マガジンのカバー画像

バーチャルかくれんぼ

9
投稿小説『バーチャルかくれんぼ』をまとめています。
運営しているクリエイター

記事一覧

固定された記事

バーチャルかくれんぼ 第1話『VRの世界へ』

あらすじ 本編  温暖化の進行によって、酷暑と呼ばれるような日々が続く昨今。  子どもたちにとっての遊び場は、いつしか日の当たる屋外から、エアコンの効いた快適な屋内へと変化していた。  その中でも、室内にいながら離れた場所にいる相手ともやり取りができる、オンラインゲームの世界にハマる人間も少なくはない。  ことVRを使用したバーチャルの世界は急速に進化し続けており、今や現実との境目がわからなくなるくらい、リアルな世界観が売りとなっているソフトも続々と登場していた。

バーチャルかくれんぼ 第9話『最後の勝負』

 隙間風が、廊下に不気味な音を響かせる。  恐ろしいほどの静けさを感じさせる校舎の中は、自分だけしか存在していないのではないかと錯覚させる。  廊下に落ちていたモップを拾うと、惠美は一度深呼吸をしてから歩き出す。  あの時、勝行が自分を助けてくれたモップだ。傍に彼がいてくれるような気がして、少しだけ心強い。 「モウ、イイ、カァイ」  階段を上がった先には、洋司だった化け物がいて緊張感が走る。  けれど、じっとしているのが苦手だった彼の性格を現しているのか、それはす

バーチャルかくれんぼ 第8話『二人の決意』

 図書室で耳にしたあの時と同じように、硬いものを砕くような咀嚼音が耳障りなほどに廊下に響き渡る。  吐きそうになっているのか、惠美は自身の口元を両手で覆っていた。  逃げ出さなければいけない。頭ではわかっているのだが、階段に伏せたまま二人は動くことができないでいる。  どのくらいそうしていただろうか。咀嚼音が止む頃、廊下に倒れ込んだ勝行の下半身が突然ガクガクと震え出した。  断面が歪に膨れ上がったかと思うと、そこにはまるで芽が出るかのように鋭い牙が生え始めていく。

バーチャルかくれんぼ 第7話『脱出の方法』

 飛び込んだのは職員室の中で、できるだけ部屋の奥にある机の影へと身を潜ませる。  扉の隙間から周囲を窺っていた勝行は、化け物の気配がないことを確認して二人のところへと歩いてきた。 「とりあえず、追ってきてはいねえ」 「惠美、大丈夫か?」  可哀想なほどにガタガタと震える惠美の肩を軽く擦ってやりながら、春人は足元に目を遣る。  ショートパンツを穿いている惠美の右脚は、膝から太腿にかけて大きな切り傷がつけられていた。恐らくあの怪物に襲われたのだろう。 「なに、あれ……

バーチャルかくれんぼ 第6話『化け物』

 そっと廊下に顔を出すと、人の姿は見当たらない。  一穂のような何かはどこか別の場所に行ってくれたようだ。できる限り足音を立てないように、春人は慎重に階段を下りていく。  二人がいるとすれば、元々捜索をしていて合流地点もある一階の可能性が高い。もちろん、無事でいてくれればの話ではあるのだが。  ゲームパッドを使って操作をしていた時も、現実のようにリアルな世界観だと感じていた。  しかし、自分の足でこの場を歩くこととなった今、そのリアルさはさらに増している。  春人の

バーチャルかくれんぼ 第5話『バーチャルとリアル』

 夕食や入浴を済ませた後、邪魔が入らないよう春人は念のために部屋の鍵もかけておいた。  昨晩はそれで救われた部分もあるのだが、今日は途中で投げ出すわけにはいかない。  待ち合わせ時間の少し前にゲームを起動して、ヘッドホンとゴーグルを装着する。  少しして勝行からの招待が届いて、春人はプライベートルームへと入室をした。  一度暗くなった視界が徐々に明るさを取り戻していくと、そこには記憶に新しいあの教室があった。  昨晩とは異なり、すでに全員が集まっている。 「全員来

バーチャルかくれんぼ 第4話『行方不明』

 翌日、昼近くまで眠っていた春人は、スマホの着信で目を覚ました。  着信は惠美からのもので、寝ぼけ眼を擦りながら通話ボタンをタップする。こちらが応答するよりも先に、通話口の向こうから惠美の声が聞こえてきた。 「春人、ちょっといい?」 「ん……なに、どうかしたか?」  欠伸を漏らしながら返事をする春人とは異なり、惠美の様子がどこかおかしい。布団の中で寝返りを打ちながら問いを投げる。  低反発の枕に自身の体温が移って、このままならいい感じに二度寝ができそうだ。 「あの

バーチャルかくれんぼ 第3話『かくれんぼ』

 バーチャルの世界でかくれんぼをするなんて、全員が初めてのことだった。  幼い頃にリアルの世界でかくれんぼをした経験はあるだろうが、バーチャルの世界でそれをやるという発想が無かったのだ。 (そもそも、高校生にもなってかくれんぼすることになるとは思わなかったけど)  理科室を出た五人は、最初に集合した教室へと戻っていた。  ルールは簡単で、視界の右上には20分の制限時間が表示されている。  その制限時間の間に、鬼は校舎内のどこかに隠れている四人全員を見つけるというもの

バーチャルかくれんぼ 第2話『校内探検』

「とりあえず、リアルと同じで23時くらいの設定にしてきたから結構暗いし、各自アイテムに懐中電灯入ってるだろ。それ使って照らしてくれ」  勝行の指示に従って、アイテムボックスを開いてみると、確かに懐中電灯だけが入れられている。  それを選択して試しにスイッチを入れてみると、より臨場感が増したように思える。  裸眼で見える校舎の中は、窓から射し込む月明かりのみが頼りとなっている。  ある程度は目視することができるが、やはり明かりがある方が安心感は段違いだ。  何より本当