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君は気まぐれな冒険家

あいさつ

 みなさんこんにちは。ちゃーりー(標準体型)です。太陽さんご機嫌麗しく。直視出来ませんが、眩しい夏の装いも素敵ですね! などと、叶わぬ恋心を歌いつつ、今回も記事を書いています。
 今回は涼しいを探すお話です。
 見知った街中の大冒険を感じていただけたら嬉しいです。

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君は気まぐれな冒険家


 学校は夏休み。私はのんびり二度寝してから起きた。なかなかお洒落な髪型になった寝癖を名残惜しくも整えると、スマフォが喝采して讃える。
 友達から、アソボー。と、間抜け面の猫スタンプが送られてきた。
 私がイイダロウ。と、気障な猫スタンプを送り返した途端、暇を持て余した友達から電話がかかってきた。

「おう暇じゃ。構え」
「どうしたの。面倒くさいお姫様みたいになっているけど。これから存分に構って差し上げ奉るから大人しく待っていなさい」
「うぇー……。仕方ないにゃあ。いつもの所で猫と戯れて待ってるー……」
「あー、いつもの所ね。はいはい。自転車置き場の近くに着いたら連絡する」
「あい。あ。あんた何気なくバカにしたでしょ。可愛い友達を敬わない無礼者はちゅーばつしてやるわぁー!」
「せめて懲罰して。ちゅーばつは絵的に困る」

 私は着替えを済ませて、日焼け止めを塗り塗り、街へと繰り出した。
 ちりちりと肌を焼く日差しに目を細めつつ、自転車置き場に到着。自転車置き場の近くの公園はすぐだ。
 私が、待たせたな!と、気障なスタンプを送ると、すぐに既読がついた。でも、返信はない。
 まあ、あいつのことだ。猫の写真でも撮ろうとカメラを構えている頃だろう。
 私はたったか公園に向かい、野生化した薔薇がつくる日陰を覗き込んだ。
 
「おらー。またせた……ね?」
「なぁん?」

 そこに、首だけ起こす黒猫を見つけた。いや、手足は白かったから、ただしくは頭から黒黒白猫だ。
 猫は突然声をかけた私に向かって、欠伸半分呆れ半分の返事を寄越した。
 辺りを見回してみたけれど、友達の姿は見つからない。

「なに……人のことを暑い中呼び出しておいて、居ないってどういうこと?!」

 私はしゅんしゅん鼻息を荒くし、電話した。
 2コール目で電話にでた友達は、なんとも惚けた声でのたまう。

「あ。今涼しいところにいるよー」
「どこよ?!」
「えっとぉ……なんか大っきい神社と、葉っぱの間?」
「……は? バッカじゃないの?! ああ、もう! 位置情報寄越しなさい! そこまで行くから!」
「あ。それなら大丈夫。公園にいる手足の白い黒猫が案内してくれるはずだから」
「え。どういうっ……。嘘でしょあいつ、切ったよ……」

 私は頭を抱えた。意味がわからない。あいつが訳のわからない悪戯に巻き込まれたのか、それとも、私を騙そうとしているのか。はたまた、本当にこの黒黒白猫が友達の所に連れて行ってくれるというのか。
 なにも分からないけれど、私はそっと猫に話しかけてみた。

「ーーねぇ。私の友達が、涼しい場所にいるみたいなんだけれど。知っている?」
「ーー」
「案内してくれない?」
「ーーなぁん」

 猫は一つ鳴くと、尾を立てて立ち上がった。
 公園の入り口までのんびり歩き、こちらに振り返った猫は、そのまま通りに駆け出した。

「えっ。本当に?!」

 私は見失ってはいけないような気がして、慌てて猫を追いかけた。

 猫は駐輪場の前を通り過ぎ、駅前を通り越して、立体駐車場の脇をすり抜け、買い食いでお世話になっているパン屋さんの前で会釈しつつ、高架下までやってきた。
 風は生ぬるいけれど、高架橋の橋桁近くはひんやりとして涼しい。

「ここ? 友達、いないみたいだけど……」

 確かに涼しいけれど、友達の姿は見当たらない。私は一休みと寝転んだ猫の前に屈み、聞いてみる。
 猫の気持ちなんて分からないけれど、欠伸の仕草がなんとなく、慌てるなよレディ。と、言うようで小憎らしい。
 仕方なく待っていると、猫が徐に立ち上がって伸びをした。

「なぁうん」

 そして、また歩き出す。一体どこまで連れて行かれるのか。
 私はどきどきしながら、猫の尻尾を追いかけた。

 高架下を出た猫は、横断歩道を渡ってビル街に向かった。背の高い建物の間を縫い、路上駐車の車を横目に脇道へ。絶妙に人様の敷地の間を我が物顔で進む猫の後ろを、私は誰も見ていないのにペコペコしながら着いていった。
 視界が開けると、そこは神社の境内。

「こんなところに、神社があったなんて……。あ、鳥居。……いや、この猫がここから入って来たんだもの。仕方ない仕方ない」

 真っ赤な鳥居をくぐらず、罰当たりな入り方をした私が猫に罪を着せると、どこからともなくおどろおどろしい声が聞こえてくる。

「ばーちーあーたーりーめーがー! がーおー!」
「語呂が悪い!」

 私はしっかり友達が背後に回り込むのを待ってから、裏拳を振り抜いた。
 友達は猫のようなしなやかさで飛び下がると、目を丸くして笑った。

「あー、やっぱりバレてたか。お。道案内ありがとうねー」

 友達が猫にお礼を言うと、猫は嬉しそうに喉を鳴らす。なんだか、相手は猫と人なのに狐につままれた気分だ。
 額に浮かんだ汗を拭うと、涼しい風が樫の葉と髪を揺らす。
 私の隣に並んだ友達は、抱き上げた黒黒白猫の前足を振って目を細めた。

「秘密の場所にようこそなのにゃー」
「……ジュースのサービス付きだったら、文句なしね」

 妙に清々しい自分が、返って腹立たしかった。

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 街で見かけた馴染みの猫。お昼寝ポイントを教えてくれるというのでついていきましたが、人が寝るには少し狭くてがっかりした夏のある日です。
 少し長くなってしまいましたが、ここまで読んでくださり、ありがとうございます!

写真:みんなのフォトギャラリー よろず工房:Yasuyuki様提供よりお借りしました。ありがとうございます!

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