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キャラクターってどれくらい似てると権利侵害なの?(#1 「複製」かどうかの区別)

【キーワード】

著作権 キャラクター イラスト 人物画 複製

本判決:東京地判平成11年7月23日(平成10年(ワ)第29546号)

【事案の概要】

 原告はイラストレーターであり、下記「本件著作物」を含む映画宣伝用のチラシを著作した。
 被告は、下記「被告イラストレーション」を使用したタレント等の新人オーディションの広告を雑誌に掲載した。

 原告は、被告イラストレーションは本件著作物の複製権を侵害していると主張し、被告イラストレーションの使用差止めを求めた。

図3

画像出典:本判決別紙目録より。

【争点】

 被告イラストレーションは本件著作物の複製か否か。

【裁判所の判断】

以下のとおり複製に当たらないと判断し、請求棄却
※以下の太字強調・加筆は筆者が付加しました。

    「著作物の複製とは、既存の著作物に依拠し、その内容及び形式を覚知させるに足りるもの、すなわち、実質的に同一のものを再製することをいう。」

    「被告イラストレーションは、本件著作物とは、顔の輪郭の上半部が円形であること、目の形状が銀杏の実のような形状で、瞳が大きく描かれていること、鼻が口に近い位置に配置されていること、片手を前、もう一方
の手を後ろにし、足はこれと左右逆であること、バッグを肩から後ろへ向かって掛けていることが共通
する。しかし、本件著作物と被告イラストレーションとでは、顔のうち、その同一性を左右する主要な部分について(注:筆者作成の後掲「対比・相違点まとめ」の図表参照)のとおり違いがあるから、右のような共通する点があるとしても、顔について同一性を認めることはできず、また、顔以外の部分にも、(注:同上)のとおり違いがある。したがって、本件著作物と被告イラストレーションの同一性を認めることはできない。」

    「よって、その余の点について判断するまでもなく、被告イラストレーションが本件著作物の複製であるとは認められない。」

図4

【ちょっとしたコメント】

 著作権侵害が成立するかどうかを区別する際には、まず、他人の著作物の創作的な表現を利用しているかどうかが基準となります。人物、動物などのイラスト、アバターなどを描く際にも、例えば、「人間を描くなら誰が描いてもこうなる」という部分をトレースしたとしても、そこには創作性がないため、著作権を侵害する「複製」にはなりません。
 本件のように人物のイラストを描く場合、顔の構成要素(目、鼻、口、耳など)が共通する場合が多いため、イラストの表現上の創作性は、各構成要素の位置関係や細かい描き方などの細部に宿ることが多いといえそうです。

 本判決も、(どの部分が本件著作物のうち創作的な表現といえる部分なのかは明示していないものの)丸い顔に大きな目、バッグを持って走っている姿といった全体的な印象から来る共通点を重視するのではなく、細かな表現を対比して、複製であること(=実質的に同一であること)を否定した事例であるといえます。
 なお、本件では、原告が翻案権侵害を主張していないため、その成否は判断されていません(イメージ的には、複製権は実質的に同一である場合に成立するのに対し、翻案権は同一とはいえなくても類似であれば成立します。つまり、複製権侵害は成立しなくとも、類似といえればなお翻案権侵害は成立する余地がある点に注意が必要です。いずれの場合も、他人の著作物の創作的な表現を利用することが必要です。)。

 いかがでしたか?
 VRアバターを含めて、イラストやキャラクターを制作される際の参考になれば幸いです。今後も、この「キャラクター・イラストの知的財産保護」シリーズを続けていこうと思っていますので、ぜひご覧下さいね!
 「これはどうなってる?」というようなリクエストもお待ちしております!

■自己紹介■
関 真也(せきまさや) 弁護士・ニューヨーク州弁護士
関真也法律事務所 代表。第一東京弁護士会所属。
※ お問い合わせはリンク先のお問合せフォームからお願い致します。
漫画、アニメ、映画、ゲーム、音楽などのコンテンツやファッションに加え、VR/AR/VTuber、AIなどコンテンツ・ファッションとテクノロジーが関わる分野を中心に、知財問題、契約、紛争、新規事業の適法性チェックなどを多く取り扱う。
東海大学総合社会科学研究所客員講師(現職)。このほか、東京工業大学非常勤講師(担当科目:技術移転と知財)、津田塾大学非常勤講師(担当科目:知的財産概論)その他大学講師等を歴任。知的財産管理技能検定 技能検定委員。
㈱KADOKAWA経営企画局知財法務部担当部長(2016~2017)。南カリフォルニア大学ロースクール修了 (LL.M., Entertainment Law Certificate, Honor Society of Phi Kappa Phi) / 東大データサイエンススクール(事業実務者コース)修了。日本知財学会事務局、コンテンツ・マネジメント分科会幹事、ブランド・経営分科会幹事 / ファッションビジネス学会ファッションロー研究部会長など。
著作権法学会 / 工業所有権法学会 / 日本バーチャルリアリティ学会 会員。
主な著書・論文に「ファッションロー」(共著、勁草書房)のほか、以下のものがある。
【コンテンツ・VR/AR関係】
著作権法による建築デザインの保護とバーチャルリアリティ空間その他コンテンツ内利用―米国法の議論を参考に―」(日本知財学会誌、2020)、「著作権法も改正 知的財産にまつわる注意点(特集:クリエイターが知っておきたいバーチャル表現の基礎知識と倫理観)」(月刊ブレーン2020年10月号)、「拡張現実(AR)を巡る著作権法上の問題に関する基礎的考察」(日本知財学会誌、2019)、「AR領域における商標の使用―拡張現実技術を用いた新たな使用態様を巡る現行法上の課題―」(日本知財学会誌、2018)、「いかなる場合にパブリシティ権は表現の自由に優越するか:米国における近時のビデオゲーム関連判決を参考に」(パテント68巻7号、2015年)、「【連載】令和2年著作権法改正のポイントと実務への影響」(BUSINESS LAWYERS、2020年)など。
【ファッション関係】
ファッション業界における新型コロナウイルス感染症を巡る契約書対応(不可抗力条項)」(BUSINESS LAWYERS、2020年)、「ニューフロンティアとしてのファッションロー」(法学セミナー 778号40頁 )、「アパレルデザインの不正競争防止法2条1項3号による保護―『流行』の生成プロセスから見た商品形態の実質的同一性の捉え方の検討―」(特許研究68号、2019年)、「ファッションデザインの「美的特性」と「表現上の本質的な特徴」の探究―著作権法による保護の可否と範囲―」 (感性工学17巻2号、2019年)、「Star Athletica事件合衆国最高裁判決:実用品のデザインに用いられる美術的特徴が保護適格性を有するか否か(分離可能性)を判断する基準~日本の著作権法における応用美術の保護への示唆~」(AIPPI 62巻9号、2017年)、「米国知的財産法によるファッション・デザイン保護の現状と課題 (1)(2)」 (AIPPI62巻1号・2号、2017年)など。
Twitter : @MsekiCom
note@masayaseki

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