「ガザ・モノローグ2010」その17

17.アリ・アル・ハサニーさん 1995年生まれ アルサフツァイ通り

ガザで一番好きなのは、他のどんな国とも違うところです。他の国は、飢饉や包囲、国境分断や占領、破壊と死のような問題に溢れていますが、ガザにはそんな問題はないのです……。だから僕はガザが好きです。特に下水や道は綺麗で、人々はお互いのことが好きだし、物価は低くて、みんな幸せで、魚は下水道を泳がないから健康なんです。僕は絶対に飢えや貧困や、僕の家族の半分が命を落とした心臓発作なんかでは死なないと信じています。なぜなら、こんなにもたくさんの「幸せ」を感じているんだから……。

大きな秘密をひとつ、僕は胸のうちに抱えています。今話し始めた時から、言うのをためらっていたこと。それは、ここだけの話、僕がガザでの戦争の原因だということです。なぜなら、僕は実現しなかった夢を見たことがないから! 戦争が始まる一日前、僕は家が空爆されはじめて、僕だけが生き残る夢を見ました。そして次の日の11時25分に、空爆が始まりました。

戦争が始まって一番ショックだったことがあります。それは学校で一番強い先生(数学の先生)が、いのいちばんに机の下に隠れたことです。いちばん強い先生が隠れてしまったら、僕たちはどうすればいいの? と思いました。多くの生徒はお漏らししていました。僕が叫び始めたら、みんな一斉に叫び始めました。僕は自分の家が空爆されているに違いない、家族は殉教しているに違いないと思って、泣き叫びました。

道路に飛び出て、急いで家に向かおうとしたけれど、車を捕まえるのに2時間もかかるので、結局歩いて帰りました。道すがら頭にあったのは、爆撃された家と、死んだ家族の姿でした。家に着いた時、家族はみんな無事で、空圧で割れないよう、窓を外しているところでした。

しかし今日までずっと、自分の家が爆撃されないか心配でなりません。なので、僕はもし家が爆撃された時も衝撃を吸収してくれるように、マットレスを三段重ねにして寝ています。僕は夢を見るのが嫌いですが、夢はコントロールできません。

僕は戦争の前のアリ(ぼくです)と、戦争の後のアリはちがう人間だと感じ、それが誰なのかを掴もうとしています。戦争の前は、僕は政治が何なのかまったく理解してなかった。大統領と首相の違いも知らなかった。ニュースも見たことがなかったけれど、今はもうある種の政治アナリストです。アルジャジーラの「きょうの朝のニュース」「おひるのニュース」「夕方のニュース」「一日のニュース」「1週間のニュース」……僕はこれらの番組を欠かさず見て、内容について議論をします。政治とニュースは人生においてとても重要だと感じています。なぜならそれは僕たちを殺すものであり、僕たちを生かすものだからです。そしてまた、次の戦争が始まるときは、一番最初に知りたいと思っています。

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