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《続》海外で起こったNFT関連トラブルから学ぶ、NFTの権利と契約―RAF, Inc. v. Damon Dash事件の経過をちょっと詳しく追ってみる—

【はじに】

 今回は、前回の記事の中で紹介したRAF, Inc. v. Damon Dash事件(以下「本件」)について、提訴後の経過をより詳しく追ってみたいと思います。

【前回記事のおさらい】

 本件は、Jay-Zのアルバム「Reasonable Doubt」に関する著作権その他の権利を保有する会社であるRoc-A-Fella Records, Inc.(以下「RAF社」)が、RAF社の株主の一人であるDamon Dash氏が「Reasonable Doubt」の著作権をNFT化してオークションで販売しようとしているなどと主張し、「Reasonable Doubt」に係る利益の売却等の差止めなどを求めて、2021年6月18日に訴えを提起した事案です。

 この事件では、Dash氏が当初NFTを出品しようとしていたNFTマーケットプレイス「SuperFarm」による以下のアナウンスが一つの発端となっているようです(訴状より一部抜粋)。

この新たに作成されたNFTは、当該アルバムの著作権を保有することを証明し、当該アルバムから将来生じる全ての収益に係る権利をDamon Dash氏から落札者に移転します。

(以上、訴えに至る経緯につき、より詳しくは前回記事を参照)。

【そのの経過】

 裁判所は、2021年6月22日、Dash氏に対し、「Reasonable Doubt」に係るあらゆる財産的利益につき、売却その他の処分をしてはならないという仮差止命令 (Temporary Restraining Order) をするとともに、同月25日までに反論書を提出するよう指示しました。

 そして、Dash氏は、2021年6月25日に反論書を提出し、大要以下のように主張しました。
① Dash氏は、自らが1/3を保有するRAF社の株式 ("his 1/3rd interest in RAF") を売却しようとしていたのであり、「Reasonable Doubt」の著作権を売却しようとしていたのではない(なお、NFTもまだ作成していない)。
② Dash氏が上記株式について売却その他の処分をすることは、RAF社によって何ら制約されるものではないから、RAF社の請求には理由がない。
③ SuperFarmによるアナウンスの内容は、Dash氏の意思とは異なる。Dash氏は、SuperFarmに対し、Dash氏が直接又は間接に「Reasonable Doubt」の著作権を100%保有しているとか、当該著作権に基づいてNFTを作成したいなどと述べたことはない。

 その後、RAF社とDash氏は、前記仮差止命令の内容を限定することを合意しました。すなわち、Dash氏が、自ら保有するRAF社株式 (1/3) について売却その他の処分をすることは、適用される法令に従う限り、同命令によって禁止されないとすることに合意しました。
 そして、2021年7月1日、裁判所もそのとおり命令を発しました。

 これまでの主な経過は概ね以上のとおりです。
 現在も訴訟は続いています。今後は、Dash氏が、RAF社の株式ではなく「Reasonable Doubt」の著作権をNFTとして売却するなどのおそれがあるかなどについて、主張・立証が行われていくものと思われます。

【注目すべきポイント】

 NFTを取り扱うみなさんが本件から学ぶべきポイントは2つあると思います。

 1つは、前回記事の繰り返しになりますが、「何をNFTとして取引するのか」を明確に認識して各種取引活動を行うことです。これは、出品者、購入者、NFTマーケットプレイス運営事業者それぞれの立場から同じことが言えます。
 Dash氏の主張を見れば分かるように、本件のトラブルは、Dash氏が売却しようとしていたものがSuperFarmに適切に伝わっていなかったこと、あるいはSuperFarmがそれをうまく表現できなかったことなどにより、正確性を欠くアナウンスをしてしまったことが大きな発端の一つになっていると推測されます。各プレイヤーのコミュニケーションがポイントですね。

 もう1つ注目すべきなのは、仮にDash氏の言うとおり、Dash氏が出品しようとしていたNFTがRAF社の株式(の1/3)であるとすれば、Securities Law(日本でいう金融商品取引法等の金融・証券規制)の問題が生じないかという点です。本件で裁判所がこの点について判断することはないかもしれませんが、たとえば訴訟外で問題点として浮上するかもしれません。NFTと金融規制の関係について、引き続き本件の経過に注目していくと良さそうです。

以上

■自己紹介■
関 真也(せきまさや) 弁護士・ニューヨーク州弁護士
関真也法律事務所 代表。第一東京弁護士会所属。
※ お問い合わせはリンク先のお問合せフォームからお願い致します。

漫画、アニメ、映画、ゲーム、音楽などのコンテンツやファッションに加え、XR (VR/AR/MR)、VTuber、NFT、eSports、AI・データなど、コンテンツやファッションとテクノロジーが関わる分野を中心に、知財問題、契約、紛争、新規事業の適法性チェックなどを多く取り扱っています。
東海大学総合社会科学研究所客員講師、東京工業大学非常勤講師(担当科目:技術移転と知財)、日本女子大学非常勤講師(担当科目:ファッションロー入門〈仮称〉)その他大学講師等を歴任。
㈱KADOKAWA経営企画局知財法務部担当部長(2016~2017)。南カリフォルニア大学ロースクール修了 (LL.M., Entertainment Law Certificate, Honor Society of Phi Kappa Phi) / 東大データサイエンススクール(事業実務者コース)修了。日本知財学会事務局、コンテンツ・マネジメント分科会幹事、ブランド・経営分科会幹事 / ファッションビジネス学会ファッションロー研究部会長 / 一般社団法人XRコンソーシアム社会的課題WG座長など。
著作権法学会 / 工業所有権法学会 / 日本バーチャルリアリティ学会 会員。
主な著書・論文は、「ファッションロー」(共著、勁草書房)、「『触覚・味覚・嗅覚コンテンツ』の著作権保護を巡る考察」ビジネス法務21巻6号48頁(2021年6月21日)、「AR広告を巡る利益調整と法規制」ビジネス法務21巻6号60頁(2021年6月21日)、「バーチャルリアリティその他人間の能力等を拡張する技術と著作権」知財管理71巻2号167頁(2021年2月20日)、「一問一答:今、社員周知したい テレワーク・会議のデジタル化に伴う著作権法の問題点」ビジネス法務21巻2号65頁(2020年12月21日)、「著作権法による建築デザインの保護とバーチャルリアリティ空間その他コンテンツ内利用ー米国法の議論を参考にー」日本知財学会誌17巻2号29頁(2020年11月20日)、「拡張現実(AR)を巡る著作権法上の問題に関する基礎的考察」日本知財学会誌15巻3号5頁(2019年3月)、「AR領域における商標の使用ー拡張現実技術を用いた新たな使用態様を巡る現行法上の課題ー」日本知財学会誌14巻3号28頁(2018年3月)など。
」知財管理71巻2号167頁(2021年2月20日)、「一問一答:今、社員周知したい テレワーク・会議のデジタル化に伴う著作権法の問題点」ビジネス法務21巻2号65頁(2020年12月21日)、「著作権法による建築デザインの保護とバーチャルリアリティ空間その他コンテンツ内利用ー米国法の議論を参考にー」日本知財学会誌17巻2号29頁(2020年11月20日)、「拡張現実(AR)を巡る著作権法上の問題に関する基礎的考察」日本知財学会誌15巻3号5頁(2019年3月)、「AR領域における商標の使用ー拡張現実技術を用いた新たな使用態様を巡る現行法上の課題ー」日本知財学会誌14巻3号28頁(2018年3月)など。

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