夫を痩せさせたい
ある日、夫が会社でメタボ指導を受けて帰って来た。
メタボと判定された社員たちが集められ、食事や運動について懇々と説かれた後、その場でできる体操をさせられたというのだ。
これにはさすがの夫も情けない気分になったようで、私の「何とかせねば」という夫への愛情が早速再燃した。
とはいえ、前回のような大根の皮餃子や高野豆腐サンドといった置き換え食材は夫に合わないことがわかっている。
私も手のかかることはしたくない。(この時点で無駄に終わりそうな気がしている)
所謂“ダイエットメニュー”を前面に押し出した献立にはせず、あくまで普段通りを装うことにした。
以前Twitterのタイムラインで見かけた冷凍食材で、ブロッコリーのみじん切りというものがあったのを思い出した私は、早速スーパーの冷凍コーナーへ出向いた。
離乳食作りに便利だと紹介されていたが、これにはカリフラワーバージョンもあり、パッケージには“お米のかわりに食べる”と銘打ってあるのだ。
炭水化物を控える人に向けた商品なのだろう。
私は迷わず2袋買い、その日の白米に混ぜて出した。
やり方は簡単。
洗米し炊飯器にセットし、最後にカリフラワーをザザッと入れて炊くだけ。
カリフラワーの量は、米3合に対して1カップぐらいにしておいた。
炊き上がったら全体を混ぜる。するともうカリフラワーは白米に隠れて見えなくなる。
実際、黙って食卓に並べると、夫は最後まで気づかなかった。
しかし、気づかずに食べていても、気づかないうちに痩せたりしないのが我が夫である。
こちらはコッソリ糖質をカットしているというのに、夫は堂々と甘いデザートを買ってくるのだ。
何という直接的な糖質摂取。カリフラワーご飯など簡単に吹き飛んでしまう。
メタボ指導を受けておきながらこの体たらく。
私は少しダイエットを意識してもらおうと、大量の野菜スープを作った。
食事の際はまずこのスープ。それから他のものを食べる。
食べる順番は重要なのだ。これだけでも血糖値の急上昇を抑えられる。
だが、この日に限って夫は仕事上のトラブルに見舞われ帰宅が遅くなる旨連絡があり、『ご飯は食べてくるね』との悲しいメッセージも添えられていた。
深夜の晩ご飯は良くないと判断したのだろう、少しは気にしているのかな…と思うことにした健気な私である。
ところが別の日は待てど暮らせど帰って来なくて、息子と布団に入ったところでやっとメールが届いた。
『急だけどちょっと飲んできちゃった。でもあんまり食べてないから帰ったらご飯よろしく』
食べるの?!
こんな調子だった夫のダイエット・シーズン2はたった2ヶ月足らずで終了となった。
私が第2子を妊娠し、つわりでキッチンに立てなくなったのだ。
夫のメタボ?知るかそんなもん、私に食べ物を見せるな!肉の匂いを漂わすなー!
第1子の妊娠期間に10kg増量した夫、今度はどうなる。
さて、我が家の本棚に『夫をやせさせる本』という、入江久絵さんのコミックエッセイがある。
このストレートなタイトル、買ったのは意外にも夫だった。
やせさせて欲しいという願望ではない。
著者の他の本も持っており、それが面白かったからというのが理由である。
著者の夫である徹さんは元々何を着てもオシャレに見えるスリム体型だったのだが、結婚してから着々と増量し、約18kg増えた頃にはお風呂上がりに半裸で腰掛けた姿がドルイド(※ドラクエのモンスター)と見紛う程だったという。
そんな徹さんを痩せさせるために、献立の改善に取り組んだり、レジャーに誘ってカロリー消費を促したりと、あの手この手で奮闘するという内容である。
実際に作っていたメニューのレシピがたくさん載っており、主要な食品のカロリーや食物繊維の一覧表、専門家との対談もあり、最終的には徹さんが見事結婚当初の体型を取り戻すので、すっかり私の愛読書となった。
徹さんの肥満の原因にかなりの便秘体質というのがあり、水分をよく摂るように声をかけたところ「出してくれたら飲むよ」と徹さんに言われ
「誰の便秘だよ!!」
とブチ切れるシーンがある。
私はここに激しく共感した。
全くその通り。誰のメタボだよ!!
徹さんが痩せることができたのは著者の多大なる協力はもちろんだが、本人がやる気になったことがとても重要だと思った。
最初は先程の「出してくれたら飲むよ」といった妻まかせのスタンスだったが、段々と自分で考え食べる量や内容を調整していくようになるのだ。
いくら夫に痩せて欲しい、健康体に戻って欲しいと願っても、夫本人が計画の推進者とならなければ1ミリも結果が出ない。
甘いオヤツを食べようとしているのを羽交い締めにして止めることなどできないのだ。
夫を痩せさせるためにまず必要なもの。
夫のやる気。
徹さんのスイッチは、洋服の試着でMサイズではウエストのボタンが留まらずLサイズでは腕の長さが足らず、結局何も買えなかったという出来事だった。
私はまず夫のスイッチを探すところから始めなければならない。
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