【silent 第3話】誰かと誰かの関係性は言葉にして初めてわかること。
すごく丁寧に描かれている。限られた時間の中で、ストーリーの要素をどう配分されているのかとても気になる。シナリオ構成がとても丁寧かつ人間味を存分に引き出していて、もう何も不満がない。こんなドラマ、かつてあっただろうか。
ドラマを見ていると想定して話すので、もし万が一まだ見てない方は公式サイトで相関図などを見て確認してほしい。
湊斗にとって自分の友達と、自分の好きな人と一緒にいることの距離感がどんなものであったのか。誰かを殴ったりすることもない、心根がとても透明にできているからこそ、どこかで自分の都合通りにいくことに罪悪感を抱く。
高校の同窓会の後、ファミレスで仕事をしている紬を追って合流した湊斗。仕事を「無理すればできる」と言いながら紬らしさを失っている姿を見て、湊斗は言うのだ。
2話にも出てきた、動物の動画を見せて心を和ませるという彼の提案。てっきり紬がそういう好みがあるのかと思っていた。でもどちらかと言うと、これは彼なりの提案であって、そういう人なのだ。ドリンクバーで2種類用意して、好きな方を渡そうとする。そういう人。
湊斗は、心根が透明で、人のことをよく観察していて、そして嫉妬心すら滅多に抱かない。どちらかと言えば、恐れていたんだと思う。想がもし紬のバイト先に来て2人がばったり再会したら。「想と紬がまた意気投合して自分が身を引くことになる…」という恐怖ではない。
2人の関係が終わった時、あまりに唐突な別れだったから湊斗は想に会いに行っている。そしてどうしたのかと聞いても、想は「紬のこと、いらない。」言ったのだ。そう言い放つ想に、少なからず湊斗は友達としてショックを受けただろう。そんな風に思う想が、今の紬と再会した時、紬が傷つくかもしれない。すぐパニックになってしまう紬のことだから、きっとひどく混乱するだろうから。2人は会わない方がいい。そう思っただろう。
紬が苦しむより、笑っていてほしいと望む。ただ純粋にその気持ちが彼の愛情なのだ。
彼のことを分かっていなかったのは紬の方だ。光も、フットサル仲間も。恋愛というフィルターが邪魔をして、想に対しての感情をみんなが誤解していた。彼は自分の心をできるだけ透明にしようと、様々な思惑をろ過して彼自身を保っている。そうやっていつも柔らかく微笑んでいるのだ。ただ想の身に起きた事実を、湊斗は大きな戸惑いと事実を受け入れきれずにいた。
これはドラマで、フィクションで、見ている私たちは「そういう設定」として受け入れられる。もちろん実際に当事者であったり身近に経験している人たちは違うだろう。でもこれはドラマだからと、思っているよりもずっと容易く受け入れてしまった。
紬が抱く真っ直ぐで素直な思考と行動力を、私たちはどこかで「そうあるべき」だと思ってはいなかっただろうか。紬にとって最優先なのは、想と話したことがあったから、それに対して必要な手段を取ったまでかもしれない。(紬の手話の上達具合を見る限り、多少の数日ではなく数週間単位で時系列は進んでいそうだ)
紬は紬で、想を突如目の前にして、彼女なりの衝撃があった。そんな紬を冷静に落ち着かせて、想に対してできることの選択肢(手話教室)を教えてくれたのも、湊斗自身じゃないか。
誰にも言えなかった。行きつけの居酒屋で偶然出会う春尾先生にすら上手く言葉に出来ず。友達には紬を取られるかどうかしか言われず。
本当は湊斗が誰かに自分にそうしてほしいと思うことを、紬に対して全て尽くしていた。
湊斗の提案に迷うことなく進み出した紬を、うまく整理できない自分と比べて、いつものように透明で自分の心を保っていたいのに、それも叶わない。
今度は紬の番だ。湊斗を支えられるのは、紬しかいないのに。
いないのに。
紬のバイト先でばったり会った想は、仕事終わりの彼女と話をする。
湊斗と付き合っているのなら、もう2人で会うのを止めよう。湊斗に悪い。良くないと思う。そう言ってある意味、終わらせようとしていた。
それに紬は答える。
スマホの音声を文字化するアプリに表示される紬の言葉に、想は深く思い知ることになる。耳が聞こえなくなり紬のことを好きだから別れた、そう言う自分に対して紬はすぐに手話を覚えた。今は紬を泣かせない人がいると分かっていながら、それでも心の中では紬のことを大切に思っていただろう。
そんな彼女から出た言葉に、長い時間が経っていたことを思い出すのだ。
再会した好きな人は、変わらず彼女らしさに溢れていて、自分が隔てた壁も越えて関わりをもってくれていた。でも彼女が彼女らしくいられているのは、自分ではなく別の誰かがいてくれるからだ。高校卒業の時に少し戻れたような気がしながら、時間が止まっていたのは想の方だった。
好きな人の紬、友達だった湊斗。どちらとも関係を絶ったのは自分で、2人の時間は流れ続けていた。そう深く思い知った。
湊斗を思うと紬と一緒にいてほしいと願うのに、
想の止まっていた時計が動き出した今を思うと、あまりに胸が痛かった。
想の母親である律子が、娘であり想の妹である萌に「お兄ちゃんの様子を見に行ってきて」と頼むシーン。声をかけてもノックをしても返事をしない萌に「聞こえなかった?」と聞いた。そんな母に少し辟易した様子を見せながらも返事をする萌。そして同情で想に近づいているのでは?と強い口調で批判する萌に対して「やめなさい」と言う律子の背中を撫でてあげたくなる。その丸まった背中が、私は1話からずっとたまらなくて抱きしめに行きたくなってしまう。それだけで泣けてきてしまう。お母さん。
手話教室の春尾先生。この人の率直すぎる現実的発言の数々。まさに嫌われ役。でもこれがとてもいいバランスを取っていると思ってる。今回もいい辛辣さを含んだ言葉だった。あなたを捻くれさせたその過去は何話に訪れるか。
光。あなたはいい弟。でも1つだけ言いたいことがある。想とよりを戻すなんて考えてない。姉弟の関係で、紬がそう口にした訳ではなくともわかるのはとても好感がある。だけどそれは伝達するのは止めておきなさい。その思いはとても大切なことだからこそ本人が言うべきで、すぐに伝える必要があっても本人が言ってないから代わりに、なんて止めておきなさい。今回はまだよかったけど、これはよくあるパターンだったら100%こじれる!約束!指切り!
そして毎度思うが、シーンの作り方が本当に好きだ。
カメラの構図も視点も、シナリオと歩調を合わせてとても丁寧に描かれている。息が詰まるような密の高い完成度の韓国ドラマとも違う。本当に引かれるべき線が無駄なくとてもきれいな曲線を描き、登場人物との関係性を結んでいる。その関係性を描くための魅せ方が、ごく自然な形ですっと心に入ってくる。
個人的に3話から選ぶとしたら、ファミレスのシーン。
紬が落ち着かない様子で書類で顔を隠し気味で話すシーン。湊斗は、顔を隠されているため紬の顔を前から見えない。でもふとガラスに反射した横からの紬の姿を見つけて、泣くのを我慢している様子を勘づかせる。
心の中で拍手喝采だった。本当に心情描写が私の好みを刺してくる。
狙いをつけるとどうしても焦点をわかりやすくするために、派手にしてしまうことがある。逆にそれを自然に見せようとして空気感に溶け込みすぎてしまうこともある。過去にあるドラマの傾向として、視聴する年齢層に広く当てはまるほどいいとされてきたからか、テンポの良さばかり重視されるがために分かりやすすぎるオーバーな演技や構図を求められてきたように思う。
それを見事に払拭し、これまでにない表現の質の高さをこのドラマに感じている。
ああ。毎度満足させてくれてありがとう。
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