkmen Diliniň Grammatikasy. Aşgabat: Ruh(『トルクメン語文法』)

こちらもトルクメン語を研究するなら必ず必要な一冊。トルクメニスタンの英知を集めた一冊です。トルクメニスタンでもみんなが欲しがる一冊で、今はなかなか手に入りません。私も古本屋で見つけたぼろぼろの一冊を所持しているのみです。(でもなぜか私の指導教官は新品を持っている!!)トルクメニスタンでは様々なトルクメン語に関する書籍が出ていますが、この本に勝るものはありません。説明が細かく、例が多様で、使用例が少ないような使い方もきちんと押さえてあります。トルクメン語で書かれているので例文の訳がない(当たり前ですがこれが結構大変)のと、例文のほとんどが文学作品から選ばれているので口語的かどうかの判断をするのが難しいです。品詞の区分も独特なものがあるので、なれるまでには時間がかかります。もちろん大学図書館にも入っていないようです。残念。

辞書編

1. М. Я. Хамзаев (1962) Түркмен Дилиниң Сөзлүги, Ашгабат: Туркменистан ССР ылымлар академиясының неширяты(『トルクメン語辞典』)

トルクメン語国語辞典の決定版ともいえる一冊。ソ連時代のトルクメン語研究者の筆頭の一人であるハムザエフ先生の辞書です。はっきりと何万語を収録しているかは書いていませんが866ページの大作です。最近まではこちらが唯一にして最大の国語辞典でした。2016年に出版された『トルクメン語辞典』もこの本をもとに書かれています。長母音はもちろん、ロシア語由来の語や規則通りでない語の場合はアクセントも示してあります。はやコレクターズ級の一冊ということで、購入するのは本当に難しいと思います。

大学図書館には入っているところもあるようです。


2. Н. А. Баскаков, Б. А. Каррыев, М. Я. Хамзаев (1968) Туркменско-Русский словаръ. (Туркменче-русча Сөзлүк) Москва: Советская энциклоредия.(『トルクメン語ーロシア語辞典』)

約40,000語を収録する最大のトルクメン語ーロシア語辞典。ロシア語かと思われるかもしれませんが、外国語で調べられるというだけで国語辞典よりは随分アクセスが良くなっています。ロシア語ができなくとも2度引きすれば使えるのでとりあえず手元にはおいておきたい一冊です。残念ながら日本の図書館には蔵書がないようです。

3. В. Месгудов (1988) Туркменче-русча Окув Сөзлүги, Москва: Русский язык(『トルクメン語-ロシア語学習辞典』)

約9,000語を収録。実用性に長けていて、普通の語を調べるのであればこれでも十分役に立ちます。まだトルクメニスタンの古本屋さんに行けば大体どこにでも置いてあるので、比較的手に入りやすいという意味でもありがたい一冊です。トルクメン語を学ぶ人のために書かれていますので、母音が付いたら有声化するかどうかという情報や長母音も示されており、細やかな心遣いが感じられます。巻末にロシア語でトルクメン語の音と文法の簡単な記述があるのも嬉しいです。ロシア語ができれば初級を学ぶときの一番最初の辞書として大活躍する一冊だと思います。残念ながら日本の図書館には蔵書はないようです。

4. Allen J. Frank, Jeren Touch-Werner (1999) Turkmen-English Dictionary, Maryland: Dunwoody Press

英語で書かれた本格的な辞書です。私もトルクメン語を学習し始めたときには一番よく使っていました。テュルク語学者のDavid Tysonが監修しているので、安心の一冊です。長母音はもちろん、例文もしっかり2つくらい載せてくれています。14000語を収録しており、今のところ私たちが最も使いやすい辞書だと思います。トルクメン語はキリル文字表記です。きちんとした辞書類の中で唯一簡単に購入できるところもありがたいところです。

5. Berdimuhamedow, Gurbanguly (eds.) (2016a) Türkmen diliniň düşündirişli sözlügi. Iki tomlyk. Tom. A-Ž. Aşgabat : Türkmen döwlet neşirýat gullugy.
Berdimuhamedow, Gurbanguly (eds.) (2016b) Türkmen diliniň düşündirişli sözlügi. Iki tomlyk. Tom. K-Z. Aşgabat : Türkmen döwlet neşirýat gullugy.
(『トルクメン語辞典A-Ž』、『トルクメン語辞典K-Z』)

トルクメン語国語辞典の最新版。語彙数、例文ともに充実した一冊です。もちろん長母音の表記もあります。編集は大統領、著者はアカデミーのトルクメン語学の研究者らですので非常に内容も装丁もしっかりしています。ちなみに、私は今はこちらをメインの辞書として使っています。今ならまだトルクメニスタンに行けば新刊として購入できます(近い将来はわからない)。

番外編

単著ではありませんが、トルクメン語の文法の解説が所収されており、比較的詳しく解説がなされているものを2冊ご紹介します。

1. Kara, Mehmet (2007) Türkmen Türkçesi. In: Erçilasun, Ahmet (eds.) Türk Lehçeleri Grameri, 231-290. Ankara: Akçağ(『テュルク諸語文法』所収「トルクメン語」)

トルコ語で書かれているため、手が出にくいところはあるかもしれませんが、細かい説明というよりはパラダイムの表が網羅されており、文法の形を見るのにはわかりやすい本です。全ての言語がトルコ式アルファベットによる転写で書かれて点と伝統的なトルコ語文法に沿った形で記述されているので、慣れていない人は注意が必要です。比較的メジャーな20のテュルク諸語(トルコ語、ガガウズ語、アゼルバイジャン語、ウズベク語、新ウイグル語、カザフ語、キルギス語、カラカルパク語、ノガイ語、タタール語、バシキール語、クリミア・タタール語、カラチャイ・バルカル語、クムク語、アルタイ語、ハカス語、トゥヴァ語、サハ語、チュヴァシ語)についてトルコ(在住)の言語研究者によって書かれたテュルク諸語についての文法概略の決定版です。テュルク諸語が好きな人にとっては夢のような本と言えるでしょう。私も大好きな一冊です。

トルクメン語の章で良いところは、長母音が二重母音で示されているところです。正書法の表記では長母音と短母音の区別がありませんので、多くの書籍では示されていません。ありがたいです。トルクメン語文法(Türkmen Türkçesi Grameri)というKara先生の単著もありますが、大まかな内容は似ているので、トルクメン語の文法研究でもしない限りは『テュルク諸語文法』が一冊あればよいという印象です。

2. Schönig, Claus (1998) Turkmen.(Lars Johanson and Éva Á. Csató The Turkic languages, London and New York: Routledge.)
こちらはまさに言語学では王道のテュルク諸語の概説書の決定版と言っても良い本です。業界では「赤い本」として知られています。それぞれのテュルク諸語の専門家(または専門に近い研究者)が各章を担当して書いています。様々な現代テュルク語だけでなく、オスマン語やチャガタイ語などの文語についても章立てして書かれています。また、テュルク諸語全体を歴史的な観点と構造的な観点から見渡した概観の章がありとても参考になります。英語で書かれているのも助かります。研究者だけでなく、語学マニアなら持っておきたい一冊。ただし、学習書ではなく、概説書なので注意してください。

トルクメン語の章も他の章と同じく、文法的なカテゴリーごとに紹介してあります。情報量が多いわけではありませんが、どのような要素がトルクメン語で使われているのかくらいはわかります。細かい点ですが、コピュラやindirectiveについての言及があるのはこちらくらいになります(本当に言及があるだけですが)。


まとめ

長くなりましたが、どれを手に入れればわからないという人はまずは英語で書かれたものから手に入れられることをお勧めします。なんといっても使いやすいです。「トルクメン語会話帳」も私を応援する意味で買ってくださると嬉しいです。(売れると次の出版にもつながるそうなので。)それにしてもマイナー言語を学ぶのはお金がかかりますね。これらを参考に、皆さんがトルクメン語に触れる機会が増えることを望みます。Nesip bolsa.