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沼尻海岸図録(2. 海藻)

 海の春は早い。2月にはワカメやフノリ、マツモ、ヒジキなどの磯草(海藻)が伸び、磯草採り(開口)が始まる。
 沼尻海岸は遠浅の磯場で、大潮の時は沖の岩場まで歩いて渡ることができた。この岩場は海藻の宝庫ともいうべき場所だった。

2004年4月9日

 だが、2011年3月11日の震災で地盤が沈下し、この岩場のほとんどは水中に沈んでしまった。

2023年4月10日

 それでも、沼尻海岸は、震災後も変わらずに海藻が豊かに生い茂っている。海は、時には牙をむいて襲い掛かり、多くの命を奪っていく。けれど、私たちの暮らしに豊かな恵みを与えてくれるのも、海である。
 海で暮らすことは、この二つの顔を持つ海とつき合うことだ。その覚悟と、海に対する畏怖と感謝は、海で暮らす者には自然と身についている。
 春になり、磯草の季節が巡ってくる。海はその恵みをふんだんに用意してくれている。

2004年4月 フノリ開口
2023年4月 フノリ開口
春の海の恵み

多様な海藻の宝庫
 沼尻海岸には、多様な海藻が群生している。どれほどの種類の海藻があるのだろうか。2007年に谷口和也先生(東北大教授・当時)の指導を受けて、大谷中学校の生徒たちが海藻調査を行った。谷口先生は「磯焼け」研究の第一人者としても知られている。

2007年5月 第1回海藻調査
2007年5月 第1回海藻調査

 その後、何回かの調査を行い、47種類の海藻を採取した。褐藻類(ワカメ、マツモなど)19種、紅藻類(アカバ、エゴノリなど)23種、緑藻類(アオノリ、ミルなど)4種、海草(スガモ)1種である。
 谷口先生によると、親潮と黒潮が合流する場所であることから、この海岸は寒流帯と暖流帯に生息する海藻の両方があり、推定で100から120種の海藻があるかもしれないという。それを確認するためにも調査を継続したいと考えている。海藻の種類については以下参照。
(千葉大学海洋バイオシステム研究センター『海藻・海草標本図鑑』)
http://chibadai.flier.jp/algae/algae/htm/image.htm

 海藻の多くは潮間帯(大潮の時には海面下になるが,干潮時には海面上に現れる場所)に生えている。そして、潮間帯の高さによって生える海藻が異なる。
 海藻調査では、その高さによってどのような海藻が生えるのか実験も行った。まず岩面に着床している海藻や貝をすべて削ぎ落とす。

 そして、2年後。3種類の海藻がはっきりと層を作って復元していた。海藻は身近な存在でありながら、その生態は実はよく知られていない。沼尻海岸は、海藻の生態研究には適した場所でもある。残念ながら、谷口先生が亡くなられて、この研究も中断したままになっている。


(おまけ)ワカメの色はなぜ変わる?

 海に生えているワカメは褐色。 ところが、湯に通すと、鮮やかな緑色に変化する。 なぜ、このように色が変わるのだろうか。

 ワカメやヒジキなどの褐藻は、赤い色素(フコキサンチン)と緑の色素(クロロフィル)の両方がある。熱が加わると、赤のフコキサンチンの色が変化してしまい、熱に強いクロロフィルの緑の色が現れるというわけだ。 

出典:https://www.kaneryo.co.jp/media/seaweed/1884/

 海藻は、このような色の変化をみせる。そして前述したように、褐藻、紅藻、緑藻と多彩な色を持つ。そのカラフルさを作り出しているのが、いろいろな色素だ。色素それぞれには興味深い特質があり、海藻の生態を知る手がかりともなる。詳しくはこちらのページで。
https://museum.suisan-shinkou.or.jp/guide/labyrinth-of-seaweed/729/
https://bsj.or.jp/jpn/general/research/02.php



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