アマ名人戦 本戦

先日、アマ名人戦の地区予選に出た記事を書いたのだが(マジでしょうもない記事)、この連休に本戦が行われ、なんと代表権を獲得することができた。大学時代は毎年の行事のように何度も全国大会に出て何度も負けていたが、一般の県代表は高校生の時以来だ。当時とはアマチュア棋界のレベル、戦い方が全く変わっているはずで、どの程度やれるか全くもって不安だが、楽しみな気持ちが強い。

先人の実績、新聞社の努力などあってのことだろう、ありがたいことに私の住んでいる地域はアマ名人戦に代表を2人出している。ここではアマ名人戦の予選と書くが、ものすごく権威と歴史のある大会名が別についている。各地区予選を抜けた選手が一堂に会し、でっけ~トーナメントの優勝準優勝が代表だ。なんと、アマ名人戦全国大会よりこの大会のほうが「第〇回」の数字が多い。ものすごく権威と歴史がある。

ぼかすのが面倒になったので書くが、北海道代表を取った。全道将棋選手権優勝。この記事を読んでいる方はだいたい私のTwitterから飛んできているはずだし、それなら私の身元はもともとわかっているか、ちょいとGoogle検索すれば知ることができるぐらいの層だと思う。さすがにここで明言こそしないが、新聞社のホームページに結果が出ているしどうにでもなれ。道内ではかなり格の高い大会なので、無敵の無職を盾にした野放図なことはあまり書けないが、迷惑をかけない範囲で率直にやっていきたいと思う。

ということで今大会、5局指したので振り返っていきたい。ただ、準々決勝以上の対局は北海道新聞に観戦記が載るのであまり詳しい内容は書けない。記者の方と相談のうえ、ベスト8からの3局は簡潔になら、1回戦2回戦は図面含めてがっつり書いてもかまわないとのお墨付きをいただいた。ちなみに、準決勝の将棋は自戦記を書かせていただくことになった。載るのは来春あたりになると思うけど良かったら読んでね!

大会前

地区予選を抜けたときから少しずつ代表者の情報を集め、各人に対してある程度作戦を決め、そこから詳細を詰めていくという形で序盤を準備した。31人のトーナメントなので全員の個別対策をするのはさすがに無理だが、この大会は直前の新聞で組み合わせが出る。ある程度普遍的な対策をしておいて、組み合わせが出てから当たりえる相手の対策をさらに深めるというやり方ができたのは、私の性格、無職でやたら将棋に時間をかけていた境遇に合っていたと思う。数えたわけではないが、大会前1カ月半くらいは週40時間ほど将棋の勉強をしていたはずだ。大丈夫かこいつ。

それに対する思うところ、詳細な準備についてはまた記事を分けて書こうと思う。

1回戦 VS先手中飛車

相手の方は、いわゆる中飛車おじさんの四~五段クラスという感じだ。初戦であり、この後も中飛車使いと当たる可能性が高そうだったので、序盤はかなり固めていった。また記事を分けて書くが、作戦がヒットし、研究範囲を脱した時点で評価値的には+400ほど、人間の目で見ても明らかに勝ちやすいという理想的な局面を作ることができた。快勝といってよいと思う。

2回戦 後手相掛かり

ここがかなりの難所だと思っていた。相手は奨励会経験もあり、数年前にこの大会で優勝されている強豪だった。さらに、近年あまり大会に出ておらず、情報をほとんど得られなかったのも痛かった。結局は2手目84歩だけ決めて全部受けて立つ、という作戦ですらない方針になっていたが、研究だけではない普遍的な力をつけようとした勉強が生きたと思う。早々に乱戦となったものの、要所での判断がよく当たっていたようで、一致率的には70%を超えていた。これも記事を分けて書きます。

準々決勝 VS先手中飛車

相手は最近売り出し中の少年強豪で、直近の全国大会ではかなり大きな仕事をやってのけた。もっとも、直近の対局、地区予選で見た将棋などを精査しても、ちゃんと仕上げた状態の自分なら互角以上の勝負ができる手応えはあったし、作戦にかなり自信があった。

詳細は新聞の観戦記に譲るが、作戦がハマり将棋としては序盤で挽回不能なレベルまで差がついた。良くなりすぎて一瞬緩んでしまい差を詰められたものの、形勢自体は終始1.5手勝ち以上をキープできたと思う。

ここまででベスト4に進出、翌日はいきなり代表決定戦というスケジュールだ。組み合わせが出た段階で、ベストの状態で臨めれば現実的にここまでは進める可能性が高いと思っていた。他の対局は激アツのあたりこそあったものの概ね下馬評通りの決着で、無風状態の中、さしたる実績のない自分だけが手厚い上位陣に穴を開けたように周りからは見えていたはずだ。自分はといえば、まずは一安心、そして明日に向け、やっと週40時間の成果を出す時が来た、とひっそり意気を高めていた。

準決勝 先手角換わり

先手が欲しすぎて一晩中祈っていた。相手の方は、全国タイトルを複数回経験するレジェンドだ。先手矢倉と対振りが巧すぎて、後手で一発入るイメージがなかった。そして振り駒が恐ろしく強く、代表決定戦などの勝負将棋は9割方先手を引いている。先手を引けばある程度勝負にできるだけの準備はしたが、最後は祈るしかなかった。頼むから先手をくれ。せめて振るのは記録係であってくれ。1割を5割にしてくれ。

果たして記録係が相手の方の歩を5枚取り(!)放った結果は、

歩3枚(うち2枚重なり)、と金2枚。見た瞬間、

私「重なりはノーカンですよね!!!???」(クソデカ叫び)

やってしまった。振り駒のルールなど、相手も周りも当然知っているのだが、何かの間違いで後手になったら、と危惧して先制攻撃に出てしまった。攻撃しなくても先手だろうに。心に余裕がなさすぎる。すみませんでした。

将棋の内容はといえば、望外の快勝となった。後手から注文を外してきたのだがその外し方が冴えず、かなりはっきりした作戦勝ちとなった。だいぶ強気な仕掛けを決行したが、「理論上こっちがいいはず」と信じて最強手を選んでいった。その甲斐もあり、粘られたものの「理論上勝ち」の状態をキープしてゴールまで到達した。相手の方からすると、不本意な一局だったと思う。終局直後はかなり落胆されているように見えた。

この方をよい内容で倒し、代表権を獲得したというのは大きな自信になったが、同時にその後の決勝、全国大会でも恥ずかしい将棋を指すわけにはいかないという気持ちを新たにした。負かした相手のことも背負わなければいけないと、私は考えている。そのあたりも盛り込みつつ、よい自戦記を書いていきたい。


決勝 先手角換わり

相手の方は今大会の大本命。現役の全国タイトルホルダーであり、私にとっては大学時代からずっとお世話になってきた先輩でもある、偉大な目標だ。何十局と教わってきたが、常に自分のベストパフォーマンスを出していかなければ勝負形にもならないという体感、それだけの差がある。もっとも、その厳しさ、スリルを通じて自分の努力、実力を確かめ示すことができる、指していて非常に楽しい相手でもある。時世もあって1年以上対局しておらず、どの程度通用するかは未知数、湧き立つものがあった。お互い代表権を得てプレッシャーが少し緩んだこともあり、お互い楽しんで指せたらいいね、というような話をしていた。

結果から言うと、なんとか勝つことができた。内容はといえば、名局かというと疑問符が付くのかもしれないが、指していて非常に楽しいものだったとは言える。相手に序盤で勘違いがあり早々に優勢になったのだが、そこから混沌とした展開に持っていく強靭な粘りに感嘆しつつ、私も同調して世界観の捻じ曲がるような手を続けてわけのわからない終盤になった。家でソフトで解析させたところ、まあ悪手は指しているし人に見てもらっても変な手をやっているのだが、なぜか対局者同士の読み筋はけっこう合っていた。実戦というのはそういうものだ。最後の最後まで逆転の筋があったのだが、なんとか幸いした。

この方と指すと、勝っても負けても精魂尽き果てる。フルパワーを出そうとする意識を強く持っているのが大きな理由だろう。決勝で本当に良かったと思う。無職じゃなかったら過労死ものだった。

ともかく、優勝することができた。準決勝が真の決勝で決勝はおまけでしょ、みたいに選手は感じてしまいがちだが、北海道に引っ越して以来、学生の世界ではそこそこに勝っていたものの一般大会での実績がなかった自分にとっては、歴史ある大会の一端に名を残せたのは非常に大きかったと思う。不安な情勢の中開催いただいた北海道新聞社、支部連合会には深く感謝しています。この場を借りて一言お礼申し上げます。


おわりに

勝因を挙げるなら、作戦が上手くいった。研究を外れた部分も、自力である程度正確に指せていたのは勉強の成果だとは思う。40分30秒という持ち時間設定だったが、局面+500、時間は15分リード、のような展開がほとんどだった。24ならいくらでも逆転するが、物理的に形勢がいい時間が長いのは精神的にかなり楽だった。相手からするときついものだ。私が長考したときはたいてい有利は明らかで、リードをさらに拡大するための楽しい長考にできたのが大会全体の、決勝のもっとも大きな勝因といってもよいだろう。私がやっているレベルの将棋など、所詮メンタルのゲームだ。もちろん技術を高める努力は大事だが、それを十分に発揮するために、うまくいかなかったときに挽回するために、気を強く持っておくのは大事だと思っている。

そのために、無職はかなり有利だと感じた。時間をかなり多く割けたのはもちろん、社会的身分がないために完全に開き直って無敵の精神状態だった。ただ、働かないで週40時間将棋をするのがアマチュア将棋大会のレギュレーションが想定している努力かというとそうではないと思うので、今後は仕事、別の趣味、将来的には家庭など、さまざまな要素とバランスを取りつつ将棋を続けていきたいと思う。はよ働け。

そのほかにいろいろ考えた事、これから取り組みたいことなどあるのだが、ひとまず今回はこのくらいにして、1回戦、2回戦の記事を書いたのち、改めて書いていきたい。

着地点が分からなくなったので終わるが、とりあえず、今回は疲れた。将棋のほかにいろいろやるべきこともあるので、区切りをつけて人生頑張っていきます。

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