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国際商事仲裁 Day1

近時、盛り上がりを見せている(?)国際商事仲裁について、10回に分けて、解説していきたいと思います。

0 本稿のポイント

・国際商事仲裁は裁判の代わりになる手続

・国際商事仲裁を利用するには、仲裁合意が必要

・裁判による判決では、海外資産に対して執行できない可能性が高いが、仲裁判断による執行はできる可能性が高い

・仲裁判断は申立てからだいたい1年くらいで出される

・仲裁機関は多々あるが、ニューヨーク、パリ、シンガポールの仲裁機関が特に利用されている。

1 国際商事仲裁とは

仲裁とは、紛争当事者が、その紛争の解決を仲裁人の判断に委ね、その判断に従うという合意に基づいて紛争を解決する手続きのことをいいます。

英語では、下記のように仲裁を定義します。

Arbitration is “a process of dispute resolution in which a neutral third party (arbitrator) renders a decision after a hearing at which both parties have an opportunity to be heard. “ (BLACK'S LAW DICTIONARY 6th ed.)

国際商事仲裁による紛争解決を望むには、当事者間で仲裁合意を結ぶ必要があります。そのため、仲裁手続きの利用を望む場合は、基本的には、相手方と契約を締結するときに、契約書の条項の一つとして、仲裁条項を入れることが多いように思われます。私の経験上、合意管轄の代わりに、仲裁条項を入れる、というイメージです。

大企業のみならず、中小企業の会社でも、中国をはじめ、国際的な取引が増えている昨今において、契約書に仲裁条項を入れるケースが増えているように思われます。

仲裁条項の記載方法の詳細については別の回に譲りますが、参考までに、JCAA(一般社団法人日本商事仲裁協会)ホームページ記載の仲裁条項例を記載します。

「この契約からもしくはこの契約に関連して、当事者の間に生ずることがあるすべての紛争、論争もしくは意見の相違は、日本商事仲裁協会の商事仲裁規則に従って、(都市名)において仲裁により最終的に解決されるものとする。」(JCAAホームページ)

2 国際商事仲裁のメリット・デメリット

⑴ メリット

① 強制力

国際商事仲裁を利用する最大のメリットはこの点にあります。

例えば、日本企業と中国企業との間で紛争が生じ、中国企業が日本企業に3000万円の損害賠償義務を負うようなケースを想定してみましょう。

日本の裁判所で中国企業に3000万円の損害賠償を認める判決が出た場合、日本と中国の間では、判決承認・執行の相互保障がないため、中国企業が日本に資産を持っていない場合、その判決に基づいて、債権回収を図ることは困難です。

しかし、国際商事仲裁を利用し、仲裁判断を得れば、中国の裁判所もその判断を尊重せざるを得ないため、3000万円の損害賠償請求を認める仲裁判断を得られれば、中国企業の中国にある資産に対して、強制執行ができる可能性が高くなるため、債権回収可能性は高くなります。

このような仲裁判断の承認・執行はニューヨーク条約加盟国との間で有効なものとなりますが、このニューヨーク条約には、日本、中国、韓国、アメリカ、カナダなど約160か国が加盟しております(2019年5月現在)。

② 非公開性

日本の裁判では、公開が原則ですが、国際商事仲裁は、非公開の手続となっており、企業の機密流出や風評被害の防止に有効な手段になりえます。

③ 仲裁人を選べること

国際商事仲裁においては、3人の仲裁人のうち、双方当事者が一人ずつ選び、その選ばれた二人の仲裁人が残りの仲裁人を合意に基づき選任する、というのが一般的なケースです。

このメリットについて、日本企業の方はピンと来ないかもしれませんが、某新興国等、国によっては、司法が汚職にまみれていることがあり、賄賂を多く渡したほうが裁判で勝つ、というケースもままあります。そのような不公平な司法判断を避けるために、自ら仲裁人を選べる仲裁手続きを利用することは、特に新興国の企業との紛争には有効になりえます。

⑵ デメリット

① コスト

仲裁においては、当事者が仲裁人の報酬を払う必要があるため、日本の裁判手続きに比べ、費用が割高になる可能性があります。

もっとも、これは日本の裁判手続と比較した場合の話で、アメリカなどディスクロージャー制度がある国での裁判コストと比較した場合には、仲裁は安上がりになる傾向にあります。

② 手続が一回限りであること

三審制の裁判とは異なり、仲裁は通常、一回限りの手続となります。そのため、限られた時間の中で、主張の組み立てや有利な証拠をもれなく提出する必要があります。

もっとも、手続が一回限りであることの裏返しで、紛争が比較的に早期に解決する、というメリットもあるといえます。

3 一般的仲裁手続のタイムライン

Day 1: 合意した仲裁機関に対する仲裁申立て
Day 8: 仲裁申立書が相手方に到達
Day 30: 相手方からの反論
Day 40: 仲裁廷の成立(仲裁人の選定)
Day 50: 準備会合(争点整理) 
Day 90: 申立人準備書面提出
Day 130: 相手方準備書面提出
Day 131 - 200: 証拠提出、ディスクロージャー等
Day 230: 両当事者・反論書面提出
Day 250: 弁論準備手続期日(Pre-hearing)
Day 270 to 275: 弁論期日(Hearing);尋問等
Day 305: 最終準備書面提出
Day 365: 仲裁判断 

JCAAが、以上の流れを簡単に図示しているので参照まで。(JCAAホームページ http://www.jcaa.or.jp/arbitration/significance.html)

4 様々な仲裁機関

主な国際仲裁機関は以下の図のとおりです。

上記仲裁機関の中でも、ニューヨークのICDR、パリのICC、シンガポールのSIACは、特に世界で利用されている仲裁機関になります。

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