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日曜日のファミレス〜ましろの草子8

1 はじめに


秋も終わりに近づいたある日曜日の夜。真しろは、自分と同じ心眼使い(視覚障害)の友人とファミレスで夕食を撮った。今回はそのときに起きたことと、それを通して考えたことを綴ってみたい。そんなに深刻な話ではないのだが、言語化しておきたかったので、ここに記しておく。


2 ファミレスというジャングル


ファミレスに入ると、店内は騒がしかった。ただ、入り口のあたりはがらんとしていて、「いらっしゃいませ」という声すらはっきりとは聞こえない。店員が見当たらないので、今満席なのか、どこで待てばいいのかもよく分からず、友人と2人、入り口をうろうろとさまよっていた。


すると店員がやってきて、席へ案内してくれることになった。心眼使いの客には不慣れだったようで、誘導するときにかなり手間取っていた。


無事に席に着くことができて安心したのもつかの間。肝心の注文をしなくてはいけない。すでに嫌な予感はしていた。


なんとかそのファミレスのウェブサイトを見つけ、大体のメニューをスマホで閲覧することができた。ただ注文方法がよく分からない。机の上には紙が1枚とタブレット。いったいこれで何をすればいいのだろうか。


店員がやってきたので聞いてみると、紙にメニューの番号を書いて、それを手渡すことで注文できるというスタイルらしい。


さて、読者諸氏に考えていただきたい。心眼使いはこの時点でどんなバリアに阻まれてしまうだろうか…。


主に以下の2点だろう。まず、紙に番号を書くことが難しい。次に、たとえ文字を書くことができたとしても、どのメニューがどの番号に属するのかを確認することが難しい。一般的にはタブレットから番号を閲覧することができるようだが、読み上げ機能には対応していないようだった。とりあえず今回は特例として、店員に直接頼みたいメニュー名を伝えることで対応してもらうことになった。ちなみに頼んだのはハンバーグステーキとライスの単品である。スープやサラダをセットで付けることもできるのだが、セルフで取りに行く必要があるので、またバリアが増えてしまうのだ。


しばらくしてなんとか頼んだ品が運ばれてきた。ハンバーグは鉄板にのっていたこともあって、物理的に食べるのが難しかったが、見かねた店員が助けてくれて、なんとかおいしくいただくことができた。その後2人でゆっくりして、会計をしてから店を出た。


まとめると、ただファミレスで食事をするというだけの行為なのに、まるでジャングルでたくさんの植物や危険な動物たちに襲われそうになりながら獲物を捕るがごとく、すごく大変な作業になってしまったのだ。まあ今から思えば楽しい思い出なのだが。


3 人手不足の問題


上記のエピソードについて、「なんてひどい話だ。」と思う読者諸氏もいるかもしれないし、正直真しろはおなかが空いていたこともあって、実際それを経験したときは、そう想わなくもなかった。


しかしここでよく考えてみたい。ファミレス側は、心眼使いに店へ来てほしくないと思ったからこんな対応をしたのだろうか。そんなことはおそらく考えられまい。


背景にあると想われるのは、人手不足の問題だ。今はレストランなどの飲食業界だけでなく、さまざまな場所で人手不足という問題が浮き彫りになってきている。そしてその人手不足を解決する簡単な方法の一つが、セルフサービスなどを使って店員の仕事量を減らすことだ。店員の仕事量も減るし、客は無駄なコミュニケーションを取らなくてもいい。特に、人見知りや聴覚障害のある方などはこちらのほうが利点に作用するかもしれない。タブレットからのセルフ注文、ドリンクバーのセルフサービス、セルフレジなど、セルフサービスは至る所にある。もしかすると将来、厨房以外は無人のレストランというのも実現しうるかもしれない。


しかしその利点を享受できないのが心眼使いだ。注文の取り方はおろか、どこの席が空いているかも分からず、何がどこに売られているかも分からず、スープバーやドリンクバーを適当に操作したがために服を汚して、悲しい思いをしてレストランを出るなんてことになったら、本当につらいだろう。


4 ありえる解決方法


もちろん真しろたち心眼使いも、人手不足の深刻さは理解しているし、助けられることより自分の力でやっていきたいと想っている人のほうが多いかもしれない。それでは、人手不足も解消しつつ、心眼使いでも安心して飲食店やコンビニを利用できるようにするにはどうすれば良いのだろうか。下記はあくまで理想的でありえそうな解決策だ。


まず、タブレットからの注文に関しては、タブレット自体に音声読み上げ機能を付けたり、拡大機能を付けたりして使いやすくすれば、心眼使いも安心して使える。それが難しいといいうことならば、自分のスマホを使ってウェブサイトから注文できるようにするのも良いだろう。実際、マクドナルドのモバイルオーダーやくら寿司などは、QRコードを読み取って自分で注文することができるようになっている。


コンビニやスーパーに導入されるようになったセルフレジも、タッチパネル方式ではなく、駅の券売機のようなボタン式であれば、ボタンの位置さえ覚えれば心眼使いでも安心して使える。これらのことを実現するためにはお金も時間もかかるだろう。しかし少しでもこのような動きが広がれば、多くの人たちが気持ちよく過ごせる社会が実現されるはずだ。


5 人は1人でも生きていける?


自動化やセルフサービスによって、最近店員さんとやりとりする機会は昔より減っている。交通機関のチケットを撮るのも、いちいち窓口に並ぶより、ウェブサイトからポチったほうが楽だろう。しかし、いくら自動化やセルフサービス、オンラインの技術が進歩したとて、結局人は1人では生きていけない。これが真しろの考えだ。


人と関わるのは面倒だから、今の時代は恵まれている。確かにそれはそうだ。しかし、その自動化やセルフサービスだって、誰かが管理してくれているから使えるのであって、1人で生きているなんて思い込むのは危険なのだ。誰かの作った自動化モデルで暮らしている時点で、もう自分は1人ではない。


そういうへりくつ以前に、やはり誰かと話したり、誰かに聞いたりしないと不安になってしまうのは、人間が1人でいることを嫌がる生物だからかもしれない。1人でチケットをポチって、1人で旅をして、入ったコンビニで1人商品を買って、入ったお店でモバイルオーダーし、店員とほぼ顔を合わせずにご飯を食べて、ホテルの自動チェックインサービスを使って宿泊する。そんな寂しく恵まれた時代を、真しろたちは生きている。


6 Song for You


今回紹介するのは、Official髭男dismの『日常』という曲だ。日曜日の夜に聞きたくなる1曲。この記事を書こうと思ったのが日曜日だったので、この曲を選んでみた。淡々とした日常を生きる中で、些細な人たちの優しさに気づき、悩み、でもやっぱり大切な人たちに支えられて生きていることを自覚させられる歌だ。ご視聴になりたい方はこちら。

https://open.spotify.com/track/1jNVSP5r2X1iVDlJfXKarA?si=6DA5TXTySEW0F4Tl4Alkqw

7 おわりに


ファミレスでの短いひとときではあったが、真しろはずっとこのエピソードを心の中にひっかけてしばらくの日々を過ごしていた。ようやく言葉にできたので、少し荷物を下ろせた気分だ。読者諸氏も、今度ファミレスやコンビニに行ったときは、そばにいる人を見てみてほしい。


そして最後に、これを執筆しているときに、ちょうどSNSでこんなリーフレットを見つけたので、リンクを掲載しておく。

https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/sabekai_leaflet-r05.html


それでは今日はこの辺で。Have a nice day!

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