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速くて早くて上手い人たち

さっささっさと仕上げてくるんだよね。


夕飯時だ。
腹が減ったなぁと隣を見ると後輩がいた。
28才無職の後輩が。
無職だからヒマそう。


後輩ってことは、必然、僕は先輩。先輩ヅラしてムチャ振りをする。おい無職メシ作れ。無職苦笑い。


場所がウチのマンションなので食材もウチの冷蔵庫頼りだ。まだ僕が独身の時分だからロクな備蓄が無い。そんなろくでなしな台所で後輩は手際よく動き出す。「適当でいいすか?」なんて言いながら。生意気だなコイツ。無職なのに。


ホテルのレストランを辞めたてほやほやなので無職ではあるけれども調理師であることに変わりはない。無職な後輩エドガワ君28才は15才で料理の世界に入ったのでキャリア13年だ。13年選手が、さっささっさと料理を仕上げてくる。所要時間15分。当たり前のように美味しいをこさえる。なんだこれ。


もちろん、僕のマンションで使った時間は15 分でも、本質的には15分どころでは無い。ピカソの有名な逸話を引用するまでも無く、エドガワ君は13年と15分を費やしている。13年と15分をかけた3皿にしてやられた。


稽古・実践・修正、その反復で技術は肉体化し、体が勝手に動きだす。速くて早くて上手い。それを何度でも再現出来る。これがプロの技術者だ。僕はそういう姿にこそ憧れる。


最近、note に投稿ばかりしてるせいか、知人にちょいちょい言われるのだ。「マスダさんイケますよ!ライターなれますよ!!」なんてことを真面目に言われたりするのだ。


悪気はないのだろう。でも勘弁してくれ。そんなアホな言葉をわざわざ否定しなきゃいけない僕までアホに見えるじゃないか。


note という限られた世界の中にも、プロアマ問わず素晴らしい書き手はたくさんいる。常に質を保ちつつ、飄々と淡々と日々更新している方々がいる。書くことが肉体化している人たち。

その「飄々と淡々と」の裏でどれほど稽古・実践・修正を繰り返してきたのか。僕は、物書きになりたいともなれるとも思っていないのでラッキーだった。もし物書き願望があったらと思うと、そして「飄々と淡々と」書き続ける人たちを目の当たりにしていたらと思うと、ただただゾッとしたことだろう。


そう言うと、あらまぁ御謙遜と笑われるかもしれない。そんなこと言って本当は物書き路線狙ってんでしょと腹を探られるかもしれない。生憎だが何の謙遜も卑下もしていない。僕、そういう控えめなタイプでは無いから。


自分もフリーカメラマンとして20年以上、稽古・実践・修正を、飄々と淡々と反復してきた自負があるから分かるのだ。本気で続ける大変さを。同じ苦労を別ジャンルでしたいとは思わない。


「マスダさんイケますよ!ライターなれますよ!!」だって?なんだそのビックリマーク。本気でやってる人間を甘くみちゃあいけないんだよ。


無職だった後輩エドガワ君が28才で始めたビストロは今年12年目を迎えた。この御時勢にしっかり生き残る元無職は、今や地元で一目おかれる料理人となった。僕も負けてはいられない。負けては先輩ヅラ出来なくなるよ。


稽古・実践・修正。お客様が満足し、同業者がゾッとするものを作れるよう。今日も飄々と淡々と。

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